聖者達part アルザール城での居住生活-7
テンペストが結成から初めての死者の名前はバルシュメクという性格は男らしい女性だった。愛称バルシー、職業は盾騎士で、黒い髪に青い瞳で本人が自虐するほど平坦な胸をした女性だったという。享年わずか19歳と、ある意味ガンさんと同レベルの天才だったのだろうと思った。
そんな人の部屋には、ヴァイオリンやらピアノ……果てにハープやドラムなどの幅広い楽器が詰め込まれていた。本棚には音楽関連の本が大量にあり、また楽譜が机や棚の上から溢れ出していた。僕はそれを見て、あぁ、バルシュメクさんは音楽が好きだったんだなぁと感じた。
「元々支援型だったバルシーは俺も先代も………誰もが信頼していた。誰もが彼女を信じていたんだよ。今は防御面がヒルージ以外は低い。まぁ、ヒルージュは別の意味でだからねぁ………。」
「じゃあ、なぜ亡くなったんですか?」
「…………二人の勇者が共謀して元魔王の俺の討伐のためにテンペストの拠点、アルザール城を攻めてきた。その時に先代は勇者カク、俺達は勇者ゼレラと戦ったわけだ。先代はカクを圧倒していたが、俺達はゼレラに苦戦したんだが勝った。情けない話、満身創痍だったけどな。」
そして、ここでナトさんの声のトーンが下がった。オクターブって、低くなるときも使えるのだろうか?と思ってしまったのはここだけの話だ。元アイドルでも音楽関連の知識は良い訳じゃあ無いからね……。
「まず、勇者ゼレラを殺した………それはクロの部屋の奴なんだが、その後に最後の爆弾背負ってたんだよ…………。で、その爆発は相手をどこか遠いところに飛ばす奴だったわけだ。だからアイツの死体は墓の下には埋まっていない。埋めてあるのはアイツが最後に使っていた盾が埋まっている。アイツが抜けてから三年後に爆破のアイツが来たから盗まれる心配も無いのだけどな。」
「………………色々な所で何かしていますよね………爆破のあの人…………。」
僕はそう思いながら部屋の中を見ると、兎子が早速部屋の中に入って楽器であるヴァイオリンを手に取っていた。そして楽譜を見ながらゆっくりと演奏を始めた。それは多分、バルシュメクさんが書いた楽譜なのだろう。
しかし、ゆっくりとした曲のはずなのに兎子の手は非常に速く動いていた。それはもう目で追えないほどに弦が震えていた。何が起きているのか分からない。ただ速いのに遅く、心地良い曲であるのがなぜなのかが不思議だったのだ。
でも、その曲は唐突に終わった。まだフィニッシュという流れでも無ければ打ち切りのような感じも無い。まるでうっすらと道が見えるのにその道の前で立ち止まった様な気分だった。
「…………ここで、終わってる。完成した曲………弾いてみたい。」
「いや、あれどうやって弾けてたのさ………。手の速さが異常だったんだけど……。」
「………多分、これぐらいなら私達の世界の音楽家なら誰でも弾けるよ?ただこの曲は弾いた音から出た僅かな雑音を消すように別の弦を弾いたりしているだけだから。」
「三味線のさわりみたいなのは聞いたことあるけどヴァイオリンではまず聞いたことが無いよ。後著名な人に凄い期待を寄せないで!!ゆっくりな曲で凄く速く動かすという事はあるかもしれないけど、雑音まで消すのは異常だから、無理ですから!!」
「………とゆーか兎子って音楽関連の道じゃないよね?完全に絵だけだよね?」
「…………漫画家、やればなんでもできる。」
「何で人間何でもできるみたいに言ってるの?無理だって。」
塔子ちゃんがそう言うと、兎子はキリッとした目で説明を始める。ちなみにこれ、兎子が実際にできたと言い切っているので信用性があるのか無いのかが分かりづらい。しかし、それでも信用できそうに無かった。
「音楽関連の本を資料としてかなりの数読めば楽器も弾けるし歌も歌えるようになる。料理関連の本を読めば最低でも一週間で高い店に出せる程の料理は作れるようになるし、資格とかも簡単に取れるよ?18になってすぐにMTの自動車免許取れたし資格書く欄凄いことになってたと思うから。」
「いやその方法だと漫画家は不老不死のメカニズムが分かったら不老不死になるしなんでもなれる最強の職業になると思うんだけど。」
「…………描こうと思えば漫画家はどんな知識でも頭の中に入ってきて、しかも再現しようと思えばできるようになる。まぁSFみたいなのは無理だけどね。」
どうやら兎子の理論だと漫画家になればなんでも可能となる万全な職業らしい。いや、その理論通じるのは兎子みたいな人だけだから。よく後書きで料理が出来ないとかって描いている人いるよ!!料理漫画描いている人でも!調べるだけでなんでも出来たら専門学校などの場所の存在感薄くなるから!!
そんな感じでの口論が落ち着いた後、ナトさんが口を開いた。あぁすみません!!無神経に僕達が口論しちゃって!!口開き辛い状態でしたもんね!!心の中で土下座する勢いで謝っていると、ナトさんはこう言った。
「これを団長とジルフェ以外が弾けるのを始めてみたな………」
「まぁ、私は有名な音楽人になってから弾いていますけど………。」
「私はただ弾けるだけで雑音までは消せてないから。まぁ音楽関連と剣術関連は苦手なんだ。奴隷時代に慣れなかったから。」
「…………じゃあ、今度はピアノで弾いてみる。みんなは別の部屋に行っていてもいいよ。ここが私の部屋なんだし………。」
「じゃあ案内を再開しようかな。兎子、そこの楽器は壊さないようにね。」
「分かった。練習するときは気をつける。」
そう言われて、僕達は兎子を部屋に残して次の部屋………今度は塔子ちゃんが使う予定の部屋に向かうことになったのだった。その間にも、あのゆっくりな曲は聞こえる。うん、部屋を出るときに見えた手が最早分身しているような速さで動いていた事は放っておこう。
「そういえば、あの曲はバルシュメクさんが未完のままで亡くなってしまった時の楽譜なんですか?」
「あぁ、そうだな。題名は『未完でありつつ完』というふざけた題名だった。でも、あの曲は傑作だ。世が世なら別の名前でアイツは……バルシーは有名になっていただろうな。」
そう言いながらナトさんは最後にこう言ったのだった。それは、またしても驚くような内容だったのだ。まぁあの楽譜を手が二つの時だけで弾けるとは思いませんけどね。
「バルシュメクは亜人で、種族は猫又だった。四本の手を持っていたとしても過言ではない………かな。」
「………………まぁ、普通あんな曲を人が弾けませんよね………。じゃあなんで兎子は弾けているんだろうなぁ………?」
しかし、その時に僕は重要な事に気付かないでいた。致命的な事。これまでは条件的に無理だった。しかし、それをなぜ言わなかったのだろう。なぜ、誰もその矛盾に気付かなかったのだろう?だって、おかしいじゃないか。
バルシュメクさんがどんな人だったのかを、なんでジルフェさんに幻英雄をしてもらって見ることをしなかったのか、という事なのだ。
あ、そうか。ジルフェさんのイメージになっちゃうからか。そう思って私は誰にも言わずに納得して、その疑問を戯言として躊躇いもなく記憶から消したのだった。
伏線をこれまでいくつか置いていますが回収率がかなり低い………。反省しています。