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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
150/223

150.東よりの使者

 俺は、アリアドネとその配下のペガサスナイト千騎を連れて今の本拠地であるカーンの都へと戻った。

 瞬間移動でも良かったのだが、ペガサスナイトに乗せてもらうとマナの節約にはなるし、これでも十分に速い。


 俺を乗せているのは、聖白翔騎士団の副団長格だった銀髪の女だ。

 確か名前はアーリャだったか、どうでもいいが……。


「これでも、あっという間だしな」

「何ですか。聞こえません?」


「いや、なんでもないと言ったんだ!」

「はい?」


 かなりのスピードで空を疾走するので、声が届きにくくなることが玉に瑕か。

 カーンの城の屋上で七海が手を振っているので、アーリャにそこに降りろと命じた。


「ちょうど良かった、真城ワタルくん。いま、虎人族の国より使者が来ているんだ!」

「使者だと?」


 なんだと思って謁見の間まで言ってみると、待っていたのはいつぞやの猫忍者である。


「確かニャルだったな。何のようだ?」


 どうせこいつが来る程度のことだから、大した用事ではあるまい。


「ニャハハ、聞いて驚くな。この城に向かって、三十万の軍勢が来るニャぞぉぉ!」

「嘘つけ」


「嘘じゃないニャ!」


 ニャルは、毛を逆立てて怒っている。


「しかし、虎人族の槍騎兵隊は一万騎なんだろ。それに竜人族や、熊人族の残党が加わったとして……」

「猫人族もいるニャ!」


 お前ら間抜け猫忍者は、物の数にも入ってねえんだよ。


「俺が偵察ついでに襲ってやったときは、歩兵が七千に騎兵が六千。せいぜい一万三千人だったが、三十万は盛りすぎだろ」


 そう言って笑う俺に、七海が言う。


「……誇張はあるかもしれないけど、可能性としてはありえるかもしれない」

「七海、なんでそう思う?」


 俺の質問に、アリアドネが答える。


「ご主人様。虎人族、竜人族ともに頑強なる騎馬民族です。今でこそ人口が増えて街らしきものを設けているものの、本来は民族全体が一団となって戦う習性を持っております」

「そうか……」


 なるほど、騎馬民族は戦士を集めやすいんだな。

 民族大移動の勢いで攻めてくるって歴史で習った覚えがある。


 そうなると、この猫忍が言うのもまんざら嘘でもなくなるわけか。

 雑魚がどれほどいようがって倒せるって言える数ではないので、少し厄介である。


「ほれみろニャ!」

「いや、ニャル。使者であるお前がちゃんと説明しろよ」


「うるさいニャ、私はちゃんと見たことを言ってるニャぞ。味方だからいいようなものの、虎人族や竜人族は恐ろしい連中ニャ。今のうちに降伏したほうがいいニャ。今ならお前の首だけで助けてやるニャ!」


 ニャルは、想像しただけで震えあがるという顔で話をする。

 この間抜けがこんな演技ができるわけないので、ブラフではないのかもな。


 うちの味方にも犬人族盗賊団がいるが、猫人族はそれと同じぐらい弱い。

 熊人族にすら隷属していたほどの弱小種族が、それを遥かに凌駕する虎人族、竜人族の連合軍を見て震え上がるのもわかるのだが……。


 まさに虎の威を借る猫で、関係ないニャルがそれで偉そうな顔をしてるのは腹が立つ。


「降伏するわけねぇだろ」

「ニャンだと! ほんとにマジヤバイニャーぞ! 三十万の最強軍団ニャぞ! こんな小さな街一溜りもニャーぞ!」


 手を大きく広げて叫んでいるが、もともとここはお前らの拠点都市だっただろ。

 それを卑下してどうする。


 つーか、なんでこいつが軍使なんだろう。

 使者にしては語彙がなさすぎる。


 なんだヤバイニャーって、もうちょっとマシなセリフはないのか。

 何のために来たのか……。


「ふむ、神宮寺も俺達が降伏するとは思ってないだろうから偵察か?」

「フッフッフ、もちろんそれはこちらもわかってるニャ。あの奇妙なメガネ軍師に、お前らの軍の規模を偵察してこいって言われたニャー」


 こいつ……確かに俺がそう話を振ったけども、なんで自慢げに偵察に来たって言っちゃうんだよ。

 あまりにも迂闊すぎて、何か別の深い意図があるのかと疑ってしまうレベルだ。


「お前は、本物のアホだな」

「ニャンだと!」


「だいたい、こんな敵陣のど真ん中にきて殺られるとは思わねえのか?」

「ハハ、平気ニャ。お前らは使者に手出ししたりはできんのニャぞ!」


「おい、アリアドネ。この世界に、そんなルールはあるのか?」

「一般的な軍法でいえばそういうこともないことはありませんが、ご主人様のお考え次第です。比較的文明化されている猫人族や熊人族ならともかく、虎人族や竜人族などの蛮族どもは使者を毎回八つ裂きにすることもありましたから、処刑でもいいかと思います」


 だろうな。

 こんな文明レベルだから、そうなるだろう。


「じゃあ、俺らもそれに倣って始末しておくか」

「お前らは文明国ではないのかニャ! あのメガネは大丈夫だって言ったニャ!」


「神宮寺の都合なんて知らねえよ。偵察なんて痛くも痒くもないが、わざわざこちらの情報を敵に渡すこともないから現地ルールで八つ裂きにしておくか」

「ギャー! いっ、いいのかニャ。私をころ、殺したらみんな怒るニャぞ!」


 この状況になっても、まだ威圧するのか。

 まだ立場がわかってないな。


「じゃあ処刑で決まりだな」

「待つニャ! 私は何も見てないニャ! 聞いてないニャァァ!」


 眼の前で、目と口を手で塞ぎやがった。

 偵察が任務の忍者が、それを言ってどうなるんだよ。


 ちょっと脅してやれば、もっと何か向こうの情報を引き出せるかと思ったのだが。

 ニャルがアホすぎて、揺さぶりをかけることすらできない。どうせこいつ、何も知らないな。


「はぁ……どうする、これ?」

「では逃げられないように、まず足首から切り落としましょうか」


 聖剣に手を掛けたアリアドネがじわりと、ニャルに近づいていく。


「や、止めろニャー、それ以上近づくと、フギャァァ!」

「おい、アリアドネ」


 総毛立てたニャルは絶叫し、アリアドネにギュッと首根っこを掴まれると同時に白目を剥いた。

 同時にぶら下げられたニャルの内股を伝って、ビシャビシャと……。


「失礼しました」

「……さすがに、やりすぎだろ」


「まさか、ご主人様の前でバカ猫が粗相するとは……浅慮でした」


 あークソ、やらかしてくれたな。床が汚れてしまった。

 辺りに漂うアンモニア臭。


 アリアドネに首根っこを掴まれたニャルは、恐怖のあまりションベンを漏らしたのだった。

 これは、ちょっと虐めすぎだろう。


 調子を合わせた俺もだが、アリアドネも人が悪い。

 猫のションベンは臭いんだよなあ。


「ま、殺しはしない。ニャルは生かして使うか」


 俺がそう言うと、アリアドネに下に降ろされたニャルは「フニャア」と崩れ落ちた。

 バカはバカなりの使い道がありそうだ。


     ※※※


 バルトの都の幕下にあって、軍師として作戦を指揮する神宮寺のもとに見張りの兵士から報告が届いた。


「使者として送った猫忍者ニャルが、都の前に晒されております」

「なんですと?」


 何か有益な偵察情報が得られれば良し、殺されてもこっちに痛手はないと思って送った使者だが。

 まさか晒し者にされるとは神宮寺も思わない。


「何かの見せしめでしょうか」

「罠の可能性もありますが、まず軍師様に見せようとそのままにしてあります……」


 とにかくと、神宮寺はそこまで急いで駆けつける。


 門の近くに建てられた丸太に、ロープで括りつけられているニャル。

 そのあたりに、不自然な土の盛り上がりがある。


「近づいてはいけません! その女忍者の周りに地雷が、危険な爆発物が埋まってますよ!」


 神宮寺の言葉に、ニャルを助けだそうとしていた兵士達はビクリと動きを止める。

 真城達は日本の現代兵器を手に入れているのだ。


 そういう情報を得ている以上、地雷の敷設はまず警戒すべきである。

 細心の注意を払って、地中を掘り進めてようやく助けだす。


「地雷はなかったみたいですね」


 どうやらブラフだったようだ。

 神宮寺は、門の前で大爆発したらと思うとちょっと焦ってしまった。


 ちょっと手間がかかっただけで痛手があったわけではないが、翻弄されるのは気に食わない。

 一人で大騒ぎして空手とは、いらぬ恥をかいてしまった。


 おのれ、バカにしてくれると神宮寺は臍を噛む。

 これで敵の偵察情報ぐらい得られなければ、使者を送った意味がまったく無い。


「お前は嘘つきニャー。おかげで酷い目にあったニャー!」


 盛んに被害を訴えるニャル。

 神宮寺はどうでも良いという風に眉根を顰める。あとなんかオシッコ臭いのが気になる。


「生きて帰れたから良かったじゃないですか。それでニャルさん、敵の兵器と軍の規模は見てきたのですか?」


 降ろされたニャルはとんでも無いことを言い出した。


「それを話したら、聞いた相手もろとも頭が爆発するニャー!」

「なっ!」


 そんな兵器は存在しない。九十九十パーセントあり得ない。

 だが、ここはファンタジー世界だ。


 そんな魔法がある可能性が一パーセントでもあるなら、用心深い神宮寺はリスクを冒せない。

 これはしてやられた。


 大体敵の戦力規模は予想できているから、偵察情報が得られないことなど大したことはなかったが……。

 相手を翻弄するつもりでいいように操られてしまったことが、策士を自認する神宮寺のプライドを傷つけた。


「おのれ、真城め……」


 そのうち眼に物を見せてやると、手に持った指揮棒を叩き折った。

 いつまでも泣いているニャルをほったらかして、神宮寺はきびすを返して幕下に戻るのだった。

次回1/22(日)、更新予定です。

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