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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
154/223

154.決戦前夜

「やめてくれ! 助けぇぇ……ふげぇ」


 孤絶ソリチュードを振るうたびに、虎人騎兵達の身体が千切れ飛ぶ。


「ったく、戦士なら最後まで戦ってみせろ」


 最初は俺を見つけるなり大将首だと突進してきた騎兵どもだったが、一気に三人づつ斬り殺し。

 四、五百人は斬り刻んでやったあたりで、踵を返して逃げ出し始めた。


 虎人が逃げるとは笑わせるが、こうも敵の数が多いと埒があかない。

 馬の足は早い、こうもバラけられると追いかけても全滅させるのは時間がかかりすぎてしまう。


「だったら……最終アーク イア 飛翔フォイ!」


 俺が呪文を唱えながら手を振り払うと、発生した紅蓮の炎が視界の全てを焼き尽くして灰にしていく。

 敵の阿鼻叫喚が消滅して、戦場は静かになった。


「ふう、そろそろマナも切れるか」


 戦場で完全にマナを使いきってしまうわけにもいかない。

 そろそろ帰還するか。


 どうやら、神宮寺は三十万の部隊を無数の大隊にわけて散らばらせているようだ。

 散兵戦術ってやつか。


「一騎当千とはよく言ったものだ」


 こんなことをもう三度は繰り返した。

 群れ一つが千として考えると三千は殺したと思うが、まだそれだけしか殺せてないとも言える。


 この地域全体に散らばる敵兵の極々一部を潰したに過ぎない。

 最強の力を持つ俺でも、広範囲を無秩序に走り回る敵兵の全てを虱潰しにできるわけではない。


 個人の力だけでは、戦争に勝てない。

 神宮寺も小賢しい真似をしてくれる。


 あいつは、今頃どこにいるのか……。


「死ねぇぇええ!」


 草むらに伏せていた敵が槍を手に飛び出してきた。

 この期に及んで掛かってくるとは、骨がある奴もいると嬉しくなるが、弱い。


「ぐぁぁぁあああ!」


 即座に槍ごと斬って捨てる。

 こんな戦いを続けていたらいつかはこちらの体力やマナも尽きる。


 小出しにされる敵は倒しても倒しても、どこからともなく無限に湧いてくるようにすら思える。


「ふう……」


 疲れきった後に敵の祭祀王二人に囲まれたら、俺でもヤバイかもしれない。

 いっそ、それでもいいか。


 神宮寺の狙いはそれかもしれない。

 たった一人で戦い続けた俺が絶体絶命まで追い詰められれば、奴も油断して姿を見せるかも。


 そう思った時、遠方の空でペガサスナイト達が戦っているのが見えた。

 あいつらもいるんだったな。


「……やめとくか」


 俺一人で先走っても目的は達せられない。

 敵を誘い出すための策は、七海やアリアドネが考えてくれたのだ。


 分散すると一気には潰し難い敵だが、まとまりさえすれば叩きようはある。

 敵を引き付けるために、こちらの戦力のほとんどをカーンの街から前方の平原へと出して本陣を敷いて待ち構えているのだ。


 あいつらだって、勝負をかけなきゃいけないタイミングはあるはずだ。

 どこかで集結してカーンの都を目指すに違いない。


「せっかく相手が有利な戦場に陣を敷いてやったんだ。上手く引きつけられて来いよ」


 すでにあたりは暗くなり始めている。

 俺は、休憩するべくカーンの街に引き返すことにした。


     ※※※


 カーンの城まで戻ってきた。

 必要最小限の防衛戦力を残して、兵は全て前面の平原に出払っている。


 関係ない住民は戦争に巻き込まれないように退去しているので、がらんとした街は閑散としていた。


「おかえりなさい真城くん!」

「ああ」


 他のものは各自出払っているが、この城を自分の家だと思って篭っている和葉は別だった。


「ご飯にする、それともお風呂?」

「さすがに腹が減ったな。飯をくれると助かるが」


「ちゃんと作ってあるから、温めてくるね。あっ、作りなおしたほうがいいかな?」

「いや、温め直すだけでいい。すぐに出撃しなきゃならんかもしれんから」


 いつ決戦が起こるかもわからない。

 その時に、俺の力は必要だ。


 だが風呂はいいな。

 戦い回って泥だらけになっちまっている。


 今のうちに風呂でも入って少しでも寝ておこう。

 その前に飯だと、温めなおしてもらったステーキを俺は猛然と食い始めた。


 味付けが絶妙なので、温めるだけで美味いんだな。

 ご飯に乗せて食べてみると、米に染みた肉汁がたまらん。


「ご主人様……」


 物欲しそうな顔でリスがやってきた。


「どうしたリス。お前も食うか?」

「んぐ……美味しい」


 口にフォークに刺したドラゴンステーキを押し付けてやると、パクリと頬張った。

 そりゃ美味いだろう。


 素材の味もあるが、和葉の調理も超一流だからな。

 これだけでも居てもらう価値がある。


「なんだ、もっと欲しいのか」

「んぐ……美味しい」


 もうこんな時間だから、腹が減っているのかもしれない。

 こんな状況だと誰もリスの面倒まで見ないからな。


 しかし、これでは俺が食えない。


「ちょっと待て、和葉にリスの分も作ってもらうから」

「リスちゃんの分も、もう作ってきたわよ」


 さすが、和葉はよく気がつく。

 さあ食えと、ステーキ皿を回してやる。


「待って、ご主人様違う……違います」

「なんか他に用なのか」


「ご主人様、コインがまた出てきました」

「おお、こんなに出たのか」


 リスはメイド服のポケットの中から、ジャラジャラと大量の生命のコインを出してくる。

 戦争で敵兵士を倒した分がカウントされてるってことなのか。


「たくさん」

「うん、よく出してくれた」


 頭を撫でてやる。

 創聖神は、俺と神宮寺を争わせようとしているのかもしれないとも思う。


「まったく、神もいい気なものだな」

「なに?」


「いや、なんでもねえよ」


 俺は窓の外を見つめる。本当になんでもない。

 死者の蘇生のチャンスをくれと言ったのは俺だ。


 あの満月から下界を見ている神は、俺の望みのままに機会をくれた。

 それはきっと感謝すべきことなのだろう。


 このペースでいけば、当面の目的としていた蘇生は完了できそうだ。

 その先に俺は何をすればいいかは……まあ、全部終わってから考えたらいい。


「よし、風呂にいくかリス」

「うん!」


「私も一緒に入っていい?」

「いや……和葉も一緒には、マズくないか」


「もう何度も入ってるじゃない」

「それはそうなんだが……ちゃんと身体は隠せよ」


 まあいいか。

 ちょっと前と感じが違うんだが、俺が我慢したらいい。


 和葉が身体を洗ってる間に、リスを風呂に入れてやってていたのだが、ポチャンと湯船からコインを出してきた。


「出た」

「お前、一体どっから出してるんだ」


 いつもはポケットから出してるけど、服着てないだろ。

 ……足の間か?


「わからない」


 コインが出てくる基準も場所もまったく謎だった。

次回2/19(日)、更新予定です。

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