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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
163/223

163.それぞれの旅路

 あと、もうひとつ朗報。

 黄泉ハデスの生き返り全員のアイテムをチェックしたが、瀬木が切望していた『性転換の杖』は手に入らなかった。


 朗報と言ってしまってはダメなのだが、創聖神ジ・オールはほんと良くわかっている。

 俺がアイツを憎めないのは、こういうところがあるからだ。


「それで、瀬木はどうするんだ?」


 ジェノサイド・リアリティーの街でパクパクポテトを食いながら、俺は尋ねる。

 久しぶりのジャンクフードに、コーヒーの味は染みる。


 和葉の作る飯は美味いが、ジャンクの美味さは別腹だからな。


「そうだね。僕は、この世界に残ることにするよ。もう少し、真城くんのところでお世話になろうかな」


 そこに、久美子が混ぜっかえしてくる。


「なんだ、瀬木くん改めみどりちゃんもワタルくんの後宮ハーレムに入るんじゃないの」

「なんでさ!」


 瀬木は、顔を真っ赤にしている。


「おいおい、やめろよ久美子」


 変な絡み方して、瀬木が心変わりしたらどうする。

 それに、ハーレムとか人聞きが悪すぎるだろ。


「そう言いながら、ニヤつきが止まってないわよ。まったく、どんだけ瀬木くんのこと好きなのよ」


 イカン。

 俺としたことが、顔に出てしまったか。


「バカ、これはそう言うんじゃない。そう言うんじゃないんだが、瀬木が男でも女でも俺の大事な友達には違いないから居てくれて嬉しいって思ってもおかしくはないだろ」

「友達ねえ……」


 久美子が疑わしげに唸った。


「それより、瀬木は本当に日本に戻らなくていいのか。かなり留守にしてしまってるんだから、一度両親の顔とか見に行ったらどうだ」


 なんなら俺も瀬木の両親に挨拶に……いや、それはまだ早いか。


「こんな姿、親には見せられないからね……」

「あー、なるほど。息子が、娘になって帰ってきたらびっくりしちゃうからな」


「いや、驚くぐらいならいいけど、喜びそうなのが嫌なんだよ! 娘なら良かったのにが、うちのお母さんの口癖なんだから!」


 何か思い出してしまったらしく、瀬木がうわーと呻いて両手で顔を塞いでいる。

 瀬木の家も、いろいろ大変なんだな。


 交通路が確保されているので、一度日本に戻る者もこれで今生の別れになるわけではない。

 とりあえず日本に帰るという生徒が圧倒的多数だった。


「真城さん、私は真城さんの下に残りますわ!」


 佐敷絵菜さしきえなが声をかけてくる。


「お、おう……」


 前に好きだと告白されてるからなあ。

 どうするべきなんだろうか、久美子はニヤニヤ笑って見てくる。また変なツッコミいれてこようとしてるな。


「真城さん、これ」

「なんだこれ?」


 手渡されたのは、大量の紙束だった。


「ラブレターです」

「グッ、そうか……」


 思わずアイスコーヒーを吹きそうになった。


「会えない時間に書きました。家にも、もう真実の愛を見つけたのでしばらく戻らないって手紙を書いてあります」


 ラブレターなんかもらうの始めてだな。

 しかもこんなに大量に。絵菜は絵菜で、なんか重たい。


「達筆だな……」


 久美子だけではない、こいつらも結構なお嬢様なんだよな。

 本当に俺なんかのところに居ていいのだろうか。


「手紙とは考えたわね、佐敷さん。ワタルくん意外と感動してるわよ」


 また久美子が勝手に俺のことを決めつけてる。

 感動……まあ、こうも純粋に好意を向けられると嬉しくないことはないけど。


「まだです!」


 そう言うと、絵菜は突然俺にキスしてきた。

 とっさの事なので避けられなかった。いや、ジェノサイド・リアリティーの街の中なのだから嫌なら避けられたのだ。


 俺に拒絶する気がなかったって事が証明されてしまう。


「やるわね、佐敷さん……」

「機会は逃さないって決めましたから」


 そう言うと、佐敷は俺の腕をとった。

 うーむ、撥ね退けられない段階で俺の負けってことか。


「私らも、しらばく残ってくからよろしくね」

「うん、絵菜が心配だから……」


 絵菜の友達の真藤愛彩まとうあやと、立花澪たちばなみおもあっけなく残留を決めた。

 なんだかんだで、みんな結構残っちゃうんだな。


「ところで、木崎はどうすんだ?」


 なぜか、俺のグループにいつまでも木崎晶きざきあきらがいるのが気になって聞いてしまう。

 お前も七海や三上達と一緒に、日本に戻るんじゃないのか。


「私は、その……」


 なんかもじもじしてる。

 なんだ、木崎らしくないな。ハッキリ言えよ。


「なんで木崎さんにも一緒に居てくれって言ってあげないのよ。ずっと声をかけられるのを待ってたんでしょうに」


 会話に久美子が割り込んできた。


「はぁ?」


 久美子の言ってることがわからん。

 隣の日本料理店からたい焼きを大量に買ってきて、パクパク食べ歩きしているウッサーも言う。


「木崎は見込みがありマスからね。特別にうちに入れてやってもいいデスよ」

「バカウサギ、あんたが言ってどうするのよ。ワタルくんが言わないと意味無いでしょ」


「旦那様の家族になるかどうかは、最初の妻のワタシが決めるんデスよ。ちなみにナイチチ、お前は繁殖力ゼロで失格だから国に帰れデス」

「あんたの結婚なんか、日本の法律で認められないって言ってるでしょう。私のほうが正妻よ!」


「おいおい、本気で喧嘩するな。街が壊れるだろ」


 そうでなくても、周りがビビってんだろ。

 ハイマスターランクの二人がぶつかり合ったら、周りに迷惑すぎる。


 街なかでお互いに攻撃できるってことは、もうお互いに認め合ってじゃれあってるだけって事だ。

 素直じゃないのはこいつらも一緒だ。


「木崎、お前も……良かったら残れ」

「真城!」


「ようやく言ったデスか」

「まったく世話がやけるわね」


 よくわからんけど、俺がそう言わないと収まらない空気なので言っておいた。

 言ったら喧嘩も収まったし、これで正解なのだろう。


 木崎も嬉しそうに抱きついてきたから、こいつも残りたかったんだな。

 それならそれでいい。


「あといつの間に、久美子が俺と結婚することになってんだよ」

「なによ、今さらその話?」


「今だから話してるんだよ。お前は九条家の姫だろうが、実家のことはどうするんだ」

「一度帰って連絡はしておくけど、私ってもともと家からしたら政略結婚の道具じゃない」


「いや、知らないけど……お前ん家も大変だな」


 名門九条家は、その時々の有力者と婚姻関係を結ぶことで勢力を保ってきたらしい。

 お姫様などと言われても、久美子はそういう厄介な義務を課せられているそうだ。


「あら、他人事じゃないわよ。異世界の新素材や希少金属、石油、天然ガス、鉱物資源などの権益。将来的に想定されるジェノサイド・リアリティーの利権って凄まじいのよ」


「石油や天然ガス? 急に何の話だ?」

「あれ、聞いてなかったの。七海くん達が郊外を回ってる時に資源調査もしてたみたいよ。鉱物資源だけでなく、この世界にもちゃんと石油や天然ガスはあることがわかったわ」


「ほう」

「七海くんも企業家の御曹司だから、そこはしっかりしてるわ。何とかして日本に持ち込めたら、金銀財宝よりももっと凄まじい権益を生み出すわよ」


「資源の話はわかったが、どういうことだ?」

「私が言いたいのは、その全てを手中にしてる、政界の名門真城家の次男で異世界の王は誰なのって事」


「……なるほど」

「九条家の娘が輿入れする先としては、これ以上の所はないわ。これで私も家への義理が果たせるってわけよ」


 そう言って、久美子はいたずらっぽく笑った。


「ふん、そういうことならまあいい。俺は油なんぞに興味ないし、久美子にくれてやるよ」

「あら、政略結婚なんてとんでもないとかは言わないんだ?」


「……お前は、俺の役にたってるからな」

「素直じゃないんだから。好きって言いなさいよ」


 ふん、誰が言うかよ。

 そう思ってそっぽ向いたら、久美子にもキスされてしまった。


 お前ら、俺が抵抗しないと思ってな。


「ちょっと、なーに街中でいちゃついてるのよ」

「黛か」


 街の監視役として雇ってる黛京華まゆずみきょうかがやってきた。

 その後ろには、京華が好きらしい仁村流砂にむらりゅうさもくっついてきてる。


「まだお給金もらってないんだけど」

「ほらよ」


 俺は、金貨を投げてやる。

 こんな小銭、出し惜しんでもしょうがないしな。


「ありがと。またのご利用をお待ちしております」


 そう言って、京華は口に手を当ててオホホホと笑う。

 なんだそのテンション。


「待て……またのご利用って、もしかしてお前も異世界に残るつもりなのか?」

「残るわよ。だって私、監視役とかやってたけど結局何の役にも立ってないじゃない!」


「監視役が役に立たなかったのは、むしろいいことなんだけどな」

「そうでなくても、いまさら日本に戻ったって留年扱いで高校生やるだけでしょ。そんなのゴメンよ」


「そう言われりゃ、そうかもだが……」

「真城くんから貰った金貨を貯めておけば一生安泰だし、街中でフラフラしてるだけでお金儲かるんだからいいわよね。日本に帰ったってここよりいい仕事ないもん」


 こいつ、本当に現金だな。

 学校にいたときは深窓の令嬢とか言われてたのに、完全にキャラ崩壊してやがる。


「京華は俺がダンジョンで稼いで食わすから、テメェの金はいらねェ」


 仁村は俺を睨みつけてきた。

 なんだ、お前も京華にひっついて残るのかよ。


 別にそんな女取ったりしないから、安心しろよ。

 京華のなにがいいのか知らんが。


 顔は確かに美人だが、中身は腹黒いぞ。


「いいわね。男二人が私を争ってお金を貢いでくれるなんて最高!」

「こいつ本当に、ああもういい……お前らも残りたきゃ残れ、監視役の仕事も引き続き頼む」


「これからもよろしくねー」


 ジェノサイド・リアリティーは日本と異世界の接点だ。

 今後も何があるかわからないから、監視をおいておく意味は十分にあるだろう。


 ノーテンキな京華はともかく、ある程度の戦闘力が期待できる仁村を飼っておけるのは悪くない話だった。

次回4/23(日)、更新予定です。

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