193.分断の糸
後方をアリアドネ、側面をウッサーと久美子たちに任せたからには、俺は前の敵を一匹でも多く屠らなければならない。
「グッ!」
大蜘蛛どもが爆発するのも構わずに、俺はとにかく前へ前へと斬り込んでいく。
ようは倒す速度を上げることだ。
爆発した時には、次の大蜘蛛を斬っていれば爆発には巻き込まれない。
一人で先行した俺は辺り構わず、次々に大蜘蛛どもをなぎ倒していった。
やはり単独行動のほうが俺にはあってるな。
――シュルルルルッ!
「チッ」
腕に絡まった糸を振りほどく。
爆発する蜘蛛だけでなく、動きを遅くする糸を吐く蜘蛛も混ざっている。
だが、こんな小手先の技に構うものか。
こいつらも全部ぶち殺してやればいい!
蜘蛛を斬りし続けて、俺は狭い通路を抜けて大広間へと躍り出た。
同時に、待ち構えていた蜘蛛達が俺の通ってきた、細い通路を塞いでいく。
「これが狙いか」
誘われている感じは受けていたがな。
道を塞ぎやがった蜘蛛は斬り殺したが、俺はどうやら分断されてしまったようだ。
「……待っていたぞ」
「誰だ?」
「貴様がこの世界の王、真城ワタルだな。まんまと罠にハマってくれたわ!」
現れたのは十四階層のボス蜘蛛、アラクネー。
八本足の蜘蛛の身体に女性型の人間の胴体が付いている。
しかし、その姿はゲームで見たものよりもより禍々しく変貌していた。
なんか尾っぽに、サソリの毒針みたいなのが付いているし、全体的にゴツゴツと強化されている。
「お前、アラクネーじゃないな」
「おや、気がついたか。わからぬようにしていたのだが、どちらにしろもう遅いぞ」
無表情に人間の胴体をだらりとさせるアラクネーを操っているのは、アラクネーに取り付いている半透明の男であった。
そりゃ、階層ボスの部屋から思いっきり出てきているし、俺の名前を知っているのだからこのゲームのボスではあるまい。
何よりアラクネーは女性型なのに、声が男だからな。
「お前も、洞主によって異世界から召喚されたモンスターだな」
「モンスターとは酷い言い草だ。私は、元の世界では霊王デシートとして君臨した、高貴な存在なのだぞ」
「そうかよ!」
分断されたこの状況で、このまま時間稼ぎされても困る。
おしゃべりは終わりだと、俺はアラクネーもどきに斬りかかっていく。
尾っぽから、毒針がミサイルのように飛んで俺の目の前で爆発したが、その程度では動じない。
肉を切らせて骨を断つ!
ダメージを受けても、それで敵に致命傷を与えればいい。
俺の孤絶の長い刃は、アラクネーの急所である腹に深々と突き刺さった。
「フハハハハ!」
腹を真っ二つにされて、生きていられないはずのアラクネーがまったく動じずに、俺に太い足を振り回して攻撃してくる。
「チッ」
合わせて刀を引き抜いて後ろに下がる。
一歩でも遅ければ、武器は取られていた。
戦闘の際、俺はいつも荷物を軽くするためにリュックサックを落として戦う。
だから予備の武器はこの場にはない。
長期戦になれば不利だ。
俺は、勝ち誇る敵に向かって更に孤絶を振るった。
胴体に攻撃が効かないのならば、操っている霊王デシートを直接狙う。
しかし、俺の攻撃を避けようとしないのもそのはずだった。
半透明の身体には、刀の攻撃は通用しない。
「最終 炎 飛翔!」
「炎の攻撃など無駄だ!」
やはり霊体なのか。
確かめる意味ではなった炎球だが、アラクネーの胴体にはダメージを与えても、霊王デシートには通用しない。
「通常攻撃は通じない。私には斬られる身体がそもそも存在しないのだから」
霊王デシートの力なのか、腹を斬り裂いた上で炎球焼いてやったアラクネーの胴体が見る見るうちに回復していく。
「冥土の土産に教えてやろう。私が憑依することで、その生物の身体を成長、進化させていくことができる。真城ワタル、強い貴様は私が使う素体としてはちょうどいい。貴様を倒した後で、その身体を乗っ取ってやろう」
「冗談じゃない!」
正面の敵を相手をしないわけにはいかないから攻撃はするのだが、本体である霊体を倒さない限り、何度でも回復され続けるようだ。
唯一、霊体にダメージを与えられる霊刀は、分断された前の部屋にある。
さてどうする。
久々のピンチに、俺は孤絶の柄を強く握りしめた。
拙著「酷幻想をアイテムチートで生き抜く」六巻発売(11/30)を記念して
11月は4週に渡っておまけ更新(とボツラフ画公開)をやってますので、そちらの方もぜひよろしくお願いします!
次回11/19(日)、更新予定です。