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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
156/223

156.ごめんね……

 前面の平原でカーン会戦が行われている頃、後方のカーンの街にも敵が迫っていた。

 がら空きのカーンの街に、神宮寺が眼を付けないわけがなかった。


 自分達が有利に見える平原での主力同士の決戦を望む虎人達を抑えきれなかったが、おそらく敵は罠を張り待ち受けているはず。

 二十万の大軍といえども、そうやすやすとは勝利できないだろう。


 だが、そっちを囮に使えばいいのだ。

 神宮寺はこの隙に、大きく迂回して後ろからカーンの都を攻めた。


 最強の祭祀王二人と共に少数精鋭でカーンの都の奪取を狙っていたのだ。


「祭祀王陛下、門を叩き割ろうとしないでください。それは、そのままこっちが街を取ったあとに使うんですから!」

「ぬう、色々と注文がうるさいな軍師」


 野心に取り憑かれて、やたらに張り切っている虎人の祭祀王ガドゥンガンと。

 その後ろをあくびをしながら付いて行く竜人の祭祀王ヴイーヴル。


 この二人は足して二で割ればちょうどいいのになと思いながら、神宮寺はスポンサーである祭祀王達にはペコペコと頭を下げてみせる。


「どうか今しばらくのご辛抱を……猫忍者ども門はまだ落とせないのですか」

「ひぃ、本当に猫使いが荒い男ニャー」


 あまりに酷使されすぎて、ニャルは悲鳴を上げている。

 勢力の弱い猫人や熊人などは、すっかり神宮寺の下で人族奴隷とまでは言わないが、二等市民扱いをされて使い潰されている。


「後少しですから気張りなさい。カーンの都を奪取し、敵を破った暁には猫人にも街の一つや二つくれてやりますよ!」

「が、頑張るニャニャニャー」


 ひょいと壁をよじ登って、街門を制圧して閂を開けた。

 もともとカーンの街は、熊人のものだったのだ。その熊人に仕えていたニャル達猫忍者にとっても、勝手知ったる街である。


 後方の三方の門から伏兵が押し寄せると見せかけて、本命の攻撃は神宮寺達がいる部隊であった。

 使役される猫忍者の踏ん張りがあって、呆気無く北の門は破られた。


「これでいい、街に入ってしまえば街は丸裸です。三方の門も制圧しにいきましょう。前で戦ってる内に、自分達の首都が盗られてしまう。クハハハ、真城くんの吠え面が楽しみですねえ」


 迂回に時間がかかってしまったことにはハラハラさせられたが、予定通り街の中には入れた。

 あとは、残り三つの門を奪取してしまえば、この街は神宮寺達の物となる。


「クンカクンカ。竜胆さんの匂いがする……竜胆さん待ってて、僕がいまいくからねえ」

「ちょっと、御鏡くんどこにいくんですか?」


「あそこだ、あそこに竜胆さんがいる……」

「ちょっと待ってください。城はあとですよ!」


「いかがしましょう軍師」

「チィ……熊人部隊は、御鏡くんの後を追いなさい。城を落とすんですよ」


 神宮寺は仕方なくそう命じると。

 熊人達は、自分達の城を取り戻せると躍起になって御鏡の後を追った。


「みんな、我らの城を取り戻すチャンスだぞ!」

「まあ、いいでしょう。いずれ城は落とさないといけないんですから、こうなったら一気呵成に行きましょう!」


 優先はあくまで四方の門を奪取して固めてしまうことで、城は守りが硬そうだったのであとにするつもりであったのだが。

 まったく、頭がゾンビスライム化している御鏡竜二の勝手な行動で、更に少ない兵力を四つに避けなければならなくなる。


 だが、これもありかと神宮寺は考える。

 内側から攻め立てられれば、真城の兵士達は慌てふためいて逃げていくはずだ。


 内側から街門を落とすのはそう難しいことではない。

 化物と化してしまった御鏡は鼻が利くので、竜胆和葉がいるというのも確かなのだろう。


 ならば素早く強襲してしまうのも悪くはない。

 御鏡は、あの女に執着しているのだからまさか殺すことはあるまい。


 竜胆和葉を上手く捕らえられれば人質として使える。

 なんだかんだ言って真城ワタルは情にもろい。


 そこが奴の弱点だ。

 人質を殺すぞと脅せば、さらに有利に戦いを進められるはず。


 全ては神宮寺の計略通りに行っている。


「フフフ、まあ御覧なさい。最後に神に選ばれるのはこの私です。今度こそ、私は自分の理想を実現してみせる」


 この戦いに勝利して、神宮寺は自分の優秀さを神に知らしめてやるのだ。

 確かに一度は真城に敗れた。それは認めよう。


 だが、慈悲深き神は神宮寺を黄泉ハデスより復活させ、敗者復活戦の機会を与えた。

 このセカンドステージでは二度と失敗しない。


 必ずや真城を倒し、この異世界を手中に収めて、自分が望む理想社会を実現するのだ。

 神宮寺は、己が勝利を確信していた。


     ※※※


「他愛もなさすぎるわね」


 あくびをこらえながら、九条久美子は街を走り回る猫忍者を一人一人潰していった。

 忍者としての隠密力が違いすぎて、向こうからはこっちが見えていないのだ。


「ニャニャニャ、ギャー!」


 なんか見覚えのある猫忍者の足を引っ掛けて転ばしたと思ったら、ニャルとかいう小娘であった。

 殺そうかどうか少し迷ったけど、こいつは敵の足を引っ張るだけだから生かしておけとワタルが言ったのを思い出す。


「ニャンだお前はー!」

「眠らせて縛っておくだけにしておきましょうか」


「ぐにゃー!」


 久美子の手刀一発で、呆気無く落とされたニャルを縄でふんじばる。


「そろそろ敵の兵士も来る頃ね。貴方達は、適当なところで門の外に逃げていいわよ」


 久美子が声をかけたのは、街門を守る兵士達だ。

 敵に不審に思われない程度に抵抗してから、門から兵士を外へと逃がす。


 空城の計は順調に進みつつあった。


     ※※※


 竜胆和葉を狙ってカーンの城までやってきた御鏡竜二に、城の入り口を守る城兵達は戦慄していた。

 口元から涎を垂らして、だらしない表情でふらふらと進む


 その呆けた姿を見ても、兵士達はそれが強敵だとは思わなかったのだが……。


「なんだこいつ、ぎゃぁああ!」

「ふへへへ」


 血塗られた黒剣を無造作に振り回して御鏡は進む。

 その動きは隙だらけだった。


 人族の兵士は長槍を御鏡の身体に突き立てる。

 だが、御鏡は平然とその槍を掴んで、兵士を叩き斬った。


「バカな、なんで死なないんだ。ぐあぁ!」

「……僕は、最強の男なんだぞぉ!」


 御鏡の頭にあるのは、真城ワタルを倒して竜胆和葉を手に入れることだけ。

 周りで起きている戦争など関係ない。


 ただ真城を倒して、和葉を手に入れる。

 それだけを思って進む。


「いいわみんな、ここは撤退なさい」

「竜胆様。おい、みんな引くぞ」


 城の二階から、和葉が声をかけて兵士達を撤退させる。

 御鏡だけではなく、その後ろから自分達の物だった城を奪い返そうと迫ってくる熊人部隊が見えた。


「竜胆さーん、そんなところにいたんだ」

「御鏡くん。こっちにいらっしゃい」


 和葉は猫なで声で声をかける。


「すぐいくよ……」


 身体に刺された槍を抜いて、御鏡は進む。

 その後ろから駆けつけた熊人部隊の絶叫が響き渡った。


「ぎゃあああ!」


 二階のテラスにいた和葉が作動させた罠が発動したのだ。

 ある者は地中から突き出る無数の刃に突き刺され。


「あぎゃああ!」


 ある者は飛んできた炎球ファイヤーボールに焼き殺された。

 ……そんな後ろの阿鼻叫喚を全く気にせず、御鏡は振り返らずに城の中に進む。


 和葉の匂いをたどって、御鏡は歩を進める。

 そうして見つけた。


 城の一室で、和葉は待っていた。

 テーブルが並んでいる食堂のような用途で使われる部屋のようだ。


「竜胆さーん」

「御鏡くん。この前はごめんね。酷い目に合わせちゃって……」


 和葉は、申し訳なさそうに目を伏せる。


「ううん。いいんだよ、僕は殺しても死なないゾンビの能力とスライムの増殖力を持った最強の身体だから」

「そうみたいね」


「きっと竜胆さんは真城のやつに脅されてやったんだろう。そうだよ。クラス委員をやっていた時だって、僕に優しく声をかけてくれた君が僕を殺そうとするはずがない」

「どうかしらね」


 ゆっくりと、和葉に近づく。

 和葉の手は近くにあったレバーに伸びている。


「聞いてよ竜胆さん。僕は、最強の男になったんだ。あの真城ワタルにだってもう負けないよ。だからもうあいつに従う必要はないんだ。僕のところに来てよ!」

「御鏡くんごめん」


 和葉がレバーを下ろすと同時に、ガチャンと音がなって四方に鉄格子が現れた。


「冗談は止めてよ」

「それは、私のほうが言いたいセリフだわ。もう私は、誰にも優しい級長じゃないの。私は、そんな自分はダイッキライだった。それを求めてくる貴方みたいな人も嫌いよ」


「こんな鉄格子なんか!」


 御鏡は血塗られた黒剣を振るうが、鉄格子はびくともしない。

 おかしい、鋼鉄なんか簡単に断ち切れるほどの威力を持った最強の剣のはずなのに。


「壊そうとしても無理よ。その檻は、破壊不能オブジェクトを使ってるんだから」

「そんな……」


 驚くことに、罠スキルが極まった和葉はジェノサイド・リアリティーの破壊不能オブジェクトすら罠に利用できるのだった。

 守ることにかけては、ある意味で真城ワタル以上の実力を有している。


 愚かなことに御鏡は、そんな凶悪な罠だらけの城にまんまと足を踏み入れてしまったのだ。


「この前のこと謝っておくわね。前は無駄に苦しめちゃったでしょう。私、反省してるの。今度こそちゃんと御鏡くんのことを殺してあげるから」

「何、何を撒いてるの……」


 和葉は、ジェリカンに入ったオレンジ色の液体を撒いている。


「ガソリンよ」

「いやだぁぁ!」


 よく見ればガソリン入りのジェリカンはいくつも用意されていた。

 窓のある石造りの部屋だから、タップリとガソリンを撒いて扉を石で閉鎖すれば火葬場に早変わりである。


「ゾンビは燃やすのが一番だもんね。今度こそ骨も残さず燃やし尽くして成仏させてあげるから、安らかに眠って」


 和葉は部屋に大量のガソリンをまき散らしたあとで、マッチをすって火をつけて投げると、扉を石の罠で閉鎖した。

 固く閉ざされた石の扉の向こうからガソリンが一気に燃焼した爆発音と、御鏡の最後の絶叫がくぐもって聞こえた。


「ごめんね……」


 和葉は石の壁に向かって静かに瞑目して手を合わせた。

次回3/5(日)、更新予定です。

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