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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
160/223

160.戦い終わって

 虎人・竜人の連合軍をまとめていた軍師、神宮寺司の斬首によって一連の戦争は終結した。

 俺は、孤絶ソリチュードに染み付いた血を拭き取る。


 虎人の祭祀王ガドゥンガンと、神宮寺の首は敵の前に晒された。

 それと、降伏した竜人の祭祀王ヴイーヴルの勧告もあって、カーンの街の中の敵兵はみんな降伏した。


 しかし、街の外には推定でも十五万の敵兵が散り散りに残ってしまっている。

 七海達は今からジープに乗り込んで、戦争の終結を宣言して敵兵に投降を呼びかけるという。


「真城ワタルくん。僕達は竜人の祭祀王ヴイーヴルを連れて、敗残兵達を静めて来ることにするよ」

「うむ。心配せずとも、我が呼びかければ皆故郷へと帰るのだ!」


 ヴイーヴルは自信たっぷりに言うが、そんなに簡単にいくものか?

 七海も心配そうに言う。


「それで竜人は抑えられても、虎人や熊人の残党もいるからどうだろうね」

「そんな連中、我が一吠えしてやれば全員ひれ伏すであろうよ。虎人の祭祀王ガドゥンガンとて、真城ワタルに敗れたのだ。弱き者が強き者に従うは草原の掟。文句は言わせぬよ」


 ヴイーヴルは大言壮語するが、本当にそんなに上手く行くのかはわからんな。

 七海もそう思っているのだろう。俺に苦笑いを向けてくる。


「俺も一緒に行こうか。敵を大人しくさせるなら俺も役に立つと思うが」

「いや、こっちは僕達が責任を持ってやっておくよ。真城ワタルくんは王様なんだから、ここに残ってみんなを取りまとめてくれ」


「そうは言ってもなあ。どうせ街の始末や軍の取りまとめは、アリアドネやその部下がやる仕事だろ?」

「それでもリーダーは中央に構えているものだよ。決着が付いたとはいえ、まだ何があるかわからないからね。城で先にゆっくり休んでいてくれればいい」 


 元々生徒達のリーダーだった七海にそう言われてしまうと、外をうろつくわけにもいかない。


「じゃあ、すまないが任せた」

「うん、さっさと片付けて戦争を終わらせてしまおう」


 七海がそう言っているのだから、余計な手出しはしないでおこう。

 戦いは終わっているから俺が行って暴れると逆に邪魔してしまうことにもなるかもしれない。


「ご主人様、後は我々に任せてお城でお休みください。お疲れでしょう、すぐに湯浴みの用意をさせます」

「私も、そろそろお夕飯の支度するね」


 アリアドネや和葉がそう言ってくれるので、俺は城の中に戻ることにした。


「……なんか、きな臭くないか?」

「あっ、いけない。食堂で御鏡くんを焼きっぱなしだった!」


 なんだ焼きっぱなしって。

 一瞬聞き違えたのかと思ったが、ゾンビスライムと化した御鏡竜二にガソリンをかけて燃やし尽くしたのだという。


 まだ熱と煙が立ち込める食堂まで行ってみる。

 すでに火は消えていたが、部屋中が真っ黒焦げで凄まじいありようだった。


「御鏡の死体を確認しようかと思ったが……」

「完全に炭になってるね」


 檻の中に辛うじてそれらしきカスがあったが、風が吹いただけでサラサラと崩れていってしまう。


「さすがにここまでになったら復活する恐れはないだろうが、カスを壺に入れて封印でもして置くことにしよう」


 時間もあるし、後で神宮寺の遺体と一緒に埋葬して墓でも立ててやるか。

 万が一の復活を阻止する意味もあるが、死んだら仏と言うしな。


「食堂がこれだとご飯が食べられないから、別の場所に用意するね」


 和葉は、城を切り盛りしているアリアドネと相談して別の場所に食堂を作ることにしたらしい。

 とりあえず大広間に移動すると、俺の所に椅子が運ばれて来たので腰掛ける。


 半ば砕けた鎧や具足を外すと、少し気が緩んでしまった。

 みんな元気だな。


 俺は少し疲れた。

 あれだけの死闘を終えれば疲労に身体が重くなる。


 スタミナポーションで回復すれば動けるのだが、それで心をすり減らした心労まで抜けるわけではない。

 やはり、自然な休息が必要だ。


 メイド服を来た少女、リスが俺のところにやってきた。


「どうしたリス?」

「また、コインがたくさんでた、でました……」


「そうか、見せてみろ」


 見る間にリスの手から、ジャラジャラと生命のコインがこぼれ落ちてくる。

 結局、なぜリスからコインが出るのかもわからなかったが、リスがいてくれてよかった。


 俺は、コインをかき集めてからリスの青い髪を撫でてやる。

 これだけあれば、ジェノサイド・リアリティーで死んだ全ての人間を生き返らせるに足るだろう。


 ゲーム終了だな。

 いや、神宮寺達との決着を付けてジェノサイド・リアリティーの死亡者を生き返らせる事に成功したのだから、ゲームの後始末が済んだと言うべきか。


「ご、ご主人様……」


 髪を撫でられて気持ち良さそうにしていたリスが驚きに碧い瞳を見開く。

 慌てて振り返ると、そこには銀色に輝く男が立っていた。


 若者のようにも老人のようにも見える特徴のない痩せた相貌。

 簡素な白い衣服を来て立っている。


 見た目はただの人間と大差はないのに、絶対的な畏怖を感じさせる。


創聖神ジ・オール


 俺のつぶやきを聞いたリスは、「ヒッ!」と声を上げてその場に座り込んで土下座した。

 その拍子に、生命のコインがこぼれ落ちて床を転がった。


「真城ワタル、ゲームクリアおめでとう」

「なんだ、そっちから挨拶に来たのか?」


「何事ですか!」


 騒ぎを聞きつけたのか、アリアドネ達も慌てて大広間にやってきた。


「アリアドネ、慌てなくていい。創聖神ジ・オールが来ただけだ」

「……創聖神ジ・オール様なのですか!?」


 アリアドネは、疑わずに慌ててその場に跪く。

 やはり畏怖を感じるのは、俺だけではないようだ。


 和葉のように関係ないものまで、あまりの威圧感に膝を突いている。


「そんなに硬くならずともいい。天人族の娘よ、君達祭祀王の一族は我が近しき子のようなものだから」

「は、はい……」


 そう言われて、アリアドネはようやく顔を上げたがガチガチに緊張している。

 神が降臨したとなってはそうともなるか。


「それで、何の用だ創聖神ジ・オール?」

「ご、ご主人様……友達に話しかけるような口調は不敬ですよ。相手は創造主様です」


 はぁ、創造主とか言われても俺はこいつに創られたわけではないし。

 あんまり、ピンとこないんだよな。


 その姿はピカピカと光って威圧感が物凄いが、だからどうだって話でもある。


「ハハハ、君は相変わらずだな。天人族の娘よ、私は楽にしていいといったよ」


 まだあたふたしているアリアドネを見て、創聖神ジ・オールは笑った。


「そうだアリアドネ、敬意を払う必要なんか無いぞ。俺達の世界の知識の影響でそうなったのかのかもしれないが、ゲームと称して俺と神宮寺を殺し合わせてた張本人だからな。それを上から眺めて楽しんでいたのだろう、神といってもろくなもんじゃねえ」


 神をも恐れぬ俺の言葉を聞いて、アリアドネは震えあがっている。


「あの神宮寺司じんぐうじつかさという異世界ガイアの男も、またこの世界ムンドゥスの変革を願っていた」

「それで蘇らせて、俺と殺り合わせたんだな?」


 頷く創聖神ジ・オール

 どうやら、予想通りのようだった。


「考えの違う二人が相争い強いほうが残った。結果として、祭祀王を失って奴隷化されていた人族は解放されて、種族間を超えた共和の国が創られようとしている」

「俺はただ自分に邪魔な者を殺して回っただけだ。そんなご大層な理想を持っていたわけじゃない」


「そこの兎人族の娘と結婚したではないか」


 創聖神ジ・オールは、ウッサーを指さして言う。


「それだけのことかよ」

「それだけのことだ。人の心を動かすのは言葉ではなく行動だ。人族の王を名乗った君が異種族の娘らを家族としていたからこそ、犬人族も従った。兎人族も天人族も信用して兵を出したのだ。真城ワタルが信じて行ったことを、神宮寺司は猜疑を煽ることで行おうとした。その違いだ」


「ふん……神ならばそんなまどろっこしいことをしなくても、地上の人間を都合よく操ればいいんじゃないか」

「私がそうすれば、世界ムンドゥスの地表は自らの意思を持たない傀儡だけで埋まることであろう。君はそのような世界を望むか?」


「望むわけねえだろ」

「そうだな。そんな風にしなければならないならば、私もとっくにこの世界ムンドゥスを滅ぼしていた」


「そりゃ良かったな。だが俺はお前のために働いたわけでじゃないぞ。俺はただ強くなりたかっただけだ。自らの強さを証明するために敵を打ち破った、それだけだ」


 そして、強くなりすぎてしまった俺はもはやこの異世界ムンドゥスでしか生きられない。

 今さらこの世界ムンドゥスを滅ぼされても困る。


「君のお陰で私に届く地上の悲嘆の声もだいぶ軽減された。用というのは他でもない、この世界ムンドゥス再生コンティニューの希望をもたらしてくれた君にお礼をしよう」

「その礼とやらは、死んだ人間を生き返らせることではなかったのか?」


「まさか、それは前のゲームのお礼だよ」

「ふーん」


 それによって、世界にゾンビが溢れたりもしたようだがな。

 俺は、瀬木を蘇らせることができたから、それだけでありがたかったが。


「そこでまず、真城ワタルを人族の正式な祭祀王としようと思う」

「なんだ、祭祀王ってのは血筋のものじゃないとなれないんじゃなかったのか?」


 確か、人族の祭祀王の一族は俺達の世界に転移して逃げたはずだ。

 それが発端で、今回の事件が起こっている。


 そこで、アリアドネが立ち上がる。


「わ、妾もそのことをずっと考えておりました! この中で祭祀王の血筋を継ぐのは妾のみ……つまり神は、私にご主人様と婚姻しろとおっしゃられているのですね。そうすれば、ご主人様も祭祀王の一族ということになります。もちろん、妾は喜んでお引き受けいたします!」

「いや、全然違うが天人族の娘よ……」


 なんか創聖神ジ・オールも当惑している。

 立ち上がったアリアドネは、顔を真っ赤にしたままピキッと硬直している。


 シレッとした空気が流れる。


創聖神ジ・オール、アリアドネは放っておいて話を進めてくれ」

「……ふ、ふふ、不遜なことを申しました! どうぞ罰をお与えください!」


 アリアドネは、そのまま崩れ落ちると俺の足元にすがりついてくる。

 おい、神に対する敬意はどうした。こんな時に、趣味に走るな。


「えっと……」

創聖神ジ・オール、こいつ放っておいていいから」


「うむ、人族の祭祀王の生き残りならばそこにいる」


 創聖神ジ・オールがリスを指差す。


「はあ? リスはただの農奴の娘だぞ?」

「傍系の傍系だが、その娘は人族の祭祀王の血筋を引いている。それ故に気づかれず、この地に捨て置かれたのだ。その娘は確かにこの世界ムンドゥスで人族の祭祀王の血を引く唯一の生き残りだ。気がついて保護していたのではないのか?」


 思い当たる節はあった。

 なぜリスが、生命のコインを生み出す役割を果たしていたのか。


 たまたま、俺の近くに居たからかと思っていたが。

 始祖が創聖神ジ・オールと繋がる祭祀王の一族の末裔であるならば、それぐらいできてもおかしくはない。


「……ご主人様?」


 リスは何もわからず、俺の顔を見上げてくる。

 この子は何も知らないただの子供だ。


創聖神ジ・オールの名をもって、その娘を正式な人族の祭祀王としよう」


 創聖神ジ・オールがそう言うと、リスの青い髪は神々しく輝きを増した。

 もはやリスは、ただの農奴の娘ではなく唯一無二の人族の祭祀王としての証を受けた。


「そうして、真城ワタルが祭祀王であるリスと結婚すれば、人族の祭祀王と認められるだろう」


 また勝手なことを言ってやがる。


「おい、リスはまだ子供だぞ!」

「その子はもうすぐ十三歳だ。すぐに大人になる。なんなら、今すぐ姿形を大人にしてやってもいいぞ」


 また輝ける手をこちらに向けようとする創聖神ジ・オール


「やめろ! 大人の都合に子供を巻き込むんじゃねえ!」


 俺はリスを後ろにかばった。

 リスには、自分の人生を選ぶ権利がある。


 いや、リスだけじゃない。

 それは、みんなにあるんだ。


「真城ワタル、君の願いを叶えよう」

「なんだ、どういうことだ?」


 俺の願い?


「君の言葉を借りれば、みんな自分の好きにすれば良いということだ」

「そうか、じゃあ好きにさせてもらおう。リスにはちゃんと自分の人生を選ばせてやれ!」


 後ろからリスがしがみついてくるのを感じる。

 安心しろ。


 たとえ神が相手でも、俺は子供に理不尽を強いる大人を許さねえ!


「あと一つ、私は君の心からの願いにきちんと応えよう。この世界ムンドゥスルールを今また一つ崩す。それが、新しいゲームの始まりともなるだろう」

「ルールを崩すとは、どういうことだ?」


 前の死者を蘇らせる願いは、世界に大量のゾンビを生み出すことともなった。

 ルール崩しはデメリットが起こる可能性もある。


「大丈夫だ。ほんの小さな変化であるから、君の心配するようなことは起こらない。後で自らのステータスを調べるがいい。では、再び会える日を楽しみにしている」


 そう言い残すと、現れた時と同じように創聖神ジ・オールはあっけなく姿を消した。

次回4/2(日)、更新予定です。

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