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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
153/223

153.空爆

 シルフィード族の聖白翔せいはくしょう騎士団五百騎。

 ならびに、聖白銀騎士団五百騎。


 カーンの街の広場に、ペガサスナイト千騎が集められていた。

 これだけ集まるとなかなかのものだ。


「真城王陛下、聖白翔騎士団参上しました」

「うむ」


 長らくアリアドネに仕えてきた銀髪の女騎士アーリャ達が、俺の前に跪く。

 こいつら女騎士は、すっかりしおらしくなった。


「王よ、ついに蛮族どもと戦闘ですか。腕がなりますな!」


 シルフィード族の祭祀王家に仕える聖白銀騎士団団長のイェルハルドは、腕まくりして身を乗り出してくる。

 男の騎士は威勢がいい。


「まあ、お前らに働いてもらうわけだが……戦闘するわけではない」


 俺がそう言うと、イェルハルドは意外そうな顔をした。


「真城王よ、もしや我らの力を見くびっておられるのか。前は剣で負けはしたが、実戦にはこの長槍を使う。また我が配下には弓の名手などもおり……」

「待て、見くびってるわけじゃない。今回の戦いは、お前らペガサスナイトの飛べるという力を最大限に生かして欲しいだけだ。おい、七海」


 七海達がジープに乗ってやってくる。

 その荷台には、大量の榴弾が積まれている。


「真城ワタルくん。準備はできてるよ」

「おう……アーリャ、イェルハルド。お前らはこの榴弾を敵の頭の上に落としてきて欲しいのだ」


「これを投擲すればいいのか?」


 俺が手渡す榴弾を、イェルハルドは無造作に受け取る。


「おっと、気をつけて持てよ。それは、ショックを受けると炸裂して破片が広範囲に飛び散る爆弾なんだ。爆発したら、持ってる奴だけでなく周りの人間の命もないぞ」

「物騒なものなのだな……」


 慌てて、両手で榴弾を持ち直すイェルハルド。


「相手の攻撃が届かない高度からよく狙って落とすんだ。下から矢や魔法が飛んで来ても、距離があれば簡単にかわせるだろう。狙撃がしたいなら、弓でなくライフル銃を使え。それならこちらに被害が出ず、一方的に攻撃できるだろう」

「しかし、一方的に攻撃するなど卑怯ではないか……」


「戦争に卑怯もクソもあるか。敵はこっちの三十倍の数で攻めてきてるんだぞ。空が飛べるお前らは、うちの貴重な航空戦力だ。一人の犠牲も出さないようにしながら、一人で敵を百人は殺してこい!」

「王陛下、私どもは御命令通りにします!」


 アリアドネがよく教育しているのか、アーリャは素直である。


「よし、アーリャ助かる。どうする、イェルハルドもやるか。それともくだらん騎士の誇りにこだわってやらないか?」

「王よ……我々も、祭祀王ヘリオス陛下より援軍として送られてきているのだ、もちろんやる。ただ、慣れぬ手法で少し気にはなっただけだが、そもそも蛮族どもを殺すのに一切の躊躇いはない。味方の犠牲も、できれば出したくないとは思っていたところだ」


 ならばよしだな。


「七海、榴弾やライフル銃の適時補充はしてやってくれ。陣地の構築はこちらでやらせておく。決戦までに敵の数をどれだけ減らせるかが勝負だ」

「任せておいてくれ!」


 さて、これでどれぐらい敵の数を減らせるかだな。

 神宮寺は航空戦力がこちらにあると予想してないから対応は遅れるはず。


 予定通り一人百殺してくれれば、十万は敵を減らせることとなる。

 まあ、上手くいくかはやらせてみるしかない。


     ※※※


「次々、落として行け」


 そう部下に命じながら、アーリャは気が落ち込むのを感じた。

 次々と、榴弾が炸裂する下の戦場は地獄と化していた。


 ドンッと榴弾が爆発する度に、悲鳴をあげて死んでいく兵士達は、味方の都を攻め滅ぼそうとする憎き敵。

 シルフィード族が見下している蛮族どもである。


 それでも、直撃を受けて爆発する敵や、爆発で飛び散った鉄の破片を浴びて呻き声を上げている人間どもを見下ろすと。

 この阿鼻叫喚地獄を自分達が作り出しているのだと思い知る。


「アーリャ団長……」


 榴弾を落とした部下の少女騎士達は、圧倒的な勝利を前にしてもまったく喜ぶ様子はなく、むしろ引いていた。

 もはやこれは戦闘ですらなく、一方的な殺戮だった。


 引く気持ちは痛いほどわかったが、アーリャは叱咤する。


「何をやっている。もっとドンドン榴弾を落とせ。七海殿に教わっただろう、榴弾が切れたら今度はライフル銃だ!」


 アーリャ自ら、ライフル銃を持って敵を撃ち落とす。

 耳をつんざくような音と反動がある銃は、最初慣れなかったが使い慣れると弓よりも遥かに容易であった。


 引き金に指をかけて、ダダダダッと撃ち放つと凶悪無比を誇った虎人の騎兵隊が呆気無く死んでいく。

 こんなに簡単に人が殺せるとは……。


 あの人族の王は、なんと恐ろしい武器を作り出すのだと戦慄した。


「アーリャ」

「イェルハルド、そっちの仕事は片付いたのか」


「ああ、圧勝だよ。壊滅した敵は、散り散りに逃げていった」


 視線を合わせるだけで。

 何も言わなくても、お互いに考えていることは察しが付く。


 もし真城王に逆らって戦争になっていたら、榴弾の爆風にあおられ鉄の破片を浴びて死んでいったのは、蛮族どもではなく自分達であったかもしれない。

 アリアドネ様を真城王の下へと託し、我らを援軍に送ったシルフィード族の祭祀王ヘリオス陛下の決断は、まさに賢明であったのだ。


「七海殿のところに戻って補給が済んだら逃げた敵を掃討しよう。それが終わったら、新たな敵軍を倒してそれも撃つのだ」


 蛮族達も一気に殲滅されるほど愚かではなく、この空爆や狙撃を予想していたかのように部隊をいくつにもわけて行軍している。

 こうして見える範囲の残敵を掃討しても、まだ敵の群れはいくらでもいた。


「そうだな。真城王の命は、一人で百人殺せだったか。それぐらいはやりきって、我らの力をあの王に見せねばなるまい」


 真城王は、空が飛べる自分達を貴重な戦力だと言っていた。

 ここで他種族よりも使える働きを見せておけば、この恐ろしい武器が自分達の故郷に向くことはない。


 このような強力な武器を預けてもらっているのだから、信用はされているのだろう。

 真城王に従って戦っている限りは安全、そう信じて励むしかないと二人はお互いに目配せして、眼下の敵を殺戮する仕事に戻るのだった。

次回2/12(日)、更新予定です。

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