176.つかの間の休息
地下四階を制圧して、地下五階に下るところでおっさんがリリィナ達に連絡するといいだした。
「構いませんか?」
「すでにこの階層にモンスターはすでにいないようだから、まあいいだろう。そろそろ一息入れようと思っていたところだ」
通信機で、おっさんが連絡を試みている。
俺達は、地下五階の入り口にある泉で水分補給をして、軽く食事し始めた。
ダンジョンでは食べられるときに食べ、休める時に休んでおかなければならない。
しばらくして、リリィナに繋がったらしくおっさんは何やら話し込んでいたが、俺にも変われとデカいトランシーバーのようなものを渡された。
最新の科学兵器を持っている米軍でも、通信機にあんまり進歩はないらしい。
「電話変わったぞ。なんか用か?」
「あんたたち、まだ地下五階なんですってね。ふっふー、聞いて驚きなさい。こっちはもう地下八階まで進んでるのよ!」
「こっちが、地下四階に集まっていた伏兵を潰した話をおっさんに聞かなかったのか?」
すでに俺達が地下五階、六階の雑魚モンスターを倒し済みなのだから、進みやすいのは当たり前だ。
ただ、そう考えてもすでに地下八階まで進んでる攻略のスピードは速すぎるな。
自慢したくなる気持ちもわからなくもないが、だからこそ危うくも感じる。
敵の誘いじゃないのか。
「そっちが足踏みしてる間に、こっちは地下十階まで一気に攻略するからね!」
ジェノサイド・リアリティーⅡには、地中に街のなかった前作とは違って、地下十階に中層街がある。
そこまで一気に攻略して、地下十階の街で補給するつもりなのだろう。
「おい、リリィナ! こっちの話を聞いてるのか。伏兵が居たってことは、敵は挟み撃ちにしてくるつもりだったということだ。まんまと罠にハマるつもりか?」
地下十階の中層街まで攻略を進めて、そこを拠点とするのが一番効率的にはなる。
誰でもそう考えるのだから、敵の襲撃があるとすればそこが一番狙われやすいポイントになる。
ちなみに、地下十階には宿屋などの補給施設もあるが、そこが安全圏というわけではない。
更に下層のモンスターが、地下十階の街に侵攻してくることもある。
街の施設などを使って防戦するのもやりやすい場所だが、だからこそ事前に街に伏兵を潜ませておくなど。
待ち伏せなどの可能性が高いように思える。
「敵が地下十階に罠を仕掛けているなら、私達はそれも踏みつぶして前に進むわ!」
「わかった、勝手にしろ」
もう再三の忠告はした。
ここまで言ったんだからリリィナ達だって多少は注意して進むだろう。
これでまんまと敵の伏兵に不意打ちされるようなバカなら、もうどうしようもない。
「リチャード中尉には、中層街に本営を移すように依頼したから、後続の部下達が追いついてきたらよろしくね」
そう一方的に言って、リリィナの通信がプツリと切れた。
やれやれだな。
「おい、おっさん。上の街から戦闘力の低い一般兵士を呼び寄せるって本気なのかよ?」
「中層街だけでは、補給できぬ物資もあるからでしょう。通路はすでに安全だからと言っておりました」
「リリィナ達精鋭が襲撃されれば、弱い一般兵士はより危険になるな」
「できる限り注意して、ゆっくり進むように命じます」
まあ、おっさんができる抵抗はそのぐらいか。
おっさん達はリリィナの部下だから、命じられれば避けられない。
後から降りてくる一般兵士の都合を考えれば、むしろリリィナ達が早く襲撃されればいいとすら思ってしまう。
思わぬ強敵と相対して痛い目を見れば、ああいう舐めた態度を取らなくなるはずだ。
「よし、みんな食事も済んだし、三時間だけ仮眠を取ることにするぞ」
「え、このまま進まないのですか?」
おっさんが驚いたように言う。
「なんだ、リリィナの救援にでも行って欲しいのか?」
「それは……」
俺も少しは考えたけどな。
「おっさん、もうボロボロだろ?」
「いえ、こう見えても未開の砂漠を三日三晩行軍した経験もあります。これしきのことはなんともありません!」
ジェノリアには、確かに回復ポーションがある。
それでスタミナやヘルスを一時的に回復はできるが、それで神経の疲れや眠気まで取れるわけではないのだ。
宝石の効果で眠気を誤魔化すにも、限界がある。
そんなに気丈に振る舞ってみせても、ずっと緊張を強いられていたおっさんはさっきから辛そうにしているのに気がついていた。
もう限界なのはわかってるんだよ。
「俺はもう疲れたから休む。悪いことは言わないから、おっさんも休んでおけ」
「私一人で行くといっても、無駄死になるだけですな。ここは致し方ないのでしょうね……」
こちらの忠告も聞かず無理な進軍を続けるリリィナ達が襲撃を受けるとしたら、それは自業自得だ。
そこまで面倒は見きれない。
「このまま俺達まで無理に進軍すれば、ヘトヘトに疲れ果てた時に強敵と当たることになるかもしれん」
それだけは、絶対に避けたい。
このまま俺達が無理にリリィナ達を追いかけても、万全の態勢で当たれなければ共倒れになってしまう可能性もある。
「では、三時間だけ……」
そういうと、おっさんはその場にがっくりと膝をついた。
やはり疲労が深いのだろう。
こっちの荷物にも、人数分の寝袋ぐらいはある。
「おっさん、これを使え」
俺はおっさんにも寝袋を投げ渡してやる。
さて、俺の寝床なのだが。
振り返ると、すでに和葉がダンジョンの一角に敷物をたくさん敷き詰めていた。
いわゆる褥ってやつだ。
どっからこんな大量の布団を持ってきたんだ。
本当に和葉は、準備が良すぎる。
「真城くんはここね」
ポンポンと和葉が手を叩くところにスルッと、久美子とウッサーとアリアドネが囲む。
この真ん中が俺の寝床だ。
「ああ、わかったよ」
和葉に誘われれば、俺は断りようがない。
俺が大人しく和葉の膝下に寝そべると、他の三人は押し合いへし合いで俺に横で眠ろうとする。
「えっと、私も一緒に……」
「ダメデス」
佐敷絵菜もこっちに来ようとしていたようだが、ウッサー達の争いに負けて撥ね退けられてしまったらしい。
結局、絵菜は、真藤愛彩や立花澪と一緒に寝るようだ。
ダンジョンに入っても、結局はいつもどおりか。
何気なく目をやると、俺の手前で木崎と瀬木が顔を見合わせて、苦笑いしながら横になるところだった。
「これが、迷宮流の仮眠ですか。これは、男やもめには目に毒ですな」
目を閉じて眠りかけたときに、そんなおっさんのつぶやきが聞こえた。
俺だって好きでやってるわけじゃないんだよ。
そんなことはいいから、さっさとおっさんも眠っておけ。
俺は心でそう悪態ついて、目を閉じて意識をシャットアウトした。
次回7/23(日)、更新予定です。
さて、「ジェノサイド・リアリティー 異世界迷宮を最強チートで勝ち抜く」 (GA文庫)がいよいよ発売しました。
おかげさまで、7月14日付ツタヤデイリーランキングのライトノベルジャンルで2位!
7月15日付では4位と、順調な滑り出しを見せてます。
皆様のご愛顧、感謝感激です。
まだお読みでない方は、ぜひこの三連休にお買い求めくだされば幸いです。
第一巻出版記念最終回! ということで第三回は小道具と顔イラストの資料集です。
ポーション瓶がいかにもゲームな雰囲気で出るのがいいです。
武器もリアリティーがあって、みんなカッコイイですね!
主人公、真城ワタルの顔イラストです!
ちょっと反抗的なところが性格に合ってるなと思いまして、無造作なBの髪型になりました。
主人公の唯一の親友、瀬木くんの顔イラストです。
男の子のはずだけど(?)、凄く可愛いくていいですw
七海修一の顔です。
主人公のライバルでもある完璧超人ですね。
ライバルだけど、敵というわけでもないのですが、主人公との本格的な衝突は2巻になると思います。
佐敷絵菜の顔イラストです。
作者の想像よりずっと可愛くてびっくりしました、WEB版では活躍の機会がイマイチありませんでしたが、書籍版では目立てるかもしれません。
絵菜と同じく、WEB版ではあんまり目立てなかった澪ですが、やっぱり可愛いです!
こうなると出番を増やしたくなるので。
書籍版では、もっと目立つチャンスが取れるかもしれません。
竜胆和葉も、ほんと可愛くなってます!
1巻でも結構いいポジションにつけていた和葉ですが、2巻ではさらにメインのシーンもあります。
いまからどうなるか楽しみです。
出版記念イラストの最後の締めくくりは、道具屋のNPC店員です。
WEB版の街にはNPCがいませんでしたが、書籍版の街にはNPCが存在します。
書籍版はちょっと違うストーリー展開もあるかも? という象徴的なキャラにもなってます。
今後、どうなっていくのか作者も楽しみです。
WEB版とともに、書籍版「ジェノサイド・リアリティー」も末永く頑張ってきますので、皆様今後ともよろしくお願いします!