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聖者達part ルーガナンの宿屋-4

「ビィーンドという教皇の名前は初代教皇ビィーンド・ベジタリムという者の名前から、教皇の称号の名前として与えられる名になったのです。」

「………なんだか、ベジタリムって菜食主義者のような名前だなぁ……」

「それは当然でしたね………。ベジタリム王国という所は菜食主義者の集まりであり、初代教皇ビィーンドが産まれた時には既に8000年近い歴史があり、それが当たり前だったのですよ。当時の子供達にとっては。」


しかし、初代教皇ビィーンドにはいくつかの偶然が重なり、肉の美味さに気付いたという。しかし、その出会いや偶然というのがまたとんでもなかった。今も思うのだが宗教の開祖者には壮絶と言えるようなエピソードがあるなぁと思ってしまった。例えば自らを磔にする十字架を運び、その十字架に磔にされて亡くなった数日後に復活し、さらにバールの赤い部分の意味となった者、後の聖地となる地を弟子達と共に去り、聖遷と呼ばれる移住を行った者、さらには勝負を仕掛けてきた仙人が逆に自分の弟子達と共に弟子にしてくれと頭を下げさせた者もいる。かく言うビィーンドも、そんな感じのエピソードがあった。


「ビィーンドはベジタリム王国の第八王子として産まれ、王族なのですがある意味奴隷や農民と言えるような生活を送るように仕向けられて、毎日自身の耕した畑から穫れた野菜を王や王妃、自分以外の子供達に献上させられて、しかも自分が食べるのは使われずに腐ってしまった自身の畑の野菜を貪るようにして食べていました。そんなある日、彼は神の創りし物と呼ばれる物を口にしました。そう、それが………。」

「…………………勿体ぶるということは相当な物なんですね………?」


早瀬は不安そうに言っていたが、多分まともな物だろう。肉ではないかもしれないが、それでも普通の食べ物では無いだろうし。そう思いながら私は葱ダレバーグを完食して鰻バーグに手を着けた。


「すいませーん、超・極厚牛テキ一つお願いします!!」

「……………話を中断させるなよ、隼人……。あ、私も注文する。鶏ハンバーグに豚の蒲焼きを三つずつ。」

「…………分かりました。持ってきますね。」


空気を読まずに隼人と鈴が次のメニューを注文していた。ルーガナンさんはかなり勿体ぶろうとしたのだけど、それが全て無駄に終わってしまったのであった。…………まぁ、慰める人はいなかったのだけど。


「え~っと、ビィーンドがその時に食べたのは銀の林檎と呼ばれる物で、これには金の果実とは違い、彼は力在りし者に選ばれた証となりました。彼はまだ菜食主義者でして、当時の年齢は14歳でした。銀の林檎から彼は二年後にある者が降ってくる。それを喰うことで自分の人生が変わるという事を知りました。銀の果実の効果は力では無く予言……となります。」

「金の果実などってすぐ食べないといけないんですか?」

「いや、拒否することも可能ですよ。まぁ、取っている人なんていないと思いますけどね………。」


何のリスクも無い力なら普通ならすぐに受け入れると考えてしまうけれど、それを否定する人もいるこもしれないんだなぁと思ってしまう私だった。


「そして二年後、彼の耕し続けていた畑に、ある物が落下しました。それは、遠く離れた砦から放たれた矢で絶命した『ケストウィッヒドラゴン』の死体でした。そのドラゴンの死体は畑で育てていた全ての野菜を焼き尽くし、彼の前にはケストウィッヒドラゴンの肉のみが食料となっていました。そして、ケストウィッヒドラゴンの生肉を菜食主義者であった彼はその肉を食べ、悟りました。この世には肉という食材が存在し、唯一嗜好の絶対なる食料だと。それから彼は肉しか食べなくなりました。」

「………凄い偶然ですね………。」

「えぇ、しかもケストウィッヒドラゴンというのは肉統協会ではSSランクという神が創造したと呼ぶに相応しい味として記録されている程の美味なる食材らしいです。神の創造したに相応しい食材として僕が知っているのは肉、ケストウィッヒドラゴンの肉と茶、七麦茶の七杯目しか聞いたことがありません。しかし、ビィーンドの最初に食した肉は最早最高の中の嗜好の食材だったということです。」


そして、ルーガナンさんの話は続く。しかし、先ほど注文されていた料理を完成させてから戻ってきた。超極厚牛テキは厚さがステーキとは言い難いような、広辞苑を余裕で越える厚さだった。それを見て嬉しそうに隼人はナイフとフォークを動かしていた。……………いや、切って繋いだ後が無いためこれが一ブロックで存在していた事が分かる。いや、広辞苑二冊分の肉の塊が胃袋の中に収まりきるかと思っていると、ペースは遅いが確実に隼人のステーキは量を着々と減らしていた。


対する鈴に持ってこられた鶏バーグや豚の蒲焼きも次々と消えていく。それを料理人としての視点で嬉しく思っているのだろう、ルーガナンさんは微笑んでいた。まぁ、ビィーンドに関する話は普通に続いているのだけど。


「ケストウィッヒドラゴンの肉を全て平らげた彼は、意識だけが天にまで昇ってゆき、肉についての情報が全て頭の中に入ってゆき、肉の神であるオヴァヘライスと出会い、それまで野菜の神ゼフを信仰してきたことを改め、肉の神オヴァヘライスに忠誠を誓い、先ほどいった加護を受け取るための力を授かりました。」


これがビィーンドが菜食主義者から肉食主義者に変わった時の話らしい。これから先が肉統教会と肉統協会の設立までの話になるらしい。まぁ、それなりに長くなるるしいのでルーガナンさんは一旦料理の注文を受けることにしていた。


「なら、五合い挽き肉のハンバーグと厚めのポークステーキを二つずつお願いします。」

「…………鰻バーグ……一つ……」

「超・極厚牛テキをおかわりで。後鹿コロッケを三つ。」

「鶏笹身の葱巻きを十本ほど頼む。」


ちなみに、五合い挽き肉へ牛、豚、鶏、猪、鹿肉の合い挽き肉だ。食べた事のあるシータさん曰く、肉汁がとんでもない程出るらしい。それでいて、かなり美味しいらしい。………まぁ、この世界では普通に鹿肉や猪肉も流通しているらしい。しかし、米が無いのがとても残念な事であったのだった。

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