182.御鏡竜二だったもの
「ゲホッ、このがらだは、しゃべりにくいね」
口からダラダラと青い液体を吐き出して、人の形を持ったゾンビスライムの塊がしゃべりはじめる。
「本当に御鏡竜二なのか」
「そうだよ真城くん。ようやく、しゃべりやすくなってきたな。人と話すのも久しぶりだぁ」
そうやって、不気味にニッと笑う姿は、出来損ないの泥人形にしか見えないが。
その言葉はやけに理知的だ。
「おい御鏡、お前は黄泉帰ったのか?」
黄泉からの復活。
そうできないように死体を焼き尽くしたのだが、それならここにまた現れるのはわからなくもない。
「黄泉帰り? 違うよ。僕が飛ばされた場所はもっと酷い場所だった。そこは、暗い何もない空気もない何もない世界だったんだ……」
また恨み言が始まった。
黄泉からの復活ではなく、もっと違う世界からの復活らしい。
「異次元世界みたいなものか。バグの世界のような」
「そうだよ。僕はそこでどうしようもなかったから、とにかく手当たり次第触れるものを全部飲み込んだんだ。苦しかったぞ」
おそらく異次元世界みたいなものなのだろう。ゲームで言えば、バグの世界みたいなものか。
ジェノサイド・リアリティーⅡの設定から考えるに、次元転移装置「ゾロアリング」だとは予想できる。
蘇生と言うよりは、御鏡のいう異次元からこの世界に転送されたのだろう。
しかし、一体誰がこんな厄介な男を、上階のアンデッドが言っていた洞主というやつか。
まったくこいつは、殺しても殺しても切りがない。
だが今は、会話を回すことだ。
こっちに注意を引き付ける必要がある。
「それにしたって、味方まで飲み込むとは、いい度胸じゃねえか」
「味方? ダンジョンの雑魚モンスターなんて、僕の味方じゃない。取り込まれて僕の力となる餌だ」
全てを喰らい飲み込む。
無茶苦茶だが、御鏡の変異した種族ゾンビスライムならばそれはできる。
こいつは、異次元でバグを飲み込んで、こんなにおかしな化物になったのか。
さっきから中層街の壁がギシギシとなっている。
かなり強く設定されてはいるが、街の外壁は破壊不能オブジェクトではない。
おそらく扉の部分が一番持たない。
リリィナの部下達が、閉じた扉を必死に押さえてるが、あそこが破られれば中層街は終わりだ。
味方も喰らい、敵も喰らい、この中層街そのものすらも御鏡は喰らおうとしている。
とんだ大飯喰らいだ。
「苦しかったけど、君に勝ちたい一心で僕は喰らい続けたんだ。そうして、今こうして君を遥かに凌駕する存在となった。ランクが最強なんてもう関係ないんだ! 僕に飲み込まれて思い知るがいい、僕こそが最強だ!」
脳が腐ったのは一度消滅したことで治ったようだが。
その腐った性根までは治ってないようだ。
「またそれか、俺を飲み込めるもんなら飲み込んでみろ、モジャ頭!」
孤絶の刀身を引き抜き、外壁に身を乗り出して誘ってやる。
そうだもっとこっちに近づけ、この手の巨大生物の倒し方は核を潰すことしかない。
おそらく、モジャ頭がこのビッグゾンビスライムの核なのだろう。
本体さえ潰せば、おそらくこの莫大な肉の塊は死滅する。
「御鏡くん! こっちをみなさい!」
誰かと思えば、俺がモジャ頭を挑発する横から、竜胆和葉がビュンと飛び出して天高く飛翔した。
あいつ、自分が囮になるつもりか?
それとも、なにか効果的な攻撃方法を考えついたのか?
他の奴ならともかく、ガソリンをたくさん用意していた和葉なら、何か手立てがあるかもしれない。
もし危なそうならすぐに出ると心構えをしながら、俺は目の前の戦闘に目を凝らした。
次回9/3(日)、更新予定です。
新作始めましたので良かったら見てくださいね。
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