聖者達part ルーガナンの宿屋-5
「ビィーンドが肉統教会を設立したのは、彼が20歳になった時でした。それまでの四年間はひたすら資金を集めていたらしいです。まぁ、肉代に消えていくことが多いために最初の教会は掘っ建て小屋みたいだったようです。」
そう言いながらルーガナンさんはSWから何かを取り出した。確認してみるとそれは『肉統教聖書・シャートーム』となっていた。ルーガナンさんも肉統教信者、ミータリアンなのだろうか?と思っていると、ルーガナンさんは普通に否定していた。
「この聖書は料理人として興味があったので銀穴貨三枚程で買いました。商店街の古本屋にあったんですよ~。あそこは掘り出し物が多いんです。中には魔導書もあるかもしれませんし、聖書などもちらほら見えますから、行ってみた方が良いですよ。古本屋の名前はジャス・オルドですね。」
「………じゃあ、明後日に覗いてみよう……。」
「後僕はシータさんと同じノンジャラーン教ですよ。この宗教は魔人などの差別をしないって事以外はややこしい制約がありませんから。」
響は魔導師なために興味を持ったらしい。ルーガナンさんは簡単な地図を書いて響に渡していた。それを見てみると意外なことにラーンブルータスの服屋の隣と、何で気付かなかったんだろうと思ってしまう場所にジャス・オルドはあったのだった。
「ミータリアンの人達が信仰するオヴァヘライスとその娘達は肉に関しての神です。シャートームの最初の教えは、当時の彼の故郷、ベジタリム王国では受け入れて貰えず、彼はその王国を去ったようです。そして、今のヴィアンローテ教皇国の土地へたどり着いたのです。」
「…………まぁ、菜食主義者ばかりの場所では受けないだろうとは思いますけどね…………。」
例えば、カースト制度を取っている所に、人類皆平等を唱える異教徒が来ると、その異教徒の国を国の一部以外への侵入を禁止するという鎖国をして、異教が定着するのを防ぐという事も多い。…………もしくは、殲滅か。
「シャートームの内容を一部要約すると、『我ら人間は創造されしとき皆、神の与えし植物のみを食してきた。だが我らに平等に分けられた物ではない。我ら苦しめる毒あるもの、戦争を引き起こすもの、奴隷を使うようなものばかりだ。植物を食うことは我ら人間の平等は無い。人間の平等とは植物を食べることではない。我らは対価が平等な肉を食すべきなのだ。全ての者が努力し、その者達が手に入れられる肉という食物こそが、我らミータリアンと呼べる存在なのだ。我らに肉を食す知識を与えた神、オヴァヘライスに忠義を尽くせ。我らは平等、我らは仲間、ただ一塊の肉を共に食せし同志である事を忘れるな!!』と書いてあります。」
「………………なんか壮絶な感じで書いてあるなぁ………。」
「まぁ、人々が肉の味を知ったのは肉の神オヴァヘライスが生物の肉の部分を食す事の出来るものに作り替えたからという考え方と、それを誇りに思う事がこの肉統教の教えの元となっていますからね………。」
そして、今度はビィーンドの生い立ちについてさらに話が、進められる。その間に次々とおかわりの注文が飛び交っていた。隼人と鈴は明日にアトラクションがあることを忘れているのではないかと思うぐらい食べていたが、響はここまでとして、リタイアしていた。
「オヴァヘライスからの力を使い、ビィーンドは仲間を集めました。その中の一人、シャンバレルチカという娘とビィーンドは結婚し、後に二代目ビィーンドとしてシャンバレルチカが、五代目としてシャンバレルチカの娘であるオーツクリアーナが教皇の位置に立つのはまた別の話ですね。」
「…………そんな感じの恋愛話も聖書に書いてあったんですか?私ならそれだけで卒倒しそうな程恥ずかしいと思いますけど。」
「………違いますよ。これは独学で調べましたから。聖書にそんな事をかかれたらビィーンドもシャンバレルチカも怨霊になってでもこの世に戻ってきますよ。」
余程恥ずかしい馴れ初めだったのだろうと思う。それを他人に話すことは無いだろうから伝記を書いたのはオーツクリアーナみたいな身内なのだろうか?と思う。
「そして、肉統教は後にヴィアンローテ教皇国となるのですが、ビィーンドの布教はより多くの信者を集めましたから、オヴァヘライスやその娘達は感謝し、肉についての鑑定の力を信者達に与えました。その中で息子や娘などが肉統教に入信しなかった者が肉統協会の基盤となりました。ビィーンドの孫、バビラリアスが初代会長ですね。もっとも、肉統教会の人間も協会で働いています。」
まぁ、そんな感じで話は進んでいったのだけど、殆ど宗教的な話だったためか、本当にBGMにしか聞こえなかったのである。奈津は興味を無くして気絶から立ち直ったのにも関わらずに寝てしまうし………。となっている所で、ルーガナンさんはシャートームの最後のページ………初代教皇のビィーンド・ベジタリムの肖像画のページを見せてくれた。
「………………これ、本当に年取った時のビィーンドですよね?本当に、晩年86歳の一年前ですよね?」
「そうですが………それがどうかしましたか?」
「いや、どう見ても子供なんですが…………しかも、女の子みたいですし。完全に子供の頃の肖像画しか残っていなかったような感じなんですが……。」
「この世界の開祖者は皆老けにくいんですよ。それが常識です。はい、これは毎年書かれていた肖像画の画集です。」
「いやいや、そんな無茶な……………。」
全く見た目の変わっていないビィーンドの肖像画の年代別の物を見て私は頭が痛くなりそうになった。まぁ、そこまでで食事を切り上げて、私はラーベを連れて宿屋の部屋に戻るのだった。本当なら明日の作戦について話し合うつもりだったのだが、もういいかと考え、私は明日のアトラクションに備え、寝ることにした。まぁ、食休みをしてから風呂に浸かり、そのままラーベとベッドに入って寝たのだった。
次回はテンペスト視点となります。…………未だアトラクション開始までいけません。もう少しかかります。