179.中層街
そして、俺達は共に地下十階、中層街へと降り立った。
ここは階層全体が大きな洞穴となっている。
どういうシステムになっているのか、天井はまるで昼間のように明るい。
そして、高い壁に囲まれた街が空間の真ん中に存在する。
リリィナ達、特殊部隊の精鋭達は、整然と静かに進軍して中層街の門に取り付くと扉を開いた。
ここまで罠はなしか。
リリィナ達が先行しているので、俺達は警戒しながらゆっくりと後ろをついていく。
「入り口クリア!」
「道具屋方面、クリア!」
最初から、そのような計画だったのだろう。
リリィナ達は、小隊に分かれて次々と街をクリアリングしていく。
「武器屋方面、クリア!」
「大尉、宿屋方面もクリアです!」
次々と街のエリアを支配下に収めていって、街の向こうの門で全てクリアリングすると、リリィナもホッとした顔を見せた。
「街の中に伏兵の姿は無いか?」
「無いみたいね」
俺はジッとリリィナの様子を見ているが、さすがにここで完全に気を抜いたりはしないか。
ホッとした瞬間が、敵が襲ってくる一番のタイミングだからな。
「じゃあ、俺達のほうでも、隠密で隠れてる敵がいないか調べよう」
「よろしく。私達は続いて、ベースキャンプの設営と上からくる増援の受け入れ準備をするわ」
俺のランクは限界突破しているが、俺の仲間達も最高に近いランクになっている。
いくら強敵が多いジェノサイド・リアリティーⅡの下層モンスターといっても、俺達がチェックして隠密を見抜けないわけがない。
「これは、本当にいないのか」
「真城の考えすぎだったんじゃねェの」
前髪の一房の白髪をいじってる仁村にまで言われてしまう始末だ。
「俺の考えすぎだったらいいんだけどな」
地下十一階以降の下層には、まだ強敵がうじゃうじゃいるはずで、ここで襲撃が無いことのほうが不自然なのだ。
高い壁に囲まれて防衛に適した中層街を、俺達冒険者にむざむざと明け渡す意味がわからない。
「俺ァもう休ませてもらっていいか。さすがにクッタクタだぜェ」
「俺達の分は宿屋を開けてくれるそうだから、仁村達はもう休んでいいぞ」
「あァ、久しぶりにベッドで休めるぜェ。真城も、休めるときに休んどいたほうがいいんじゃねェの?」
「それは、そうだな」
そう言いながら、どうも釈然としない俺にリチャード中尉も言う。
「仁村殿の言うとおりかと思います。襲撃があるとしても、壁に囲まれている街の中ならばすぐには襲われますまい」
「なァ大将、敵なんか来たら、やっつけりゃいいだけだろォよ。気ィ張ってるといざって時使い物にならねェって言ったの真城じゃんかァ」
「わかった。俺も休むよ」
あんまり言われるので、宿屋で本格的に休むことにした。
そうは言っても、念のために宿屋とその周辺の建物は、隠し部屋などがないかも調べて置かなければ安心できない。
たとえこちらにわからない手段で街に伏兵が潜んでいたとしても、いつでも即応できるようにはしておこう。
そうして、宿屋で休んでいても何も起こらなかった。
半日も過ごしていると、街の中に特殊部隊のベースキャンプが立ち並んでいる。
どうやら上の街から、中層街に後続部隊もやってきたようだ。
その中に、黛京華の姿もあった。
「なんだ、お前も来たのか。上の街の見張りはどうした?」
「だってみんな下に行くっていうじゃない。私一人残って殺されたらどうするのよ!」
わざとらしく自分の体を抱いて、肩を震わせて京華がそう言うと、仁村まで「そうだそうだ」と騒ぎ始めた。
仁村はこの女に惚れてるからな。
「あーわかった。別にそれは構わないから、ギャーギャー騒ぐな」
どうせジェノサイド・リアリティーⅡをクリアするまで外には出られないのだ。
今さら上の街を監視する意味はほとんどない。
これからは中層街を起点にしていくのだから、ここにいても問題はないか。
しかし、何か引っかかる。
弱い連中まで、こうして地下十階の街まで全員がおびき寄せられてしまったのはどうだ。
安全な高い壁に囲まれていても、やはりこれが罠なのではないかと言う悪い予感を俺は押さえきれない。
今少し、街の外も探索して調べてみるか。
俺がそんなことを考えている時。
「敵襲だ!」
街の見張り櫓に立っていた兵士の叫ぶ声が、街に響き渡ったのだった。
次回8/13(日)、更新予定です。