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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
143/223

143.蘇生十人

 バルドの都では、一万もの騎兵が集結し戦争準備は完全に整っていたので、すぐにでも攻めてくるかと思っていたのだが来ないので拍子抜けする。

 俺達の国と、虎人バリトラ族との支配地域の間にはロナウ川が流れている。


 その川べりの小さな街ポンズ辺りまでが俺の領土になるわけだが、国境付近のあたりに斥候が時折来るだけで。

 敵は不気味なほど静かで、動きを見せない。


 七海がいまのうちに装備の補給と新たな蘇生を済まそうというので、俺達は再びジェノサイド・リアリティーのダンジョンへと戻ってきた。

 街への入り口の階段まで行くと、街の番人に使っている黛京華まゆずみきょうかがすっ飛んできた。


「ちょっと真城くん!」

「なんだ」


「暇なの……街も代わり映えしないし、みんないなくなっちゃったし、深刻に暇なのよ! しかも、真城くんは何度連絡しても返事ををよこさない。私、何のためにここにいるのかわかんなくなってくるわ」

「そりゃ、悪かったな」


 こっちは、街でぶらぶらしているニートと違って忙しいのだ。

 監視役は暇だとは思うが、暇つぶしぐらい自分でやってくれよ。


「なんとかしてよ。そうだ、真城くんに付いて私も旅しようかしら!」

「街の見張り以外で、お前をおいておく意味がないのだが?」


「あら、私みたいな彼女がいたら自慢できるわよ」

「お前……それ、俺の周り見て言ってるのか?」


 顔だけなら、たしかに京華もまあ見れたものだ。

 だが、それを言うなら久美子は同等レベルに美形であるし、アリアドネなど妖精の如き美貌だぞ。


 なにせ、種族が違う。

 美貌だけではない、プロポーションでいえば、恵体であるウッサーに勝てないだろ?


「ううっ……」


 モテると自信を持っている京華も、さすがに言いよどんだ。

 金髪碧眼のシルフィード族と比べて、自分が優れていると言い張るほど厚顔無恥ではなかったようだ。


 わかったら諦めろ。

 もうさすがに、これ以上付いてくる女はいらん。


 まあ、暇だと言うのもわかるけどな。

 俺達と一緒に戦う意志のある生徒はカーンの都に来ているし、やる気のない生徒は日本に帰ってしまうのでジェノサイド・リアリティーの街はいつも閑散としている。


「なんだったらお前も、一旦日本に戻ってもいいぞ」

「えー、そんなに私って要らない?」


 いや、一旦帰って暇つぶしの道具でも買ってきてから戻ってくればいいと言ってる。


「要らないってことはないから、こうして金で雇ってるんだ。ここの監視役を引き受けてくれる物好きな奴は、他に見つからないからな」


 俺は、ポケットから金貨を取り出して京華に渡す。

 京華も現金なもので、金を受け取るのを遠慮したことはない。


「ふへへ、ありがとう。これがある限りは、私も真城くんに付くよ。お金を貯めておけば、私は一人でも生きていける。日本に戻るのも、いまはいいや。こっちだって工夫すれば暇つぶしの方法はあるし、今更日本ってのもね」


 まあ、それもわかるけどな。

 もうこんな世界は嫌だと日本に逃げ帰る生徒もいれば、京華のようにすっかりこっちの世界にハマってしまう生徒もいる。


 俺もハマっているたちなので、よくわかる。

 ジェノサイド・リアリティーといっても、街にいれば命の危険もなく日本とそう変わりない文化レベルで生活できる。


 時折、退屈しのぎにダンジョンの浅い階層を漁れば、十分な金も手に入る。

 それに、ここでは受験勉強もなければ、重苦しい世相も将来の不安もない。


 俺がこの世界に居続ける一番の理由は、もう日本で暮らすのが不可能なほど強くなってしまったからだが。

 そうでなくても、京華のように日本に帰りたくない人間の気持ちは理解できた。


 この世界は、フロンティアだ。

 ろくでもないモンスターが跋扈し、様々な種族や国家が民族紛争をやらかしてるような土地だが、それだけに切り取り自由。


 力さえあれば、なんでもできる自由がある。

 特に自分の国を作りたいわけではなかったが、アリアドネにそそのかされて建国してみれば、自分の居場所があるのは思ったより悪くない気分だった。


 窮屈な日本にいるより、ここで自分の国を建てたほうが楽しいに違いない。


「京華、日本に帰りたくなったら言えよ。俺はお前を金で雇ってはいるが、何かを強制するつもりはない。お前はお前で、好きなように生きればいい」

「うん、そうさせてもらう。そう言うなら、このまま雇われてあげるわね」


 そりゃ良かった。

 さてと、京華はまあどうでもいいとして、まずやるべきは蘇生だろう。


 こちらには、手元に『再生のコイン』が五枚ある。

 つまり、五人は選択で蘇らせることができる。


 あと五人は、ランダムで生き返ることになる。

 俺達は、エレベーターで地下に降りていく。


 蘇生する相手は決まっている。


「三枚は、こっちの都合でいいんだな?」


 七海にそう尋ねると、「真城くんのコインだから好きに使って欲しい」と笑った。

 お前らの頑張りもコインに入ってると思うんだが、すでにアスリート軍団はあらかた蘇らせたから、こっちの都合も聞いてもらうことにしよう、


「じゃあ、久美子。そろそろ、お前の友達を蘇らせるか」

「本当に?」


「別にお前のために蘇らせるわけではないけどな」

「それでも、ありがとう」


 嬉しそうな久美子に礼を言われたが、本当にお前のためではない。俺もあいつらは、気になっていたのだ。

 ジェノサイド・リアリティーに転移した当初に出会った、A組の久美子の友達。


 真藤愛彩まとうあや佐敷絵菜さしきえな立花澪たちばなみおの三人。

 特に真藤愛彩は、出会った直後に死んで夢見が悪かった。


 あの時は、生き返らせることのできるゲームだったら良かったのにと思ったのだが。

 こうして生き返らせることができるようになったのだ。


「じゃあ、生き返らせるからな」


 俺はまず、ガラスケースに閉じ込められているところに行って『生命のコイン』を入れる。

 その瞬間ガバっとケースが開いて、中の液体とともに真藤が転げ出てくる。


「愛彩ちゃん」


 久美子が駆け寄って、ケホケホと咳き込んでいる愛彩を生き返らせる。

 これ、向こうの黄泉ハデスの世界から見ると、どう見えるんだろうな。


 蘇らせた人が、突然黄泉ハデスから消えてなくなったように見えるのだろうか。

 俺は続いて、立花と佐敷を蘇らせる。


「久しぶりだな、立花。大丈夫か?」

「……うん、真城くんが蘇らせてくれたんだね。ありがとう」


 立花は本当に感謝してるのかしてないのかわからないような口調で、言う。

 こいつらも、ジェノサイド・リアリティーの最後のほうまで三軍に入って生きてたが、瀬木が死んだ時の戦いに巻き込まれて殺されてしまっていた。


「いや、礼は要らんぞ……」


 こいつらの死は、どうしようもなかったとは思うが。

 あの時助けられなかったことに、俺だって責任を感じてないこともない。


 蘇生されて倒れている佐敷も助け起こそうとすると、ビクビクっといきなり身を震わせるので何かと思ってびっくりした。


「やだー、私……こんな格好で恥ずかしい」

「ああ、大変だったな」


 佐敷は、顔を真赤にしている。

 別にイヤラシイ服装をしているってわけじゃなくて、佐敷絵菜が着ているのはいまにも「ヒャッハー」と言い出しそうな人が着る凶悪な骨鎧ボーンアーマーだった。


 黄泉ハデスは、地獄のような世界である。

 ジェノサイド・リアリティーにもない貴重なマジックアイテムが拾える反面、街や店が存在せず装備はろくなものがない。


 今更格好を気にするのかと言うのは酷だろう。

 骨鎧ボーンアーマーは、女の子にはかなりキツイ装備であるかもしれない。


 黄泉ハデスの環境は厳しいと聞くので、装備を選んでる余裕はなかったのだろうな。


「魔術師用のローブしかないけど、これでいいか?」

「ありがとうございます。着替えてくるね!」


 確か、佐敷の職業は魔術師系だったと思うからこれでいいだろう。

 魔術師系が骨鎧ボーンアーマー付けなきゃならない、黄泉ハデスの環境も凄まじいけどな。


 柱の陰で魔術師ローブに着替えて、身なりを整えた佐敷が振り向く。

 巨乳メガネである佐敷は、こうしてみれば普通に可愛らしい女の子である。魔術師ローブも、よく似あってるな。


「あの、真城くん」

「なんだ、礼なら要らないからな」


「そうじゃなくて、私……貴方のことが好きです!」

「はあ?」


「……迷惑ですか」

「いや、それ以前に、七海じゃなくて俺か?」


 佐敷は、コクンと頷く。

 なんで俺だよ。


 いきなり告白されても困惑するばかりだ。

 嫌われるならともかく、佐敷絵菜に好かれるようなことをやった覚えがない。


「真城くんは、私達のこと何度も助けてくれたじゃないですか。それにすごく優しいですし……」

「はぁ……」


 優しいだと?

 なんだか、沽券に関わるようなことを言われてるような気がする。


 後ろから久美子が混ぜっ返すように言った。


「うふふ。困ってる絵菜に、すぐ着替えを渡してあげるのも優しいんじゃない?」

「お前、笑うなよ」


 服を渡すぐらいなんとでもないことだろ。

 佐敷は、続けて言う。


「とにかく、私は真城くんが好きです。死ぬ前になんで言わなかったんだろうって、ずっと後悔してましたから……いまここで」

「ホントかよ」


 俺がそうぼやくと、立花が「……ずっと地獄で言ってた」と呟いた。

 真藤も「本当だよ」と付け加える。


 女はよくわからんが、まあ嘘をついているとも思わない。

 こういう場合どう言うべきか少し悩むな。


「うん、まあ、ありがと。普通の女の子に好かれたのは、初めてかもしれない」


 それを聞いて、久美子が声を荒げた。


「はぁぁぁあ、ワタルくんそれどういう意味?」


 久美子がなんか威圧してくるが、お前らは普通の女の子じゃないだろ。

 そこに、佐敷が続けて言う。


「だから! 良かったら、私も真城くんと一緒に連れてってください!」


 うーん、これには困った。

 俺も、もうこれ以上女の連れはいらないんだが……。


「これ以上、女が増えるのは困るデス」


 ほら、ウッサーも困った顔だ。

 あと瀬木も、なんかがっくりとしていた。


 どうやら、復活させた十人に聞いて回っても『性転換の杖』は手に入らなかったようである。

 そりゃそうだろう。あれはそうそう簡単にでるものじゃないんだって。


 それだけは良かったが……。

 てっきり日本に戻るだろうと思っていた佐敷絵菜が残るつもりなら、こっちも処遇を考えなければならない。

次回12/4(日)、更新予定です。

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