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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
140/223

140.瀬木の様子を見に行く

 カーンの居城での打ち合わせを終えた俺は、こっそりと街の中の様子を探る。

 街の人族は、王である俺を崇拝の対象にしているらしいから見つかったら大変なことになる。


 顔が割れてないのでまだ助かってるが、今後どうしたらいいんだろうな。

 ハイドしながら素早く移動していると目的地にたどり着いた。カーンの都の中ほどに、大きな駅舎がある。


 本来は輸送用の馬車が止まるところだが、物資を集積するのにも便利だしそこが広いので七海達もジープ置き場に使っている。

 そこにいる女生徒に、瀬木はどこにいるのかと尋ねるとジープの下を指さされた。


「楽しそうだな瀬木」

「ああ、真城くんおかえり。うん、このジープは組み立てるタイプだから工夫できて面白いよ」


 ジープを整備していたのか。

 車の下から出てきた瀬木の美しい顔は、オイルで汚れていた。


「そうか……」


 普通の作業服を着ているのに、色香が凄い。

 薄汚れているのが、逆に美しさを引き立てる。


 もともと女子よりも可愛い男子が、女子になってしまったのだから……。


「どうしたの?」

「いや、顔のところ汚れてるぞ」


「あっ、ああ」

「どうせ飯も食わないでずっと仕事してたんだろう。よかったら食わないか?」


 和葉が持ってきてくれたドラゴンステーキのサンドイッチを、瀬木に差し出す。


「ありがとう。いただくよ。このお肉美味しいよね」


 パンズにも肉汁がよく染み込み、冷めても美味い。

 瀬木は、ハンカチで手を拭くとサンドイッチに手を伸ばした。


「どうした、遠慮せずもっと食え。まあ俺が作ったんじゃないが、俺はもう食べたから、これは瀬木の分として持ってきたんだ」

「そう、じゃあもう一つ」


 また寝食も忘れて、仕事に夢中になっていたのだろう。

 組み立て式のジープや、機関銃などは精密機械が好きな瀬木にとってはいいおもちゃだ。


 瀬木が率いていた三軍は、ここでは物資調達や整備を主に担当している。

 輸送班や整備班と言うべき働き。


 本格的な戦闘が始まれば、工兵となったり後方からの遠距離攻撃を担当することになる。

 カーンの都まで運ばれてきたジープは、今のところ六台。


 もっと欲しいところだが、これだけでも助かる。

 車で往復することもできるようになったため、ジェノサイド・リアリティーからカーンの都の駅舎を繋ぐささやかな輸送路も整備されたといえる。


 ミニミ軽機関銃や106ミリ無反動砲も大量の弾薬とともに運び込まれて、主にこの付近のモンスターを一掃する武器となっている。

 モンスターとの戦闘は、今後の本格的な戦いの予行練習にはちょうどいいだろう。


 瀬木に、運ばれてきた武器も見せてもらった。

 頼もしい武装ではあるが敵の大軍を考えると、やはり数が足りないか。


「どうだ、使えそうか?」

「うーんそうだね。無反動砲は、この付近のモンスター相手にはオーバースペックなぐらいだよ。戦争が始まるって噂があるけど本当?」


 瀬木が不安そうに尋ねる。


「残念ながら本当だ。神宮寺が敵を煽ってるからな」


 俺がそう言うと、瀬木は悲しそうに顔をうつむかせた。


「そう……」

「すまんな。俺の戦いに巻き込んでしまって」


「ううん。これは、僕達の戦いでもあるから真城くんが責任を感じることはないよ。そうだ、またジェノサイド・リアリティーで武器を調達するなら爆薬も手にはいらないかな」

「爆薬?」


「うん。大規模戦闘になるなら、待ち構えて罠を仕掛けたほうがいいんじゃないかと。進んだ先で爆発が起これば、敵は怯むよ。本当は地雷が一番いいんだけど、それはさすがに手にはいらないでしょ?」

「地雷って、怖い発想をするな」


 対人地雷は極めて効果的な兵器だが、その相手を選ばない効果は極めて凶悪といえる。

 埋めた地雷がずっとそのままになっていて、子供が踏んで足をなくしたりするので禁止されてたはず。


 いくら俺の兄貴でも、自衛隊も持っていない装備は手にはいらないだろう。


「使いやすさを考えたら、手榴弾もあったほうがいいかな。機関銃や無反動砲だけでは、装備のバランスが良くないよ」

「お、おう……七海に相談してみる」


 戦争と聞いて悲しそうにしていたのだが、実戦を想定した工夫となれば別らしい。

 瀬木は優しい奴だが、決して甘くはない。


 ジェノサイド・リアリティーで廃材を組み合わせて大型の弩などを作っていたのだから、今度は爆薬を使って罠を作るぐらいのことはしてみせるだろう。

 そうでなければ、生き抜けなかった戦いを経験してきている。


「あと僕からも相談いいかな」

「なんだ?」


 珍しく瀬木の視線が泳いでいる。


「あのさ、黄泉ハデスから蘇ってきた人がアイテムを持ってくるよね。真城くんも確保してたと思うんだけど、それを見せてもらえないかなと思って」


 あーなるほど、『性転換の杖』を探してるのか。


「いいぞ。『電撃の杖』とかあっても俺は使わんからな。使いようによってはマシンガンより便利かもしれない。瀬木達の班が使えそうなのがあったら、持って行っていいぞ」


 俺がリュックサックから取り出した杖や巻物などを、瀬木は躍起になって探す。

 残念だがないんだよなあ。


 もしも俺の手元に『性転換の杖』が入ったら、焼却処分してるしな。


「ううーん、ありがとう。ぜひ使わせてもらうね」


 目に見えて落胆してる。

 ちょっと可哀想だが、瀬木はそのままで居たほうが絶対いいんだよな。


 俺なんか最初から女にしか見えてなかったから。

 それはそれとして、女の子になって帰ってきたら両親にどう言えばいいんだよとかもあるかもしれないので、それでこっちに残ってるってこともあるかもしれない。


「そうだ瀬木、うちの風呂使うか?」

「そんなに僕、汚いかな」


 作業着の匂いをクンクンと嗅いでいる瀬木。

 香しい匂いだよ。


 そうじゃなくて、瀬木は女子とも男子とも一緒に風呂に入れないだろうから

 こちらの文化では、風呂は大金持ちか貴族ぐらいしか入れないので、瀬木達の住居には風呂はついてないだろう。


「今なら湯も張ってるし、開けてやれるぞ」


 準備は抜かりない。慎重に、釣り糸を垂らす。

 少し迷う様子を見せた瀬木だったが、コクンと頷いた。


「そうだね。じゃあお世話になるかな」


 よし、魚は引っかかった。

次回11/13(日)、更新予定です。

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