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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第三部『ジェノサイド・リアリティーⅡ リロード・オブ・ジ・エクスプローラー』
168/223

168.ブラックジャケット

 ダンジョンの奥底から、黒の騎士(ブラック・デスナイト)の集団が現れる。

 Ⅰの時の強敵であったこいつらが、Ⅱでは最初のザコ敵として登場する。


 ジェノサイド・リアリティーⅡの難度の高さが知れようというものだった。


「予定通り来たわね」


 俺達に向かって、対ジェノサイド・リアリティー特殊攻略部隊ブラックジャケットの力を見せると豪語したリリィナ・ロードナイト。


「姫様、いつでもいけますぜ!」


 ドミニク一等曹長とかいったか、陽気な大男が大型のライフルを構えて叫ぶ。


「姫様って言うなって言ったでしょ! 全員戦闘配置につけ!」

「配置完了!」


「一斉掃射!」


 リリィナの合図で、黒の騎士(ブラック・デスナイト)に向かってダダダダダッと凄まじい一斉射撃が行われた。


「ハハハハッ、これがモンスターかよ!」「ヒャァー! 時代錯誤が剣を持って走ってやがるぜ!」


 陽気な叫び声を上げながら、先頭を行くドミニクに続く小隊が一斉掃射を行い。

 通路にいっぱいになった黒の騎士(ブラック・デスナイト)の群れを撃ち崩していく。


 硬い鎧をこうも簡単に粉々にするとは、自慢気に言うほどの事はあるか。


「貴方は今、普通の銃じゃないって思ったでしょう?」

「まあな……」


 いちいち俺の心の声を当てようとするなよ。

 しかも、ちょっと外れてるし。


「これが私達の持つ最新技術よ。硬い装甲を撃ち抜くための、タングステン超芯徹甲弾を使用してるのよ。最新鋭戦車の複合装甲を撃ちぬくことを想定してるわ」

「なるほど、考えてはいるんだな」


 一方的に自分達の手の内をペラペラとしゃべってしまうリリィナがちょっと心配になってくる。

 初めての戦闘に頬を染めて、高揚している様子だった。


 こいつらの用意している武器は、おそらくライフルだけってことはないだろう。

 しばらく俺達の出る幕はなさそうだ。


「フフッ、私達精鋭の出番はまだ先よ。上層階の攻略は一般兵卒に任せて、本部テントで司令任務につくけど貴方達はどうする?」

「そうか、じゃあ俺達は少し休んでおくか。街で補給もしなきゃだしな」


 俺がそう言うと、ウッサー達が意外そうな顔をした。

 こいつらを尖兵として利用するつもりなのだが、そんなに意外かな。


「旦那様、いいのデスか?」

「構わん。今のうちに街で戦闘の準備を整えるように伝えてくれ」


 十分に補給して、長期戦を覚悟しておく必要がある。

 どうせ前回と一緒で、ゲーム通りの攻略になるはずがない。


 相手の出方を探る、一番危険な任務をこいつらがやってくれるなら悪くない。

 本部テントとやらは司令機能があるらしく、各部隊の動きがモニタリングされている。


 兵士が見ている映像だけではなく、ステルス型ドローンや小型の無人偵察機なども送り込んでダンジョンの様子を明らかにしようとするものらしい。

 街に居ながらにして地下の全容が掴めるわけか。


 アメリカの潤沢な国家予算に飽かして創られた最新技術とやらは便利なものだ。

 さっきのライフルを派手に撃ちまくっているらしく。


 六十名程度の小隊から、さらに十名程度の分隊に分かれた兵士が縦横無尽に展開している。

 今は地下一階を突破して、地下二階に下ろうかというところだった。


「おい、真城ォ。このまま黙ってやらせてていいのかァ!」


 なんか仁村が激高しだした。


「なんだ仁村。そんなに攻略したいんなら、リリィナのなんとか部隊に入れてもらえよ」

「そういうことじゃねェ。ここは俺達のダンジョンだろうがァ! こんな連中に好きにさせていいのかって言ってんだァ!」


 だから、お前も好きにすればいいと言ってるだろうに。


「どうやら、彼は暇してるみたいね?」


 リリィナの揶揄にも、仁村はいきり立った。


「テメエはァ、さっきからゴチャゴチャよォ! いきなりやってきて勝手なこと言ってんじゃねえぞォ!」

「やれやれ、処置なしね」


 リリィナは、両手を広げるジェスチャーをした。


「ワタシも、ちょっと意外デスよ」

「ご主人様がこれほど勝手をやらせるとは、彼女にはご主人様が特別視する何かがあるのですか?」


 なんだ、お前らも。

 仁村じゃないけど、俺の方針にゴチャゴチャ言ってんじゃねえぞ。


「まあなんだ、こいつは仮にも高貴なる夜(ロードナイト)の娘だというからな……」


 ジェノサイド・リアリティーを作った天才的ゲームデザイナー高貴なる夜(ロードナイト)

 彼がいなければ、俺は今ここでこうしていない。


 俺が密かに憧れていた存在でもある。

 その娘がここにいるということに、俺は少し考えるところもあるのだ。


 蒼い瞳で俺の顔を覗き込むようにして、アリアドネが言う。


「彼女が人族の祭祀王の娘であるから、攻略の正統な権利を持っていると思われるのですか?」

「まあ、そんなとこだ」


 その正統なる祭祀王の地位を、俺が傍系のリスに継がせてる事を知ったらリリィナはメンツが潰れるだろうしな。

 先手を譲ってやるぐらいは構わんだろうという事もある。


「おい、俺はァ認めねえぞォ!」


 仁村がなんか言ってるが放っておこう。

 さっき京華にいい格好し損ねたので、暴れたりないだけだろう。


「ところでリリィナ、お前の父は元気にしてるのか?」

「父は、亡くなったわ。まだ一年も経ってない……」


 この憂い顔は、嘘はついてないように見える。

 そうか、高貴なる夜(ロードナイト)が亡くなったのか。


 早いとは思うが、すでに高齢ではあったから亡くなってもおかしくない歳ではあった。


「……それは、お悔やみ申し上げる」

「いえ、父が生きてたら、私がこうしてこの世界ムンドゥスに戻ることも許さなかったでしょうしね」


高貴なる夜(ロードナイト)は、リリィナが戻ることに反対していたのか?」

「ええ、危険だから止めろと最後まで言っていたわ」


 自らの私利私欲のために俺達をジェノサイド・リアリティーに送り込んだ、俺のクソオヤジとは大変な違いだ。


「それは、親不孝な事だな」

「貴方も一緒でしょ。実の父親と敵対しているって聞いたわよ?」


「まあな」


 そうか、高貴なる夜(ロードナイト)が死んだのか。

 俺が尋ねたのは、何も俺が高貴なる夜(ロードナイト)のファンだったからというだけでもない。


 今回の事件の黒幕がいるとすれば、ジェノサイド・リアリティーを創り上げた高貴なる夜(ロードナイト)その人ではないかと疑っていたからだ。

 しかし彼は、自分の娘が故郷である異世界ムンドゥスに戻ることを反対していた。


 そうして、すでに亡くなったということであれば、容疑者からは外すべきだろう。

 しかし彼以外に、神の化身である狂騒神(ロアリング・カオス)を操るなんて真似ができるものがいるだろうか。


「ねえ、真城。ちょっといいかしら」

「なんだ」


 今回の事件について、思索を巡らせていた俺にリリィナが尋ねる。


「あそこの納得言ってない彼と、うちのドミニク一等曹長を戦わせてみない?」

「なんだ、俺達とは争わないんじゃ無かったのか」


「そうじゃなくて、試合よ試合。さっきの激突が遺恨になっちゃダメでしょ」

「ほう、面白い余興だな」


 ドミニクという浅黒い大男と、仁村の戦士スキルはほぼ互角だ。

 どちらが勝つかは興味があるし、相手の手の内を探るいいチャンスだ。


「いいぜェ! 俺が勝ったらァ、二度とデカイつらすんじゃねえぞォ」

「仁村はやる気になってるみたいだから、そっち次第だな」


 リリィナの呼びかけに、ドミニクと言った浅黒い肌の大男が名乗りでてきた。


「大尉、俺も構いませんぜ。ジャッポーズのサムライ野郎とやってみるのも面白そうだ」

「いいわ、では飛び道具はなしね。近接戦闘で、参ったと言った方の負けにしましょう」


 地下一階の階段を下りて、仁村とドミニクの模擬戦となった。

 向かい合い、先に仕掛けたのはドミニクの方だった。


「ぬォ!」

「ほう、今のを受けたかサムライ」


 サバイバルナイフを引きぬいて斬りかかったドミニク。

 瞬時の出来事だったが、それを仁村はからくもエストックの刃の根本で受ける。


「誰がサムライだァ! 俺はフェンサーだァ、死んでも知らねえぞォ!」


 そのまま敵の攻撃を弾くと、聖銀のエストックで突き技を仕掛ける。

 仁村得意の三段突きだが――


「ここの武器は、この程度か」

「ああァ! 俺の渾身の一撃をォォ、そんなペラ紙で!?」


 黒いジャケットを脱いだドミニクは、それで聖銀のエストックを包んで奪ってしまった。

 慌てた仁村は、鋭い剣先で貫こうとするがまったく貫けない。


 周りから「どうしたサムライ!」と言った揶揄が上がっている。

 これ以上は恥の上塗りだな。


「仁村、そこまでだ」

「クソがァ!」


 しかし、こいつらは聖銀の剣先で貫けない服を創りだしたのか。


「私達の軍服は、迷宮のレア素材の鎧よりも硬いわよ」

「こんなペラペラな布が迷宮のレア防具より凄いのか?」


 リリィナは、得意げにあんまりない胸を張る。


「現代科学を舐めないで欲しいわね。この黒い軍服は、カーボンナノベルトという最新式のカーボン・ナノチューブでできてるの。束ねれば、軌道エレベータだって支えられる最高強度のナノチューブよ。そんな剣の攻撃で貫かれるわけがないじゃない」


「仁村、お前の負けだな」

「でもよォ!」


「フェンサーが突きを止められたら終いだろ。それによく見ろ、攻撃を受けた刃の根本が割れかけてるぞ。その大男の持ってるナイフの切れ味もただものじゃない」

「ああッ、俺の剣がァ!」


 一度目はなんとか受けられたが、あのままつばぜり合いをしてたら折られてたかもな。

 俺はむしろ防護服よりも、サバイバルナイフのほうに興味がある。


「さすが前ゲームの攻略者、よく見ぬいたわね。ドミニクが使ってるサバイバルナイフは、マルテンサイトという日本刀の切れ味となる炭素鋼の結晶を研究して作った超合金ナイフよ」


「ドミニクといったか、俺もちょっと相手をしてもらっていいか。その服とナイフ、ダメにしてしまうかもしれないが」

「へっ、やれるもんならやってみろよ。ジャッポーズが何人かかってきても。俺は止められねえさ!」


 よし、じゃあぶっ壊してもいいんだな。

 ゆっくりと孤絶ソリチュードを引きぬいて、剣先で自慢の炭素鋼とやらを断ち切ってみる。


 孤絶ソリチュードの刃に当たるとちゅんと音を立てて、次の瞬間にサバイバルナイフは粉々に砕けた。

 どうやら、強度はそれほどではないようだ。


「なんで、俺のナイフが! 何をやったサムライ!」


 棒立ちだったからたたっ斬ったのだけなのだが、どうやら速すぎて俺の斬撃が見えなかったようだ。

 この硬さと切れ味だと、だいたいアダマンタイト級の武器と言ったところかな。


「ほら、防御しなくていいのか?」

「クソッ!」


 続いて、ドミニクが構えるのを待ってカーボンナノベルトの軍服にも斬りつける。

 ギギッと重たい切れ味とともに、ぺろっと斬り落ちた。


 かなり硬い。

 この強度でこれだけ軽いなら、確かにかなり有効な装備ではある。


「一体どうなってんだ、今の斬られたのか? クソッ無敵の戦闘服のはずだろこれ!?」


 正面から斬りつけてやっても、ドミニクはまだ剣筋が見えなかったようだが。

 後ろから観察していたリリィナはちゃんと見えていたらしく、驚きの声を上げた。


「そんな、カーボンナノベルトスーツと超合金ナイフがこんなに簡単に斬れたっていうの!?」

「この孤絶ソリチュードは、ちょっと特別製でな」


「軌道エレベータだって支えられる強度なのよ!」

「その程度では、孤絶ソリチュードの刃は止められない」


 星をも砕く孤高の隕鉄なのだ。

 俺の腕があってのことだが、最新技術の素材にも当たり負けしない。


「大尉! 大変です」


 そこに、リリィナ達と一緒に来ていた引率のベテラン士官が血相を変えて階段を下りてきた。


「なによ、今それどころじゃ」

「ダンジョン下層に送り込んだモニターが次々と潰されていってます!」


「なんですって……」


 どうやら、暇つぶしの余興は終わりのようだ。

 ジェノサイド・リアリティーの逆襲が始まった。

次回5/28(日)、更新予定です。

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