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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
145/223

145.ラビッタラビット族

 ラビッタラビット族の住むという大陸南方の中央平原にやってきた。

 今回は、ウッサーと二人だけである。父親に挨拶するんだから、他の女までぞろぞろつれていけない。


 徒歩で中央平原まで行こうとすれば、ジェノサイド・リアリティから漆黒の森の脇道を南に抜ける。

 かなりの距離を行かねばならないのだが、転移魔法で一瞬で飛んできたので何の感慨もない。


「旦那様。ここがワタシの故郷、ラビッタラビット族の祭祀王ラビ様がおわすバルカの都デス」

「都ねえ……」


 ぶっちゃけ、ど田舎である。

 都と言っても、祭祀王が住むという建物もただデカイというだけで藁葺き屋根だった。


 藁葺き屋根で見上げるような高層建築物を建てるのは逆に凄いと思うのだが、中世というより古代文明の雰囲気がある。

 バルカの都は、藁葺き屋根の小屋がどこまでも続く広大な集落だった。


 ところどころに、高床式倉庫みたいなのが建っている。

 ちょっと耕してある畑もあるが、おそらくあそこの倉に食べ物を収めているのだろう。


 見渡す限りの草原の先には、大きな川が一本流れているのがみえる。

 草原があるおかげで馬や牛が育っている。


 南方のせいか気候は温暖で、水源もある。

 農耕も牧畜もできる豊かな土地。


 文明の匂いは全くしないが、兎人族の生活は意外と豊かそうである。

 そこら中にウッサーと同じウサギ耳の人間が行き交っているのを見ると、異世界感半端ない。


 さっそく、ウッサーの家に挨拶に行くことにした。

 ウッサーのディアナ家は、ラビッタラビット族の軍務長を代々やっている家だそうで、玄関の前にも槍を構えた歩哨が立っていた。


 武闘家だけしかいないのかと思ったら、槍や弓を使う普通の兵隊もいるらしい。

 建物の中には、ウッサーとよく似た顔の一族がたくさん居た。


 奥に通されると一族の長老が並び、その真ん中に軍務の長らしい威厳のある男がいる。

 ウッサーの父はディアナ家の家長だというので、おそらくこの人だろう。目を合わせると向こうから挨拶してきた。


「お初にお目にかかる。すでに使者より報告は受けております。貴殿がジェノサイド・リアリティーの覇者、真城ワタル殿でしたな」

「そうだが、貴殿は?」


「アリスディアがお世話になっております。また貴殿には、創聖破綻ジェノサイド・リアリティーの危機より世界を救っていただき、感謝の言葉も無い。アリスディアの父、アデライード・アルフォンシーナ・アンジェリーク・アルレット・アラベル・アリーヌ・ディアナです。どうぞ、アデライードと呼んでください」


 やっぱり中央の男がウッサーの父親だったようだ。


「アデライードさんと呼べばいいのか?」


 そう言うと鷹揚に頷く。

 高級そうな硬革鎧を着た威厳ある武者にウサ耳が生えているのは下手すると滑稽に見えそうなのだが、丁寧な口調で穏やかで悠然とした雰囲気を漂わせた人物なので不思議と似合っている。


 見た感じで強いとわかる。

 ウッサーの父親だけあって、武道の方もなかなかできる男らしい。


 それにしてもラビッタラビット族はみんなくっそ長い名前だ。


「なんでワタシは名前で呼ばないのに、お父さんだけちゃんと呼ぶデスか」

「しょうがないだろ」


 まさか父親まで、あだ名で呼ぶわけにはいかん。

 そういえば、すっかり忘れていたがアリスディアがウッサーの本名だったな。


 すっかりウッサーなので、今さらアリスディアもないだろ。

 アリスディアってキャラじゃないし、ましてやこいつら兎人族の本名は長すぎる。


 ラビッタラビット族は、始祖から初めて家長の名前を引き継いでいくので、こういう長い名前になるそうだ。

 正式な名乗りは、特別なときにしかしないらしい。


 祖先の誇りを大事にする風潮があり、誰がどこのものかすぐわかるので兎人同士では便利らしいのだが。

 武門の誉れ高きディアナ家とか紹介されても、部外者の俺はピンとこない。


 ウッサーと結婚するとなれば、俺もこの家の関係者になるわけだからそうも言ってられないかな。

 うーむ。


 まさか、本当に父親に挨拶するところまでいくとは……。

 ウッサーとはもう長い付き合いになって情があるので今さら嫌だとは言わんが、俺も焼きが回ったものである。


「お父様。旦那様とはダンジョンの探索中で出会ったので、順序が逆になったのをお許し下さいデス」

「ハハッ、気にすることはない。こんな良き相手を見つけてきたのだから、順序などどうでもいい。結婚の儀などは後からやったらいいのだ。ふーむ、それにしてもジェノサイド・リアリティーの覇者が相手とは、我が娘も良い旦那を見つけたものだ。じつにめでたい」


 ウッサーの父がそう言って膝を叩いて笑うと、周りの人間もにこやかに笑い出し祝言を述べた。

 少し空気が和む。


 さあ、結婚を祝う宴の準備だと皆が和やかになったところで、後ろがざわめく。

 なんだと思い振り向くと、囲いを割って白い武道着を着たウサ耳の若い男が飛び込んできた。


「その結婚待った! アリスディアの結婚なんてボクは認めないぞ!」

「ウッサー誰だ?」


「あー、あれはワタシの幼馴染のマゴウという男デス。気にしないでくださいデス」


 ウッサーの言葉に、マゴウという白帯の若い武闘家が叫ぶ。


「いや、気にしてくれ! ボクこそがアリスディアの婚約者なんだから!」

「なんだ、ウッサー婚約者いたんじゃないか」


 いきなり、変なヤツが出てきたから驚いた。

 結婚式に他の男が花嫁を連れ去りにやってくるのはドラマの定番だが、まさかリアルでこんなベタな展開が起きるとは思わなかった。


「マゴウは、ワタシ達が小さい頃にあんまりしつこいので『決闘に勝ったら結婚してもいい』と言ったのを、勝手に解釈して婚約したと言ってるだけデス。弱い男なんて話にならないデス」


 まあ、ウッサーと比べたら他の男は弱いってことになるか。

 容赦のないウッサーに言葉に、マゴウは激高した。


「そんなことはない、僕は修行して強くなったんだ!」

「ワタシに勝ったこともない。ジェノサイド・リアリティーに挑む勇士にも選ばれなかったマゴウがいまさら何を言ってるデスか」


「ボクは、兎巌山うがんさんで修行してきたんだ。すでに実力も下級師範ローマスターに達している!」


 俺は「ほう」と声を出して唸った。

 下級でも、マスタークラスに到達しているとはなかなか見所があるじゃないか。


 ジェノサイド・リアリティーの外でそこまで鍛えるのは大変だろう。

 最初に会った頃のウッサーぐらいの実力はあるってことだ。


 ちなみに兎巌山うがんさんというのは、致死率五十パーセントの凄まじい修行場だそうだ。

 それなりに覚悟してきているってことだ。


「ボクのこの拳にかけて、その結婚は認めない。ウッサーと結婚したいなら、ボクを倒してからにしてもらおう!」

「じゃあもう、面倒くさいからちゃっちゃと勝負して決めるデス」


 えっ、ウッサーがやるつもりなのかよ。

 腕をまくりあげてウッサーがマゴウをぶっ飛ばそうと前に出るので、俺は手で抑えた。


「待てウッサー。マゴウは、俺が相手をしてやろう」

「えー、旦那様。ワタシのために、戦ってくれるんデスか!」


 嬉しそうにするな。

 お前のためではない。


 いくらマゴウが修行して下級師範ローマスターになったとはいえ、すでに最上級師範ハイエストマスターになっているウッサーが相手では瞬殺されてしまう。

 それでは、あまりにも男の面子が立たないではないか。


 今は、戦争のための戦力を欲しているところだ。

 下級師範ローマスターの武闘家なら使える駒になる。


 いい感じに接戦して下してやれば、後々協力してくれるかもしれない。

 それにマゴウが勝負を挑んだのは、この俺だからな。


「この勝負、受けてやらねば俺の名が廃るというものだろ」

「旦那様、かっこいいーデス!」


 俺がマゴウの決闘を受けると言うと、みんな大盛り上がりでリングに案内された。

 なんか凄い手馴れているのだが、聞いてみると全員が武闘家であるラビッタラビット族は、重要な決定を全て決闘で決めるらしい。


 どこまでも脳筋種族である。

 ウッサーを争っての決闘という話が一瞬で都全体に伝わって、辺りがウサギ耳でいっぱいになった。


 みんなワイワイと楽しそうである。

 こいつらにとっては、決闘はお祭りなんだな。


「ボクはあんたに勝ってアリスディアを取り戻すんだ。恨まないでくれよ!」

「そっちこそ、負けても恨むなよ」


 遺恨が残るような勝負になってはいけないので、正々堂々と決闘してやろう。

 ウッサーの父が、勝敗が決まったのちに遺恨を残さないようにと型通りの注意をしてから「はじめ!」と合図すると試合は始まった。


兎月流連蹴脚うげつりゅうれんしゅうきゃく!」


 これは、ウッサーと同じ流派だから二段蹴りでくるか。

 そう思って両手で受けるが――


「あっ」


 ――しまった。

 攻撃は二段蹴りどころではなかった。二段の蹴りを繰り出した直後、それよりもはるかに早いスピードで三段目の蹴りが俺の顔めがけて飛び込んできた!


 いい感じの当たりだったので、手加減するつもりがつい反射的に掴んで思いっきり投げ飛ばしてしまった。

 マゴウは、そのまま「うわー」とぶっ飛んでいって、祭祀王の館の屋根にスポッと突っ込んで消えた。


 これは、俺が相手を甘く見過ぎた。

 最初の二段蹴りはフェイントで、中空で体捻りを加えて三段目に真打を持ってくる蹴り技、見事じゃないか。


 さすがは修行したというだけのことはある。

 俺に手加減させなかったマゴウは強かったのだ。


 しかし、見た目は瞬殺されちゃった形になっちゃうよな、可哀想に。

 実力差がありすぎるってのも困ったものだ。


「ワタル殿の勝ちだ!」


 ウッサーの父がそう宣言すると、わーと歓声が上がった。

 周りの人は、これがジェノサイド・リアリティーの覇者の力かと騒いでいる。


「さすが旦那様デス。ワタシのために戦ってくれるなんて感激デス!」


 ウッサーは、ボインボイン胸を揺らせながら狂喜乱舞である。

 お前のためじゃないと言ってるだろ。


 そもそも、あれぐらいの相手ならウッサーも楽勝だろう。

 ウッサーのお父さんも得意満面である。


下級師範ローマスターの武闘家を歯牙にもかけない実力。さすがは、ジェノサイド・リアリティーの攻略者ですな。どうか、婿殿と呼ばせてください。さあ皆の者、今日は勇士が我が一族に加わってくれた祝いだ。倉から一番上等な酒を持って来てくれ! 結婚式の宴だぞ!」


 ウッサーの父親は、俺が勝ったのが嬉しかったのか、あれがうちの娘の旦那だと辺りに自慢しまくっている。

 まあ、盛り上がってるみたいだからいいか……。

次回12/18(日)、更新予定です。

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