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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
155/223

155.カーン会戦

「オメェ、起きろよ!」


 男の声に起こされる。


「……なんだ仁村か」


 前髪に白髪が混じってる男。

 仁村流砂にむらりゅうさだ。


「ッたく、なんだじゃねェぞ。決戦前に大将が女と寝てるってどうなってんだァ!」

「んっ?」


 女と寝たつもりは毛頭ないのだが、いつの間にかウッサーが俺の枕になっていた。

 腹の上にはリスが乗っていて、左右に久美子と和葉がいる。


 一人で寝たはずが、いつの間にこうなったのかは俺のほうが聞きたいぐらいだ。

 リスを下ろして、俺は立ち上がる。


「まァいい、今はそれどころじゃねェ。神宮寺の野郎が、まんまとこっちの本陣に喰い付いたぜェ」

「本当か。やはり我慢しきれず突っ込んできたか。七海の予想通りだな」


「おい、みんな。俺は本陣のほうを見てくるから城の守りは頼んだぞ」

「待つデス。ワタシも旦那様と行くデスよ」


 下着姿のウッサーがすがってくる。


「じゃあ、ちゃんと服を着ろ」

「わかったデス!」


 武闘家なのに、なぜかワンピースが戦闘服のウッサー。


「久美子、和葉。城の守りは任せたぞ」

「わかったわ」


「早く帰ってきてね!」

「ああ、もちろん帰ってくる。だが、それまでにやばくなったら手筈通りにお前らは城を脱出しろよ」


 敵の主力が本陣に喰い付いた以上、城の守りはそんなに心配いらないだろう。

 リスもやる気になってるのか、ぴょんと飛び跳ねる。


「ご主人様、私も頑張る!」

「ああ、リスも頼む」


 リスは戦力になりそうもないが、まあ二人がいれば大丈夫だろう。

 敵が街に侵入しても、城からは外に抜けられる大きな脱出口を掘ってあるから、城さえ落ちなければどうとでも逃げられるようにはなってる。


「おィ、なにやッてやがる。戦が終わっちまうぞォ」

「わかった。すぐ行く」


 カーンの城から、平原へはすぐだった。

 篭城をせず、あえてカーンの都の前の開けた平原に陣取っている一万足らずの本軍。


 三十万もの圧倒的な数をバラバラに運用して、じわりじわりと慎重に押し寄せてきた敵軍であったが、騎兵が主力の敵に有利な戦場で戦えると見た瞬間。

 寄り集まった三万の騎兵が特出して突っ込んできた。


 美味しそうな獲物を前に、我慢しきれなかったのだろう。


「おお、やってるやってる。おーい、七海! アリアドネ!」


 平原の陣に向かって突っ込んできた敵の騎兵隊を、アサルトライフルと軽機関銃で一方的に撃ちまくっていた。


「真城ワタルくん、来たか!」

「ご主人様、今のところ順調です」


「そのようだな」


 前面にみえる敵の騎兵は三万だが、その後ろからは歩兵隊も集まってきて更に増大していく。

 四万、五万、六万……この地域には、三十万近い数の敵がいるのだ。


 雲霞のごとく押し寄せる敵の数が、こちらの十倍を超えるのも間近であろう。

 敵もついに総力戦に打って出た。


 通常の兵法からすれば、十倍以上の敵に勝つのは不可能。

 だがそれは、通常であればの話だ。


 重い甲冑を着て槍や弓や剣を持って攻め立ててくる敵は的にしかならない。

 一部、魔術を使えるものが炎弾ファイヤーボールを飛ばしたりもしているが、弓矢と同じく銃に比べて飛距離が短すぎて話にならない。


 こちらは少数であるので、大軍を前にして撃ち漏らす敵も出る。

 接敵さえすれば、圧倒的多数の騎兵の突撃力でこちらの陣を崩すのも可能であっただろう。


 しかし、こちらが対策をしていないはずがない。


「なんだこれは、ぐぁあああ!」


 敵の騎兵隊長が、有刺鉄線に巻かれて身動き取れなくなっている。

 軍事用の有刺鉄線だ。トゲの部分は鋭くて、カミソリのように身体を切り裂く。


「撃てぇぇ!」


 すぐに銃撃が浴びせられて馬ともども殺された。

 平原は騎馬突撃に適した地形である。


 しかし、広範囲に大量の有刺鉄線が張られていてはその機動力は殺されたも同然。


「有刺鉄線ってやつは、こんなに使えるもんなんだな」

「うん、僕もこれ程までとは思ってなかったよ」


 有刺鉄線のバリケードは、敵の突撃は止められるのに弾は貫通する。

 守る側が一方的に攻撃できる。


 敵は躍起になって剣や槍で有刺鉄線を斬り崩そうとしているが、そんなもので鋼のワイヤーは断ち切れるものではない。

 引っかかった騎馬兵は身動きが取れなくなって、こちらに撃ち殺されるのを待つだけである。


「うぉおおおおおお!」


 さすがは虎人である。

 中には凄まじい剛の者もいて、有刺鉄線に詰まっている人馬の屍を飛び越えてこちらの陣まで突入する強者もいた。


「ボクがやる、任せてもらおう!」


 それらを蹴り伏せるのは、脳筋種族である兎人部隊だ。

 ウッサーの幼馴染のマコウが先頭に立った。


「こしゃくな!」

兎月流連蹴脚うげつりゅうれんしゅうきゃく!」


 バリケードを越えてくる虎人騎兵を馬ごと向こう側に蹴り飛ばした。

 相変わらず、超人的な活躍を見せる種族である。


「おー見事なもんだ。これでは俺の出番がないぐらいだ」


 千人の兎人武闘家は、とにかく速度が速い。

 馬よりも速く虎人騎兵にぶつかっていって、その全てを弾き飛ばしていく。


 突入すれば武闘家に蹴り飛ばされるし、有刺鉄線の前でおちおちしていれば銃弾の嵐の前に死ぬ。

 そして、その後ろに陣取っている敵に対しては、ペガサスナイト達が爆弾の嵐を落とした。


 敵は空からの攻撃には対処しようがないので、固まれば爆撃の餌食なのだ。


「撃てェェ!」

「七海。面白いことをやってるな」


 七海達が、ジープに設置してあるバズーカ砲みたいなので敵の群れを吹き飛ばしている。

 確か、106ミリ無反動砲だったか。


「面白いかな。心苦しいんだけどね、戦争だから仕方がないけど……」

「どれ、俺も一つやってみるか」


 俺も借りて一発撃ちこんでみたが、これは気分爽快である。

 炎弾ファイヤーボールを撃つのとはまた違った感覚。


 着弾と同時に敵の群れが爆発して弾け飛ぶ。

 炸裂弾ってやつだな。


「これも弾に限りがあるから、大事に使わないと」

「このまま武器の威力だけで圧勝できるか?」


「それは難しい。こちらの銃座の数に対して、敵の数が多すぎる。弾にも限りがあるから無駄撃ちできないし、すでに撃ちすぎて加熱で使えなくなってる機関銃も出ている。バリケードが徐々に突破されて追い込まれているのもマズいね。銃の威力を見せつければ、もっと早く敵が引いてくれると思ったんだけど、ここまでとは予想外だった……」


 これほどの敗北を喫しながら、虎人や竜人どもは味方の死体を足場にしてでも突っ込んでくる。

 殺せば殺すほどに、敵は猛り狂って突入してくる。


 有刺鉄線のバリケードさえ潰せば、こちらを数で押しつぶせると思っているのだろう。

 それ自体は、実は間違ってはいない。


 すでに、三重に張られた有刺鉄線のバリケードは端から崩されていって、残り一枚となっている。

 ガードがなくなればこちらにも被害が出るだろうし、後方のカーンの街への撤退も考えなくてはならなくなる。


「神宮寺も勝算なしに突っ込んで来たわけではないか」


 どれほど殺そうとも、敵の数は増えこそすれ減ることはない。

 もはや敵の数も数えきれないが、十五万かはたまた二十万の大軍か。


 有刺鉄線のバリケードのあたりには屍の山が出来上がっている。

 もう十万は殺ったと思うが、この数の大軍相手には近代兵器を用いても殺し切れない。


 七海達の撤退の時間ぐらいは俺が稼いでも良いが、できれば敵の祭祀王達とぶつかる前にマナや体力を温存しておきたいところなんだけど仕方がない。

 やや厳しい戦いになるが、むしろ下手に圧勝してしまって神宮寺達を逃がすよりは、撤退して街に誘い込むほうが良いかもしれない。


 こっちにはそのための準備だってある。

 さて、バリケードを飛び越えてくる兵士が兎人武闘家達でも抑えきれなくなってきた。

 

 俺も参加して前面から三方に攻めつづけてくる敵を叩く。

 これはそろそろ引くことも考えるかべきかと思った時、敵の左翼が妙に動揺し始めて徐々に瓦解し始めた。


「どうした、何が起こっている?」


 こちらの左翼後方から射撃音が遠く響き渡る。


「真城ワタルくん。どうやら、援軍が間に合ってくれたようだよ」

「もしかして、瀬木が来たのか!」


 俺としては、瀬木を戦争に巻き込みたくはなかったのだが。

 助かったのは事実だ。


 遠くバローニュの街から援軍を率いてくれた瀬木が、俺のところまでジープを運転してやってきた。

 佐敷絵菜さしきえな達も一緒に乗ってる。


「瀬木!」

「真城くん。間に合ってよかったよ」


 佐敷達が手に持っているのは、ライフルに比べるとまるでオモチャのようにチャチなパイプ銃だった。

 簡単に量産できるのはいいが、単発式で火縄銃ぐらいの性能しかないものだ。


「こっちも見に来るって言ったのに酷いじゃないですか」


 佐敷に責められてしまう。

 そういや、見に行くとか安請け合いしてしまってたな。


「ああ、すまん。いろいろ忙しかったんだ、来てくれて助かった」

「真城さんのお役に立ててよかったですけど」


 俺が礼を言うと、佐敷はすぐに機嫌を直した。

 満更世辞でもなく、本当に助かったというのはある。


 パイプ銃を持った新手が来たことで、こっちを包囲して追い詰めつつあった敵軍が一気に瓦解してしまった。


「銃の数が多いといっても、パイプ銃ぐらいで何で敵はこんなにいともたやすく崩れたんだ?」

「おそらく、敵は銃の見分けがつかないんだろうね」


 七海がそう言ったので、俺もすぐ理解した。

 なるほどそういうことか。


 銃という武器がよくわからない敵は、銃声だけで同じ武器だと勘違いしたのだ。

 単発式のパイプ銃を、アサルトライフルと同等の威力があるものと認識してしまっている。


 大多数の銃を持った敵が左翼から現れたのを見て、これは勝てないと思って総崩れになったのだろう。

 あとから気がついても、一度崩れた軍はもう立て直せない。


 こうなればあとはこちらが攻撃する番である。

 残敵掃討が開始されて、カーン平原での会戦はこちらの大勝利で終わった。


 だが、戦いの決着自体はまだ終わらない。

 祭祀王の二人はまだ出てこないし、神宮寺やモジャ頭も倒さねばならない。


「おィ、神宮寺の連中が手筈通り街に入り込んだぞォ」


 俺のところに、仁村がやってくる。


「おお。俺達もすぐ行く」

「ッたく、なんで俺がいちいち真城の使いっ走りなんか……」


「そう愚痴るな仁村。神宮寺を叩くまでの辛抱だろ」

「仕方ねェな。さっさと殺りにいこうぜ」


 連中はやはり街に誘い出されてたか。

 戦勝に湧き、敵を追って攻めて行く味方を背に俺達はカーンの街に向かった。

次回2/26(日)、更新予定です。

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