聖者達part アルザール城での居住生活-1
クロ視点
「そろそろ女房が飯作っている時間だからそろそろ帰る事にするからアンシュルテへの拘束も解いておくか。もう反省できただろうしな。」
「あんまりですよ………もう二時間ほど拘束されていた気がするんですけど………。」
「まぁ、時給で考えれば割高だから文句は言わないだろ?」
「………なんてサーティさんは足下を見るのが得意なんですか……。」
アンシュルテちゃんが愚痴を言うのも気にせずに、サーティさんは煙を解除してから家路に行くような雰囲気で広間から出て行ったのだった。それに合わせてルカナさんも広間を出ていった。曰く、「ローネがご馳走作って待ってくれていますから……サーティのせいで味が分からなくなっていますけどね。」と。自業自得な部分も多いために中々同情できないが、後で何かありそうだなぁと思ってしまった。
「じゃあそろそろ部屋に案内しようかな?部屋はかなり余っているし、相部屋にしなくても平気かな?」
「はい、大丈夫です。」
「まぁ、場所は決めてあるからとりあえずレイアウトの仕方の例って事で私達の部屋の中を見せてあげておこうと思うんだ。何か用事があって扉を開けてから驚かれるよりはましになるだろうし。」
ガンさんはそう言って僕達に部屋を見せてくれることになった。まぁ、どれくらいの広さなのかを知ることもできるし、他の団員さんの個性も見れるだろう。……………一部、凄いことになっていそうな人達もいると思ってしまうのがなんだかなぁ…………と憂鬱なんだけどね……。ほら、ヒルージュさんやらアンシュルテちゃんやらが。後ナトさんもかな?凄そうな部屋になっていそうなのは。
「まぁ元々城だった建物だから部屋のスケールは大きいよ。それでも似通った部分はあるかもしれないけど。」
「元ジーブルフリーデ王国の城の個室には巨大な冷蔵庫やお風呂などがあるって噂があるほどですよ。」
「…………ヒルージュさんの部屋は絶対に普通じゃ無いだろうなぁ…………いや、本当に。」
そんな和気藹々とした雰囲気でまずは団長であるガンさんの部屋だった。元々団長になる前から使っている部屋のために、他の人の部屋や僕達の部屋と同じ大きさらしい。なんでも前の団長のヨウラクさんの部屋を整理する事は諦めているらしく、大量の魔導書が散乱しているらしい。また、王妃の部屋の方には爆破のあの人と呼ばれていた人の部屋らしいけれどそこには『危険・修行目的以外で入るな』と書かれていた。気にはなったけど入らないことにした。今の僕じゃあ入っただけで命を落としそうだし………。
「じゃ、開けようか。私の部屋をジルフェ以外に見せるのは久しぶりだなぁ………。」
そう言いながら開かれたガンさんの部屋には沢山の人形が飾ってあった。部屋の広さは高校の教室二つ分だが、その半分が大量の人形で埋まっており、埋まっていない方には作業のための裁縫道具やらがキチンと並べられていた。他にハンモックや布や綿が入っているのだろう黒いタンスにいくつかの魔導書のようなタイトルや物語のタイトルの本が詰められた本棚が二個、おそらくトイレであろう個室が存在していた。ちなみにトイレの空間には洗面所もあるらしい。さらには臭いや汚れを完全に取るためにする道具も完備されているらしい。
「個室のトイレには王家の者が自室からトイレの場所まで行くという行動はあまりよろしくない、というのと部屋の中に臭いを充満させないようにという配慮が当時の建設者達の感覚にあったみたいです。」
「どれだけ凄いんですか………まぁ、文句は言いませんけどね。」
そう言いながら僕は本棚の方をもう少し覗いてみる。すると、~昔話的な物も多くあり参考にしている本なのかな?と思ったのだった。だってそんな感じの人形も置いてある。同じ人形職人の塔子ちゃんは興味深そうにその人形を見つめていた。……………にしても、ここまで広い部屋を僕は使えるだろうかと思ったのと同時に、他の騎士団に与えられている宿について聞いてみた。
「テンペストは他の騎士団と比べるとかなり優遇されてるよ、個室の方は。シェイヌケーテは男女別だけど基本的に二段ベッドが二つとクローゼットが四つ、シャワーが二つという部屋しかないし、エペルシュパードは個室ではあるけどベッドとテーブルが置いてあるぐらいしかない。アルクレーガンもそこまで広くない相部屋だしね。まぁ、テンペストは少数精鋭だからこそここまでの広さなんだけどね。」
「…………元々そんなつもりで来てないから複雑な気分になりますね………。」
「………………ん。」
エペルシュパードの方は完全にワンルームで部屋から出ないとトイレや風呂は無いらしい。まぁ、寮としたらそれが普通かもしれないのだけど。対してアルクレーガンの方は一応シャワーはついているらしいけとそれだけだという。
他の騎士団よりも個室の方の待遇が良いというのは少しだけ罪悪感も持ってしまう。元々変わり者な職業だからここに入ったのに………。まぁ、いいかと思ってしまう。部屋の広さを知っていたとしても普通の人間だったら他の三つに入ろうとするだろうし……………。
「じゃあ次は誰の部屋にしようか…………。」
「あ、そういえば気になったんですけどこの城の部屋って誰も使っていない時でも常備されているのってトイレだけですか?」
「いや、トイレの他にもベッドとデスクは置いてあるよ。かなり殺風景になるかもしれないけどね。」
「ま、まぁ家具は後で調達できるからなんの文句は言えませんね。石の床に寝るということが無くてすみそうだし……。」
塔子ちゃんはその辺に安堵していたし、花多美ちゃんは布団でないのは畳がないから仕方が無いと諦めていた。……ここら辺に緑茶とか米という日本らしい物が無いのに畳を作るためのい草があるわけないだろう。花多美ちゃんはベッドがどういう物なのかかなりワクワクしていた。
「じゃあ次はサーティとルカナの部屋に行ってみるかな。説明が楽そうだし。」
「いや、そんな事で決めないでくださいよ…………。」
不純な理由で、次のお部屋訪問はサーティさんの部屋とルカナさんの部屋になったのだった。…………まぁ、二人とも持ち家だしなぁ………。ルカナさんは賃貸らしいけど……他の騎士団の人も一部は賃貸でもいいので広いところを探すだろうか………と考えてしまう僕には、ガンさんに文句を言う資格は微妙に無いんじゃないか?と思ってしまう僕だったのである。