175.骸骨君主
俺の目の前のアイアンゴーレムを、横から入ったウッサーがドカッと蹴りあげてくれる。
久美子も、忍刀を引きぬいてデーモンの喉元を斬り裂いた。
「旦那様、ここはワタシ達がやっとくデス!」
「ちょっと、それは私のセリフよ。ワタルくん、私に任せてくれていいから!」
「喧嘩すんな、任せたぞ」
この程度の雑魚なら、最上級師範のウッサーが率いる兎人族の武闘家集団が相手をすれば問題無いだろう。
俺は後ろで倒れているおっさんのところに戻った。
「ご主人様、リチャード中尉殿は、まだ息がありますよ」
俺達が目の前の敵をなぎ払っている間に、アリアドネがヘルスポーションで治療してくれたらしい。
そうか、それなら回復するか……。
まだ死んでないのを見て、俺は少し安心した。
おっさんのランクでは、これからの戦いで生き残れるかどうかは微妙なところだった。
軍人が、自ら前に立って戦うことを選んだのだ。
死んだとしても、それはおっさんの責任なのだが……。
そうだな。
五十四にもなったおっさんが教え子のために死に物狂いで戦うのを見て、ただの軍人が弱いなりにモンスター相手に創意工夫して強く成長しようとしているのを見て。
俺は、その先が見たくなったのだ。
「ゲフッ、ゲフッ……」
無事にヘルスポーションで息を吹き返したおっさんが、激しく咳き込む。
「おっさん、苦しくても吐かずに飲み込め!」
そりゃ、息を吹き返した途端に水薬を飲むのは苦しいだろう。
飲み薬でヘルスが回復するというのも大変だ。
だが、これにも慣れてもらわないといけない。
俺は背中をさすってやる。
「ガハッ、ガハッ……面目ない」
「いや、よく生きてた。命さえ無事なら、攻撃はいくら受けても回復する。これが迷宮の戦いだ」
「急所を避けて受けるのもありということですか?」
「そのとおりだ。致命傷だけ避ければ、仲間が回復させてくれる」
人間には即死する急所が結構ある。
胸に斬撃を受けたおっさんの場合だと、心臓を潰されていたらアウトだった。
最終ランクのヘルスポーションで全回復できるといっても、一撃死だけは避けなければならないのだ。
この先、こんな危険はいくらでもあるだろう。
おっさんがこれ以上先に進むつもりなら、ジェノサイド・リアリティー特有の戦闘感覚に慣れてもらわなければならない。
「一撃死さえしなければ、それも経験にはなるだろう。惜しくも逃してしまったが、おっさんが囮になってくれたおかげで有効打を浴びせることができた」
「……次は、同じ失敗を繰り返しません。今一度、チャンスをいただきたい」
タフだな。
死にかけたというのに、起き上がって剣を構えたおっさんは、まだ闘志を失っていない。
「期待している」
俺達も、グレートデーモンとアイアンゴーレムの群れを潰す戦いに加わった。
こいつらを全て潰さないことには、階層ボスと再戦できない。
※※※
「ハァ……やっと終わったー、デスね」
「まだボスが残ってるけどな」
周りにはグレートデーモンとアイアンゴーレムの死体が積み重なっている。
こいつらは、別段特殊な攻撃をしてるわけではない与し易い敵だが、無尽蔵とも思えるヘルスを誇るモンスターでもある。
それが、俺達の二十倍以上の数がひしめき合っていたところを潰しながら通ってきたのだ。
さすがのウッサーも息も上がるというものだった。
俺はといえば、時間がかかりすぎてしまったことが気がかりだった。
いい戦闘訓練の相手ではあったのだが、時間稼ぎをされているようにも感じる。
一応、自分のランクを携帯用の神託版で調べてみたが、突破者から動いてはなかった。
やはり、この程度の相手では俺は上がらんか。
一方で、おっさんは戦士ランクを中級師範にまで上げている。
おまけに、言われたとおり魔法も訓練しているのか、僧侶ランクも見習者まで上げていた。
元から低ランクのおっさんや、育ちきっていないウッサー達にはまだ大きな伸びしろがある。
この戦闘も無駄ではない。
これから先を進むには、ランクを成長させるのも必要な過程ではあるだろう。
俺達は、階層ボスの部屋の大きな扉を開ける。
「クカカカ、やっときたか大太刀の剣士よ!」
歯をカタカタと鳴らして、骨の玉座に座る骸骨君主が高笑いを上げる。
「こっちのセリフだ。逃げやがって」
あとは、骨の馬に乗った骸骨騎士が十数騎。
もはや問題にもならない数だ。
「ヌウ、そちらの剣士。殺せなかったのか」
小器用にも、スケルトンの口元を悔しそうに歪めてみせる。
こう見るとやけに人間らしい表情をするアンデッドのボスだ。
話をする気ならば、さっき気になった情報の探りを入れてみる。
「骸骨君主、お前を操っている洞主とは誰のことだ」
「さあてな」
「男か、女か?」
「クカカカカカカ! それは、私を倒して聞き出すがいいわ!」
不愉快な笑い声を上げながら骸骨君主が、まっすぐ俺に向かって緋骨の大剣で斬りかかってくる。
結局は戦闘となるか。
周りでは、ウッサー達が骸骨騎士と戦闘している。
ノコギリのような刃を持つ緋骨の大剣が、俺の持つ孤絶と火花を散らす。
そして、まるで先ほどの戦いを再現するかのごとく、俺に攻撃してくると見せかけておっさんへと斬りかかった!
「ヌウッ!?」
「ぐぁああああ!」
獣の叫びを上げるおっさんは、自らの左腕を犠牲にして緋骨の大剣の斬撃を止めた。
そうして、そのまま狂獣の肩当を骸骨君主の胸にぶちかます!
まるで、地下三階のボス狂獣の騎士の技を写し取ったような、ショルダーアタック。
見事だ。
「――よくやった!」
俺は、まったく無防備になった骸骨君主の腰骨を鎧ごと両断する。
ガシャッと音を立てて、骸骨君主の身体が崩れた。
まったく、おっさんはよくやってくれた。
同じ失敗をしないと言っていたのであえて任せたが、予想以上のいい仕事だ。
周りでは、骸骨騎士も制圧されていく。
地下五階、六階のモンスターを下した俺達に、地下四階のアンデッドなど敵ではない。
「私の、負けか。敵の一人も殺せずに終わるとは、洞主様に顔向けができぬ」
「さあ、倒したら洞主のことを話してくれるんだろう」
そのために、頭を潰さずに残しているのだ。
「仕方ない。先程、貴様は男か女かと尋ねたが、洞主様は、我らと同じ不死なる者だ……」
「アンデッド?」
骸骨君主の命が尽きかけているのか、声がどんどんと小さくなっていく。
思わず近づいて前のめりになる。
「……そうだ、不死なる我らを殺せると思うな。ここで私が敗れても、洞主様が倒れぬ限り我らは――」
そこで、床に崩れ落ちている骸骨君主の、骸骨の奥の赤い目がギラッと光った。
俺は、反射的にそこに減術師の外套をかぶせた。
その瞬間に、大きな爆発が起こった。
炸裂音が響き、減殺効果のあるマントがブワッと膨れ上がる。
「……なんと、自爆ですか?」
「チッ、まったく。これでは防具も武器も取れない」
砕けた鎧はともかく、緋骨の大剣は使える武器だと思ったのだが。
自爆した骸骨君主は武器もろとも、マントの下で粉々になっていた。
もちろんゲームのときのジェノサイド・リアリティーⅡでは、ボスの自爆などありえなかった。
「これはいよいよ、ゲームのシナリオ通りに進まなくなったと見ていい」
骸骨君主の言うことが正しければ、洞主様とかいう司令塔がモンスターどもに知恵を付けているのだ。
その存在がアンデッドというのならば、今回のラスボスは設定上の狂騒神とは違うと考えた方がいいだろう。
俺の言葉に、ボスを倒して安堵していたおっさんの顔が引き締まった。
先に進んでいるリリィナ達も、危ういかもしれない。
さて、いよいよジェノサイド・リアリティー 異世界迷宮を最強チートで勝ち抜く (GA文庫)
第一巻の発売日が近づいてきました(来週の7月15日です)
試し読み版なども公開されています。
中身をいち早く読んでみたい方はぜひ↓のバナーから御覧ください。
出版を記念しまして恒例のイラスト公開ということで、第二回は表紙にもなっているウッサーの詳細と幻のラフ表紙絵です。
ウッサーの詳細です。
ちゃんとスカートのところに、白い尻尾が出る穴が開いてるんですね。
(おそらく下着にも開いてると思いますw)
飾りも凝ってて可愛らしいです!
幻のラフ表紙絵。
ウッサーが表紙に決まって、こういう囚われた表紙はどうかというラフ案だったのですが……ちょっと攻めすぎということでw
でも凄くいい構図なので、口絵のほうに採用されることとなりました。
どうなったのかは、ぜひ買って確認してみてください!
次回7月16日の更新では、小道具やその他のキャラクターの資料を公開したいと思います!