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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第三部『ジェノサイド・リアリティーⅡ リロード・オブ・ジ・エクスプローラー』
189/223

189.経験の差

 漆黒の武将、鴉丸叢雲からすまそううんは絶対の自信を持って斬り込んでくる。

 刀身が青光する叢雲むらくもの剣の一撃を、俺は正面から受け止めた。


「クッ!」


 鴉丸が息を吐く。

 それは、一瞬のこと。


 開閉式の鉄の扉がゆっくりと鴉丸の頭の上に落下してくる。

 力の限り俺を押し退けて、叢雲むらくもの剣をひねるようにして斬り上げた。


 高速で円弧を描く、青い軌跡。

 一旦引くか、そのまま前に進むか。


 己の剣に自信を持っていた鴉丸は、その瞬間の判断で前に進むことを選んでしまった。

 更に速度を上げて振るう一閃は、落ちてくる鉄の扉ごと俺を斬り裂くはずであった。


 だがっ、ガッと音を立てて、鉄の扉に剣が引っかかってしまう。

 そうなのだ。その扉はただの鉄ではない、破壊不能オブジェクト。


 たとえ鴉丸がどんな名手であり、叢雲むらくもがどれほどの名刀であろうとも、斬り刻むことはできない。


「なんだと――」


 敵がここで前に出るか、後ろに退くかは賭けだったが、どうやら俺は賭けに勝ったようだ。

 鴉丸は、ほんの刹那の迷いのあとに後ろに退こうとしたがもう遅い。


 俺は孤絶ソリチュードの刃を鴉丸の胸に突き刺す。

 その硬い鎧ごと撃ち抜く。


 心の臓を斬り潰したという手応えとともに、素早く刃を引き抜く。

 ゆっくりと鴉丸の身体が前に倒れて、がガガガッと音を立てて降りてきた鉄の扉がその身体を押しつぶした。


 硬い鎧は鉄の門でも潰せないが、倒れたその身体から噴き出した血の赤が床に広がった。


「お館様!」


 後ろから、サムライ達の悲鳴。

 俺は、また開閉式のボタンを押して、ゆっくりと扉を開ける。


 もしかすると、まだ鴉丸は死んでいないかもしれないが、ここで絶対に回復の隙は与えない。

 後ろからは、鴉丸衆以上の敵の集団が二つ迫ってきている。


「ここで、全員死んでもらうぞ」


 俺が飛び込んで、手近のサムライを構えた刀ごと一刀両断して叩き切った。


「真城殿、後はお任せおぉぉおお!」


 叫びながら、俺の横に滑り込んで来たのはリチャードのおっさんだった。

 パンパンと左手の銃で、訛の弾を敵に浴びせながら、狂獣の剣(ガロード・ソード)を振るって迫りくるニンジャを斬り払った。


「みんな何やってんの、私達もやるわよ!」


 リリィナの部隊が、続けて飛び込んで来て、サムライやニンジャ達と戦う。

 実力はやや敵のほうが上だが、こちらには飛び道具があり数に勝るのと、最初に大将を落としたのが聞いたのかすぐにこちらが優勢になる。


 俺は、目の前のサムライを二人ほど斬り殺すと、戦いの趨勢を見極めて下がる。


「おっさん。あとは、任せる」

「ハッ!」


 リチャード中尉もリリィナも、やるべきことをきちっとやってくれるのは助かる。

 おっさんなどは、常に先頭で格上の敵と戦うことで、すでに精鋭の兵士達より強くなっている。


 三ランク、いや五ランクは成長してるな。

 急速なランクアップでマスターランクを上がっているのを見れば、少し羨ましくなる。


 おっさんの動きが生き生きしている。

 さぞかし楽しいことだろう。


 俺は扉のところで倒れている鴉丸叢雲からすまそううんの手から叢雲むらくもの剣を拾うと、その剣で首を断ち切った。

 まるでバターでも切るかのように、断ち切れる。


 恐ろしいほどの切れ味。

 これは、自信を持つはずだ。


 それこそが、この男の敗因となった。

 鞘まで拾っている時間はない。


 すでに迫ってきている後ろからの脅威に対処するため俺は、後ろへと駆ける。

 そこでは、すでに死闘が始まっていた。


 きらめく黄金の甲冑を身に着けた騎士王シーザリオンと、アリアドネが火花をちらして斬り結んでいる。


「女ごときが余に逆らうか!」


 騎士王シーザリオンが振るう薄暗い迷宮でもやたら神々しく光る黄金の剣は、アリアドネの振るうエクスカリバーをも圧倒している。

 しかし、なぜアリアドネは扉の前に立ちながらその優位を生かさない。


 そう思った、その時――

 横に一閃したアリアドネの剣がダンジョンの開閉ボタンに触れた。


 同時にパンッと、アリアドネがシーザリオンの剣に弾き飛ばされて、押し倒される。


「――ああッ」


 思わず声を上げそうになる。

 しかし、それこそがアリアドネの策だった。


 騎士王シーザリオンは、太陽のような宝剣を大上段に掲げて、下がってくる鉄の扉で引っかかってしまった。


「なんだ、と!」


 そこを、アリアドネはエクスカリバーで一突き。

 騎士王シーザリオンは、自らの胸に突き刺さった聖剣エクスカリバーを掴み、信じられぬという表情で倒れた。


 騎士王を倒したものの、アリアドネは倒れた状態だ。

 俺は、すぐカバーに入って、アリアドネを飛び越えて、騎士王が倒れたことでざわつく騎士達に斬り込んでいく。


「よくやった、アリアドネ。後は俺がやる!」


 ――思えば、なるほどだ。

 アリアドネは、ギリギリまで敵をひきつけてから、扉を下ろしたのだ。


 半ば運任せに鴉丸とやりあった俺とはまるで違う。

 確実性の高いやり方は、律儀なアリアドネらしい戦い方。


 長大な野太刀である孤絶ソリチュードと、普通の長さの叢雲むらくもの剣。

 久しぶりに二刀流の切れ味を楽しみながら、俺は周りの騎士達をぶっ倒していく。


「ご主人様、助太刀いたします!」


 騎士王シーザリオンの使っていた神々しい太陽の剣を奪って、アリアドネも聖剣エクスカリバーと同時に二刀剣術だ。

 面白い、俺はアリアドネと背中合わせになって剣を振るう。


 俺とアリアドネがこうして戦えば、いかに相手がマスタークラスの騎士の集団であろうと敵ではない。

 瞬く間に、敵すべてを全滅させた。


「……済まなかったな」

「はい?」


「アリアドネは、騎士道にこだわっていただろう。こんな不意打ちのような真似をさせてしまった」


 勝つためならどんな手段でも使う俺とは違い、騎士であるアリアドネは卑怯な真似は嫌いだったはずだ。

 アリアドネは、くすりと笑う。


「そのことですか。確かに私には騎士のこだわりがありますが、それより大事なものができました。ここは、死に場所ではありません。騎士にあるまじき真似をしても、生き残らなければならない所です」


 そう言って俺に笑いかけるアリアドネは、敵の血に塗れても美しかった。

 こいつも成長しているのだなと思う。


 その時、奥の部屋からウッサー達の悲鳴が聞こえた。

 おそらく武闘家集団に押し切られたのだろう。あっちが、三方の敵で一番強かったからな。


「ご主人様」

「ああ、行くぞ」


 言われるまでもない、あいつらを倒せば終わりだ。

次回10/22(日)、更新予定です。

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