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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第三部『ジェノサイド・リアリティーⅡ リロード・オブ・ジ・エクスプローラー』
172/223

172.立ち向かう覚悟

 リリィナは精鋭部隊を率いて急いで攻略に向かうらしく、落とし穴をロープでスルスルと降りて地下四階に降りていった。

 俺達は、順当にこのまま進んで地下三階のボスを倒す。


「あの分だとリリィナ達は、地下四階のボスもスルーしてショートカットで五階に向かうんだろうな」

「なぜ、わざわざ順当なルートを進むのですか?」


 ふん、俺を試してくるような質問だな。

 それはちょっと気に食わなかったので、リチャード中尉の質問に俺は答えず、質問で返してみる。


「おっさんは、なぜだと思う?」

「挟み撃ちの危険を避けるためでしょうか。私が敵なら、攻略者が落とし穴を使ってショートカットすることを予想して、地下三階か地下四階に伏兵を置くでしょう」


「そして、地下五階に下りたリリィナの部隊を後背から襲って挟み撃ちにするか。それが兵法だよな」


 さすがはベテランの軍人だ。

 おっさんはよくわかってるじゃねえか。


 その危険を避けるために、俺は全部潰していくルートを取るのだ。

 なぜリリィナ達には、その単純な兵法がわからないのだろうという疑問がある。


「リリィナ大尉達は、まだ若いですから。異世界攻略のエリート教育では、座学よりも戦闘能力のほうが優先されました」

「実戦経験もないようだしな」


 頭でっかちでも困るが、兵法すら知らない脳筋も困る。

 リリィナには、知識や経験がかけている。


 言ってしまえば、アイツはまだガキだからな。

 俺との共闘を求めたかと思えば、部下達から熱く自分達だけで行けると叫ばれて、ふらふらと意見を変える。


 その場の雰囲気や情動に流されやすい。

 それをサポートするためにおっさん達がいるのに、相手が大人だと反発して忠告をを聞き入れないのだから処置なしだ。


 俺もガキのお守りはゴメンだから好きにすればいいが。

 俺達は、もはや雑魚でしかない黒の騎士(ブラック・デスナイト)を軽く潰しながら進む。


 リチャード中尉は、ポツリとつぶやいた。


「実は、プランCが存在するのです」

「何の話だ」


「先程、真城殿がリリィナ大尉におっしゃったでしょう。プランBでも対処出来ない事態が起きた場合のことです」

「ふん。やはり攻略不能だった時を想定したプランがあったんだな」


 リリィナみたいな素人臭い連中とは違い。

 超大国の作戦本部なら、あらゆる事態に想定するプランを立てておくはずだと思った。


「プランCでは、我々生き残った幹部将校が一切の資料を破棄して、この作戦自体をなかったことにします。プランBの失敗とは詰まるところ、リリィナ大尉ら精鋭の全滅です」

「切り捨てか」


「ええ、常道から考えたら絶対に許されぬ作戦ですが、ここは異世界ですから。プランBが失敗した段階で、我々は現地政府。つまり真城殿に救援を要請して良いとなっています」

「なるほどな。あんなわからず屋の連中を助けてやる義理もないし、おっさんもあいつらには愛想が尽きただろう」


 あれだけボロクソに言われたなら、俺ならもう勝手にしろと放っておく。

 責任を感じているようだが、おっさんもそうしたらいいんだ。


「いえ、彼らは幼い頃より歪んだエリート教育を受けた被害者なのです。痩せても枯れても、私はアメリカ合衆国の軍人です。大統領令まで出てしまっている以上、どんな非道な命令でも絶対逆らえません。……ですが、私は彼ら幼年兵より後に死ぬつもりはない!」

「なんだおっさん、死ぬつもりで来たのか?」


「私の命が、彼らが救われる礎になればと……」

「無駄だな。その程度の覚悟じゃ犬死するだけで終わる」


「しかし、私は軍務経験は長くとも、ダンジョン戦闘の専門家ではないのです。自らの力量不足は、理解しているつもりです」


 俺は、おっさんのステイタスを神託板で確認する。


『リチャード・アンダーソン 年齢:五十四歳 職業:ベテラン軍人 戦士ランク:専門家エキスパート 軽業師ランク:専門家エキスパート 僧侶ランク:初心者ニュービー 魔術師ランク:初心者ニュービー


 なるほど、お寒いステータスだ。

 さすがは熟練兵。戦士としてはかろうじて使えるところだが、いきなり強敵が出現するジェノサイド・リアリティーⅡではこれでも厳しい。


 魔法系にいたっては、まったくの初心者ニュービーで使い物にならない。

 しかし、ベテラン軍人なんて職業もあるんだな。


 ジェノサイド・リアリティーⅡは現代設定も混じったゲームだから、あってもおかしくないのだが。


「わかった。どこまでやれるか知らんが、俺がおっさんを育ててやろう。万能型に育てる時間はないから、戦士としてだな。魔法は灯りとヘルスポーションぐらいは作れるようになっておけ」

「育てるですと? しかし、私はもうこの歳ですよ。今さら成長など……」


「歳だからなんだというんだ。子供だって戦ってるんだろ」

「それは……」


 俺にそう言われて、おっさんはハッとして顔を上げた。


「子供が戦っているのに、経験豊かな軍人が戦えないというつもりか。最初から死ぬ気の兵士など何の役にもたたん。実際どうなるかはやってみなければわからんが、ダンジョンで生き残る努力ぐらいはしてみせろ。おっさんが強くなれば、幼年兵どもを救うこともできる」


 俺の言葉に、打ち震えるリチャード中尉。


「……真城殿、私が間違ってたようです。どうかご指導をお願いしたい」


 眼に生気が戻ってきたのはいい。

 さっきの顔じゃ、ここからの厳しい戦いでどうせ直ぐ死んでただろうからな。


「ふん、いい顔になったじゃねえか。だが、勘違いするなよ。俺はあんな勝手な連中を助けるつもりはない。助けたいなら、おっさんが自分で生き残ってやれ」

「了解しました」


 おっさんは、俺の前で堂々と敬礼する。

 面白い。


 俺は、地球のベテラン軍人がこの異世界ムンドゥスでどこまで戦えるのかに興味を持ったのだ。


「おっさん、俺の指導は厳しいぞ」

「私も、誇りある軍人です。覚悟はできております!」


「そうか、よし着いたな」


 俺は地下三階の奥底にある、大きな門を開ける。


「地下三階のボス、狂獣の騎士(ガロード・ナイト)ですね」

「じゃあまず、おっさん一人であいつと戦ってみろ」


「……ボスを、私一人でですか?」


 地下三階、獣の扉を開いた先に待ち受けるこの階層のボス。

 狂獣の騎士(ガロード・ナイト)


「ギィヨオオオオ!」


 奇っ怪な叫びを上げる狂獣の甲冑に身を包んだ騎士が、重たい具足を鳴らしながらこちらにゆっくりと歩いてくる。


「どんな手を使ってもいいから一人で殺ってみせろ。お前らも手を出すなよ。まずおっさんがどれぐらいやれるか見せてもらおう」

「了解しました!」


 専門家エキスパートランクのおっさんじゃとても倒せない強敵だが、だからこそだ。

 困難に立ち向かう覚悟を見せてもらおう。


 猛々しい叫びをあげる狂獣の騎士に向かって、意を決したおっさんはライフルを構えて突入していった。

次回6/25(日)、更新予定です。

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