174.伏兵
地下四階の階段を降り立ってみる。
ひんやりとした空気。
地下四階が死霊達のゾーンとなっていることは、ジェノサイド・リアリティーⅡでも変わらない。
ここは本来、死霊の群れが襲いかかってくる階層になっているのだが……。
「やけに静かだな」
雑魚敵も姿を表さないとはどういうことか。
「不気味ですね……」
リチャード中尉の顔が曇る。
いるはずの敵がいなくなってホッとしない辺りは、さすがベテラン軍人だ。
「いなくなったわけじゃないだろうからな」
俺が注意を飛ばさなくても、通路の角を曲がるたび、扉を開けるたび。
みんな細心の注意を払って進む。
地下四階もなかほどにきて、ようやく敵が姿を表した。
「むしろ敵が出てきてくれるとホッとするもんだ」
「しかし! あの数は……」
死霊系の敵は、奥の大広間に固まっていた。
地下四階の大洞穴と呼ばれるゾーンをびっしりと敵が埋めている。
いや、地下四階の敵だけではない。
地下五階、地下六階あたりのモンスター集団の姿も遠方に見える。
先頭に見えるのは骨だけになった馬の群れ。
驚いた。
先頭にいるのは、巨大な骨馬にまたがった地下四階の階層ボスであるはずの骸骨君主だ。
それに率いられるようにして、これまた骨の馬に騎乗した骸骨騎士の一軍が並ぶ。
ボスがこんなところまで出てきているのがすでに定石を外しているが、スケルトンの騎馬部隊が相手か。
その後ろには、幽霊や死肉喰らい、ゾンビや死霊のようなアンデッドの雑魚も、うじゃうじゃと群れている。
その総数は迷宮の暗闇に隠れて窺い知れないが、百や二百では済まない。
なんでこんなにまとまってるんだ。
「指揮系統があるようにみえる。まるで軍隊だな」
「敵はこちらに気がついているはずですよね? ここまで近づいてもこちらに攻撃を仕掛けてこないとは」
……かえって不気味だな。
静かに佇むアンデッドの軍団は、まるで命令を待っているという印象を受けた。
これまでのモンスターにはない動きだ。
「まあいいさ。どっちにしろ雑魚の群れだ。多数を相手にした戦闘訓練をやるにはちょうどいい」
「まさか、あそこに突っ込むのですか。引きつけてから、敵を分断して倒すべきでは?」
軍隊の兵法だとそうなるんだろうが。
「まあ俺達のやり方を見ていろ。怖いなら後ろに下がっていてもいいが?」
「いえ、お伴します」
「ならいい。みんなわかってるな、まず雑魚の焼却をやるぞ!」
俺の合図で、ウッサー達が大量の群れに向かって炎球で焼却にかかる。
死霊系の雑兵ゾンビなどは、これで燃えてしまう。
「最終 放散 電光 飛翔」
俺は最終の電撃の魔法を放つ。
凄絶なる光は、すべてを一瞬にして焼き尽くす。
炎では燃えない敵もいるが、電撃と炎を組み合わせればだいたいの群れは切り崩せる。
撃ち放ってみて霊体まで倒せたのには少し驚いた。
ジェノリアの霊体モンスターは、通常では僧侶の祈りか、実態を持たない敵に効く対霊魔法か対霊攻撃でしか倒せないのだが。
最終の電撃ともなると、その光の帯が生み出す電磁波で霊体が吹き飛んでしまうらしい。
まあ理屈などどうでもいいか。
まとまっていてくれたほうが却ってありがたかったというわけだ。
範囲魔法でアンデッドの雑魚を一掃できたのは、かなり都合がよかった。
「これが魔法なのですか。聞いていた情報とはぜんぜん違う、まるで戦術レーザー兵器のようですが」
これが、最終クラスの攻撃魔法なのだ。
「雑魚を片付けるには、銃よりも魔法のほうが便利だろ?」
「威力に違いがありすぎますね」
さすがにここまでやられて、敵も黙ってはいない。
生き残りが、こっちに向かって動き始めた。
「さてここまでやって残った敵は手強いぞ。おっさんもすでにマスタークラスの戦士だ。戦力として期待してる」
「ハッ!」
俺は上官じゃないから、敬礼はしなくていいよ。
俺は苦笑しつつ背中から孤絶を引きぬいて、敵の群れへと向かった。
最初に銃を水平射撃したおっさんだが、すぐに剣の攻撃に切り替えた。
魔剣の呪いの効果か、「ぐおぉぉおお」と絶叫しながら狂獣の剣を骸骨騎士に叩きつける。
良い判断だ。
骨だけの骸骨騎士には、魔法や飛び道具が効きづらい。
銃など撃っても着ている鎧に穴が開くだけで、弾が骨の隙間を抜けてしまうからほとんど効果がない。
こういう敵は、腕力で叩き潰すしか無いのだ。
俺は孤絶を振るって、骨の騎士どもを馬ごと斬り崩していく。
明らかに指揮系統のトップにいるのは、骸骨君主という血に染まった緋色の甲冑に身を包んだ階層ボスである。
俺は、大将の首を目指して斬り崩していく。
群れの遠方にいる骸骨君主が不気味な緋骨の大剣を振り上げると、ギギギギッと軋んだ音を立てた。
それを合図に、骨騎士どもが俺に向かって全力で特攻を仕掛けてくるが――
「甘い!」
骨騎士ごときに囲まれても、孤絶を一閃すればいいだけだ。
孤絶の硬さに対して、骸骨の着ている鎧もあまりにも脆かった。
育ちきっている俺の経験値とするには、まだ負荷が全然足りない。
もっとだ、もっとかかってこい!
俺は全身を刃そのものと化して、驟雨のように次々とぶち当たってくる骨騎士の群れを叩き潰し続けた。
「ハァ……」
俺の間近で付いてきていたおっさんの疲労の色が濃い。
狂獣の剣の呪いのせいで、ギャーギャー叫びながら剣を振るってるので息が上がるのも仕方ない。
「おっさん無理するな。そろそろ後ろに回って、スタミナを回復しとけ」
俺が敵を肩代わりしてやると、おっさんが後ろでスタミナポーションを飲み干した。
「クッ、面目ない!」
申し訳なさそうにする必要などない。
「みんなもペース配分して、適度に回復入れとけよ。こんな相手に無理しすぎても意味はないからな」
ウッサー達からも「はい!」と、返答が帰ってきた。
まあ、こんな上位階層程度のモンスター相手なら俺は補給なしでもいけるが、こんなところで無駄に命を危険に晒す必要はない。
一心不乱に骨騎士どもを倒し続けると、ようやく骸骨君主が顔を見せた。
骨をカタカタと鳴らしながら、まっすぐ俺に向かって緋骨の大剣で斬りかかってくる。
怒涛の乱撃が襲い、孤絶の刃とぶつかり合って火花を散らす。
機械的に突っ込んでくる雑魚モンスターとは一味違う動き。
まるでノコギリのような刃を持つ緋骨の大剣が、俺ではなく直ぐ近くにいたおっさんを狙ったのに驚く。
しまった、最初から狙いは俺ではなくおっさんか。
「おっさん、下がれ――」
間に合わない、骸骨騎士の相手で精一杯のおっさんが斬られる。
殺らせるかよ!
俺は後ろから骸骨君主の腰骨を斬り払う。
骸骨君主の身体は、その勢いで馬から転げ落ちた。
「クカカッ、取ったぞ!」
床にガシャリと崩れ落ちた骸骨君主は、骨をカタカタと鳴らして笑い出した。
こいつ、しゃべれたのか。
「――クソが」
緋骨が原料とはいえ、孤絶と打ち合えるほどの硬度を持った刃だ。
最新技術の防護服ですら、ズタズタに斬り裂かれて胸が血に染まっていた。
死んでいなければ、ヘルスポーションで回復できる。
今俺がやるべきは、目の前の敵を全て屠ること。
俺は瞬時に周りの骸骨騎士どもを叩き潰して、落馬した骸骨君主にも斬りかかった。
無理な体勢にもかかわらず、骸骨騎士は俺の剣を受けてみせる。
腐っても階層ボスか。
「クカカカッ、弱い部分を狙うのはあたりまえよな!」
「骸骨風情が減らず口を!」
だから集団戦は嫌なんだよ。
ずっと一人で戦うことを選んできた俺は、仲間をカバーして戦うのに慣れていない。
「怒ったか、大太刀の剣士! それでこそよ。ここで貴様の仲間を一人でも二人でも潰せねば、洞主様に顔向けができぬわ!」
「洞主様だと、それは狂騒神のことか?」
「……貴様は、本当に何も知らんのだな」
「なんだと!」
不愉快な笑い声を上げる骸骨君主は、骸骨の奥の赤い目を光らせる。
俺の剣筋を鈍らせるためのただのハッタリか?
だがこいつ、最初から何かを知っているような口ぶりだった。
もし何か知っているのなら、ここでこいつから情報を引き出さなくていいのか。
殺さずに捕らえて聞き出すか、そう考えてしまった。
その一瞬の躊躇をついて、再び飛び込んできた骸骨騎士達が、骸骨君主を引きずるようにして逃がす。
「また会おう、大太刀の剣士!」
「待て、骸骨君主!」
俺達があらかた倒した骸骨騎士の変わって、地下五階のアイアンゴーレムの群れと、地下六階のグレートデーモンの群れがウジャウジャとやってくる。
「チイッ」
どちらとも対して強くもないが、耐久力だけは凄まじくあるモンスター達が壁を作る。
斬り崩すには時間のかかる相手だ。
骸骨君主を乗せた骨馬は、瞬く間にその壁の後ろに消えていった。
次回7/2(日)、更新予定です。
さて、いよいよ7月15日!
ジェノサイド・リアリティー 異世界迷宮を最強チートで勝ち抜く (GA文庫)
第一巻が出版されます(ドンドンパフパフ―! 効果音)!
出版を記念しまして恒例のイラスト公開ということで、第一回は九条久美子の資料集です。
久美子の顔イラストですね。
これは可愛い!
久美子の制服姿です。
なるほど、こんな制服だったのかーと思いました。
胸元のリボンが可愛らしいですね。胸はないですがw
こっちが戦闘服ですね。
一巻の段階では、返り血を浴びたくないので槍系の武器を使ってます。
そのうち忍者武器を使うようになります!
次回更新では、ウッサーの資料を公開したいと思います!