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ジェノサイド・リアリティー  作者: 風来山
第二部 『コンティニュー・ムンドゥス』
136/223

136.マナドレインの杖

 紫玉の杖から放たれる魔法が、俺の身体を重くした。

 この感覚は、マナ切れ。


「神宮寺、マナドレインの杖だな?」

「ハハハッ、ご名答!」


 久美子に向けて、神宮寺が振るった紫の宝玉が付いた杖。

 マナドレインの杖である。


 タイミングよく振れば、転移を失敗させて俺達を分断させることもできる。

 傷ついた久美子の転移魔法を阻害して、即座に殺すつもりだったのだろう。


 まったくよく奸智が回るものだ。

 だが俺も、ただそのマナドレインの魔法を受けたわけではない。


 その間にも、神宮寺に向かって孤絶ソリチュードを振るっている。

 長大な野太刀は、前に出たやつに届く。


 もちろん、神宮寺が俺の刃先が届く前に準備しておいた『ショートテレポートの巻物』で避けようとするのはわかっていた。

 すでに俺の前から、別の場所に瞬間移動している。だが、間に合った。


「そんな杖、何度も使わせないぞ」

「なっ、杖が!」


 俺の狙いは、神宮寺を斬ることではない。

 それを狙っていたら、間に合わないのはわかっていた。


 だから、孤絶ソリチュードの刃先は、杖だけを狙って通した。

 杖を斬ることには成功した。


 神宮寺の詰めの甘さだ。

 不用意に前に出るから、そういうことにもなる。


 策が成功したと油断した瞬間こそが隙になる。

 これでわかったな。これ以上の策はない。


「邪魔だから、その杖だけは潰させてもらった」

「フッ……ハハッ。だがまだ、こっちは圧倒的に有利です! 残ったのが真城くんなら思わぬ僥倖というもの。二人の祭祀王の方々、この場で諸悪の根源たる真城ワタルを倒してしまいましょう!」


 マナドレインは、久美子をかばった俺が受けてしまった。

 マナ残量はゼロだが、マナポーション代わりになる宝石を使えば、まだ脱出できる。


 だが問題は、俺を囲んでいる強敵が、それをさせてくれる時間をくれるほど甘くはないということ。

 こうしている間にも、竜人族の祭祀王ヴイーヴルの爪と、虎人族の祭祀王ガドゥンガンの剣が左右から迫る。


「ぬおっ、ワシの剣が!」


 久美子を斬り刻んだヴイーヴルの爪は硬かったが、ガドゥンガンの予備の剣はナマクラだったらしい。

 すぐさま孤絶ソリチュードで断ち斬れたので、だいぶ楽になった。


 さすがに俺でも、祭祀王二人を同時に相手すればきつい。

 騎馬武者として強かったガドゥンガンが馬上にあり、神殺しの槍を構えた状態なら危うかっただろう。


 ガドゥンガンを黒馬から蹴り落としておいてくれたウッサーに感謝しとかないとな。


「何をやってるんです。相手はマナ切れをおこしてるんですよ。魔法で殺ればいいでしょう!」


 神宮寺は、そんなことを叫んでいる。

 その声にガドゥンガンが、最上級ハイエストクラスの炎球ファイアーボールを撃ち込んできた。


 これは、避けられない。


「だったら、こうするまでだ!」

「ぬあぁぁ!」


 俺は、あえて炎球ファイアーボールに向けて突っ込んだ。

 紅蓮の炎が身を焼くが、死にはしない。むしろ、武器を失ったガドゥンガンこそが囲みの穴だ。


 俺は、魔法を放つガドゥンガンの腕を斬り飛ばして、囲みを抜けた。

 ワラワラと現れる熊人族など、物の数ではない。


「真城ぉぉ! ここで会ったが百年目めぇぇ!」

「んっ?」


「ぎゃあああ」


 野太い悲鳴。

 熊人族と一緒になんか斬ったようだが、モジャ頭だったかもしれん。


 この乱戦で、雑魚にまでかまってる余裕が無い。

 後ろから、神宮寺とヴイーヴルが言い争う声が聞こえた。


「ヴイーヴル。何で指示通りに魔法を使わないんです。貴方も祭祀王でしょうが!」

「私は武人として戦っている。貴様の指図など受けぬ!」


 付け焼刃の協力で、連携がうまくいかなかったようだ。

 囲みを突っ切って抜けた俺は、リュックサックから宝石を取り出すと、それを使って転移でカーンの城まで飛んだ。


     ※※※


「あ、戻ってきたデス」

「ご主人様、よくぞお戻りになられました。ご無事ですか?」


「ふうっ。無事とは言いがたいが、薄皮一枚焼かれただけだ。この程度ならポーションで治るからな」


 俺はさっさとヘルスポーションを飲んで治してしまう。久美子も、すぐに治療を終えていたらしい。

 着ている忍者服の背中には、竜人族の祭祀王ヴイーヴルの爪あとがしっかりと残っている。


「虎人族と竜人族が手を組んでることに気が付かなかった。それでワタルくんまで危険に晒して、私ってバカだわ……」

「言ってもしょうがないだろ。向こうも、できる限りの準備をしていたということだ」


 意気消沈している久美子の肩を抱いて慰めてやる。

 そうしてやっても、皮肉の一つも言わないとはよっぽど落ち込んでるんだな。


 話を切り替えるように、アリアドネが言う。


「虎人族と竜人族が手を組んだとなれば、こちらに攻めかかってくるのは必定。こちらも、さっそく策を練らねばなりません」

「そうだな。向こうも待ちぶせ作戦が失敗したんだから、今度は軍同士の戦いになるんだろう」


 できれば、戦争ではなく個人戦で決着をつけたいところだったが。

 ああいう罠の張り方をしてくるのだから、敵ももう各個撃破されるような隙はみせまい。


 軍がぶつかり合う戦争になってしまう。

 それは避けたかったのだが、しょうがねえな。


「だが今は、とりあえず風呂にでも入って休む。さすがに疲れた」


 今回は、ヒヤヒヤさせられた。

 ずっと争っていたはずの祭祀王の二人を曲がりなりにも協調させるのに成功したとは、神宮寺の奸智も甘く見てはいけない。


 だが俺を倒す絶好の機会だとみたからこそ、あいつも今回は惜しみなく奥の手まで出したはずだ。

 マナドレインの杖を潰せたことには意味があった。


 前哨戦は引き分けといったところか。

 次が勝負だな。


 向こうの手の内がこれで透けて見えたのだから、あとはこちらも戦力を整えて確実に殺るだけだ。


「ご主人様、お風呂までご案内いたします」


 風呂場まで案内してくれるのはいいんだが、中まで付いてくるのか。

 自分の鎧を取ると、俺の服まで脱がそうとするので止めようと思ったのだが。


「よくぞご無事でお戻りくださいました。妾は、心配しておりました」

「ああ……」


 俺の背中にそうすがりついてくるものを剥がそうという気にもなれず、まあいいかと思った。

 心配かけたのは事実だしな。


「ご主人様のお背中、お流しいたしますね」

「勝手にしろ」


 そのまま風呂に行くと、後ろからウッサーや久美子の声がおいかけてくる。


「ずるいデス。私が妻デスよ!」

「アリアドネ。なにごく自然な流れで一緒に入ろうとしてるのよ!」


 やっぱりこうなるのか。

 俺は、一人でゆっくりと今後の方策を考えたかったんだけどな。


 アリアドネが言うとおりだ。

 向こうが策でくるならば、こちらも策がいるだろう。


 背中を流してもらいながら、俺はこの情勢下で神宮寺を潰す方策を、しばし沈思黙考するのであった。

次回10/23(日)、更新予定です。

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