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聖者達part ルーガナンの宿屋-2

普通のハンバーグを口に入れると、熱々の肉汁が一気に流れ込んできた。口の中が火傷しそうになったが、肉の旨みからあまり気にならなかった。


「はふっ、はふっ………。おいしいれす、主様……。こんなに美味しい物を食べたのは初めてです!!」

「それは良かった。……………でも奈津、ラーベには手を出さない方が良いと思…………あ、遅かったか…………。」


ハンバーグの美味さに感激しているラーベに抱きつこうとした奈津はラーベの頭突きを肋骨あたりに喰らい、そのまま悶絶しながら倒れた。ちなみに、ラーベは私に次の分を!!という目をしており、奈津の事など頭に入っていない様子だ。


改めてメニュー表を見て考えてみる事にした私は私と同時に食べ始めた早瀬と響についても見てみることにした。早瀬は新しいメニューから順番に行く派なため、鰻のハンバーグを注文していた。鰻の蒲焼きを潰して丸め、ハンバーグとした物で、元の世界で言う魚肉ハンバーグなのだろうと思う。


対して響は鳥バーグを注文していた。鳥挽き肉から作られたそのハンバーグは普通のハンバーグのような黒や濃い茶色では無く薄い肌色だった。響曰くこれはコリコリとした感触もあって面白いという。どうやら軟骨も一緒に焼いているらしく、普通のハンバーグとはかなり違う感触だという。その理由として、あまり肉汁が出てきていない。


「葱ダレバーグは葱と塩で作られたタレに牛挽き肉を漬け込んでから焼いた物で結構クセになるぜ~。葱と塩が絶妙にマッチしてるからな。」


隼人はそう言いながらまた追加の葱ダレバーグを四つも頼んでいた。ちなみに、ハンバーグには付け合わせとして人参グラッセ、高山ばれいしょのフライと名の付いた物が付いてくるのだが、それは二個以上の注文の時には付け合わせを抜きにすることができるらしい。ついでに言うと、ばれいしょは一般的に言うとジャガイモの事だ。


「まぁ、とりあえず私達も葱ダレバーグ二つお願いします。」

「すいません………主様、私、竜目肉のステーキを食べてみたいのですが………。」


私は悩むくらいなら頼んでおこうという結論から、葱ダレバーグを頼んでおいた。今日は宿代も食事代もシータさんの奢りらしいし、いくら頼んでも値段は変わらない。なら頼んでいった方がお得なのだろうと思う。しかし、竜目肉のステーキは無理だ。私の今の所持金は払える気はしない。


「………それは無理なんだ。ごめんね、至らない主で。」

「い、いえ、これは私の我が儘ですから……。食べられないなら自分達で狩って調理すればいいかもしれないですしね。すみません、この竜目肉ってなんのお肉なんですか?」


諦めてくれたかと思ったら、今ここで食べるのを諦めただけだった。食べた結果はどうあれ、自力で捕まえて食べるという短絡的だけれども一番現実的な事を言ったラーベであった。まぁ、何の肉かはその冒険者さんに聞いてみたんだけども。


「この竜目肉ってのは上位種のドラゴン、バルイーユの眼球の肉なんだ。眼球がこう………卵のような構造で出来ていて、その黄身の部分が竜目肉って言われているんだ。基本的にバルイーユの目には全て竜目肉はあるんだが、バルイーユは常に遙か高い空を飛んでいて、倒すためにはまずその目を打つかなんかして高度を落とさないといけないんだよ。その時すでに竜目肉はお陀仏になる。このメニューに書いてある竜目肉が手に入ったのは偶然かな。偶然死体を見つけてギリギリの状態の竜目肉入りの眼球があった。ひび割れて今にも割れそうだって所でなんとか竜目肉をキャッチしたんだ。」

「かなり幸運ですね…………。」


むしろ羊頭狗肉のように、だましてないだろうか?と疑いの心を向けると冒険者さんは手を振ってそれを否定した。


「一応これでも料理人のプライドはある。あの時に私は味見して、美味だった事を覚えているし、証拠の肉統書もある。この肉統書協会は決して嘘を付かない。まぁ、どちらにせよ、竜目肉っていうのはバルイーユの眼球の中にある肉の事だって事は分かったかな?」

「はい!機会があったら倒して食べます!!」

「はっはっは~、お嬢ちゃん、僕の名前も分かるかな?」

「はい!冒険者さんですよね!」


ラーベの言葉にがっくりとしている冒険者さんだった。まぁ……どうせ出て来なくなるだろうしと思っていると、シータさんがこう付け加えた。


「この方は、ルーガナンと言って、彼の曾祖父はジーブルフリーデ王国時代の王室料理長だったのですよ。なので今でも子息同士での交流があるわけです。」

「年齢はかなり離れているけどな、俺は普通の人間なんだ。テンペストのニグルや元団長のヨウラクさんのように力も強くないですし。」

「でも、料理の腕は曾祖父さんよりも上だと思いますよ?」

「……お世辞ですか?というか嫌味ですか?ユンクさんに僕の料理の方が美味いと言われてからずっと言ってますよ。」

「で、でも一番の味に私はなるんです!!ユンクにだけ味わえるような、そんな味を………。」


ここまで見てるとラブコメっぽいなぁと思ってしまう。ちなみにルーガナンさんの立ち位置はシータさんの兄とかかなぁ?年下だけど。まぁ、それはそれとして……。


「でも一番の味って重要ですよね……。確かにルーガナンさんの料理は美味しい。でも、一番じゃないんです。」


私はそう呟いていた。私の中の一番の味は、暗の作る料理なのだ。ルーガナンさんの料理も美味しいけれど、何かが足りないのだ。ほんの少し物足りない、ほんの少し何か多いと、一番美味しいという言葉を言うのに何かを躊躇う要素がある。きっとそれは作ってくれた相手が暗では無いからだろうという結論になる。


「私の一番の人は、凄く料理が上手くて、私にはその味が一番だと感じるんです。でも、転生した時に離ればなれになってしまって………。」


私は、そんな事を言いながら、ラーベに心配されながら、涙を流していた。あれ?おかしいな?なんで涙が出るんだろう。まだ大丈夫だったはずなんだ。多分暗に再会したときの嬉し涙まで涙は取ってあるつもりだったんだ。でも、なんでだろう?暗の料理が食べられない、暗に会えない…………どれだけ強硬手段を使っても今すぐには会えない。そう思うと、涙が止まらない。好きな人が側にいないだけで、なんでこんなに涙が出てしまうのだろう。そう思いながら私は周りを見る。………………私の言葉を聞いた鈴と響も泣いていた。


年甲斐もなく、男になった事も忘れて、私は涙を流し続けた。そうしないと、暗が隣にいないことに耐えられないと、そう思ったから。その涙は数分でなんとか止まってくれた。しかし、私の目は泣いた後が分かりやすいような真っ赤な目である事を感じていた。

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