184.肉の中心へ
肉の海へと到達した俺は、高速を超えた超高速で刀を振るう。
竜人女王ヴイーヴルに教わった最終の極み、今の俺ならばそれを更に超えたにスピードを出せる!
あまりにも速く、空気との摩擦熱のためか振るうたびに刀身が燃え上がる。
ゾンビの肉は炎に弱い。
「ほのおのげんだど!」
何度も和葉に焼かれて死んだトラウマがあるのか、下から御鏡竜二のくぐもった悲鳴が聞こえる。
俺は、全力で刀を振るう。
――千、二千、三千!
ギーンと轟くような大音量が鳴り始めた。
刹那の速度に振り続ける刀は、超音速に達してソニックブームを発生させる。
衝撃波は、やすやすとゾンビスライム肉を弾き飛ばしていく。
斬り裂いて下に進むたびに、だんだんと御鏡の叫び声がハッキリ聞こえてきた。
もうすぐ、追いつく。
「逃げられるものなら、逃げてみろよ!」
逃げようとしても、俺の刃はそれよりも早くお前に届く。
さらに深く斬り込んでいくと、御鏡の本体に刀がかすったのか悲鳴が響いた。
「ぎゃあぁぁ!」
同時に、ついに地の底に足がつく。
慌てた御鏡は、肉の槍を大量に飛ばしてくるが、それでお前の位置がバレてんだよ。
「そこだ!」
俺は肉の槍衾を斬り抜けて、側面の肉に刀を振るうと、さらに大きな悲鳴が上がった。
「なんでぇぇ!」
あのまま出てこなければ中層街ごと潰せたかもしれないのに、お前が油断してしゃしゃり出てきたからだ。
そのまま側面を斬り刻むと、ついに醜く膨れ上がった御鏡の本体が姿を現す。
その焼けただれた顔を見れば、和葉の攻撃も意味があったようだ。
すぐに止めを刺してやる。
「追いついたぞ、化け物め!」
「ぼぐは、ばげものじゃない!」
そうだな、お前は人間だった。
化物の姿のままなら、隙は見えなかったのにな。
今頃になって、圧殺すればいいと考えたのか津波のごとく周りの肉の壁が押し寄せてくる。
だが、遅い!
今さらそんなもので俺が止められるか。
「最終 炎 飛翔!」
俺の左手から放たれた業火の炎に、肉の壁は遮られた。
その間に、俺の右手は流れるように動き、一刀で御鏡の両目を潰す。
「ぎゃあ!」
次の一刀で、ズンッと頭を突き刺すと重い手応えがあった。
バシャンと水音を立てて、周りの肉壁が崩れ落ちる。
そうか、やはり人間の脳に相当する頭の中身が核だったか。
人から化物となったモジャ頭は、その身に人間としての弱点を残していた。
「そんな……ばかな……」
「もう一度地獄へ帰れ、御鏡!」
さらに渾身の力を込めた一刀で、御鏡の核を粉々に打ち砕く。
「もういやだぁ、あぞごは、げほ、あぇ、あがえげぇ……」
御鏡竜二だったものは、バタバタとあがき、もはや人間の言葉にならない怨嗟を上げながらドロリと溶けていった。
同時にゾンビスライム肉も、ヘドロのような小さな塊を残して消えていった。
次回9/17(日)、更新予定です。