聖者達part 王都の商店街にて-7
私達の見つけた電話らしき物の正式名称はどうやらビートルベルというらしい………と、SWで確認した。通話範囲は地球のどこでもという広範囲だった。しかし、SWでは値段が分からないのだ。
「これは普通は金角貨五枚なんじゃがこの前酔っぱらいの悪漢共が暴れて壊してもうて、これの数が半分になってしまったからのぉ………払えるんなら金貨一枚でええぞ?」
露店の爺さんはニヤニヤしながらこちらを見た。どうやら私達が転生者であることを見抜いているようだ。実際には隼人がガンさんから金貨一枚を貰っているために普通に払えるが、もし持っていなければこの爺さんは私達から転生ボーナスを担保として持って行くつもりだったのだろうと思う。さらに今後ろにいるベルさんやキルシュさんなどがいなければ全ての転生ボーナスを持って行く戦法だったのかもしれない。しかし、私達は金貨一枚を持っているために、隼人がその金貨を爺さんに渡していた。爺さんは言葉を訂正しようとするも、後ろにいるベルさんに気付き、口を閉じた。
・ビートルベル………☆5 テレパススキルと似たような機能を持つ物。セットとなっている物にしか通話不可。範囲はかなり広く、大陸全土で使える。
「ビートルベルは全部で十個ある。で、私達で六つ…………一つは暗用に取っておくとして残り三つの内一つはシータさんに渡しておくとして………。」
「まぁ、信用できる人間に渡しておくってだけで良いんじゃない?」
…………と、そんなこんなで電話についての事は解決した。金貨一枚は結構貴重だが、これから離れて行動するために電話はかなり重要な物だから、金貨一枚分の価値はあるだろう。そう思いながら宿に向かっている途中、キルシュさんがこう話しかけてきた。
「そういえばまたエペルシュパードの団長と喧嘩してシェイヌケーテの団長に怒られたそうですね、団長。あ、後演習場での喧嘩ではテンペストの団長から脅されたのも……。」
「……………それは今は言わないで欲しい。仕掛けたのはアーサーの方ですから。」
「いや、思いっきりベルさんからでしたよね?」
スキルを使って胸ぐらを掴んだのもベルさんだし、喧嘩の方も隼人が転職の儀をアーサーさんに頼んだ後にベルさんが対抗して喧嘩に繋がったような……………。
「…………………まぁ、団長があのエペルシュパードの団長を嫌う理由は分かりますが、面倒事はあまり起こさないでくださいよ。今回だって転生者の方々の一部とテンペストの団員とのアトラクションの準備にアルクレーガンが駆り出されているじゃないですか。指揮もまたメルフ副団長に任せていたりとか………」
「いや、あれはメルフが自分でやっている事。プランは渡しておいたから、全部任せた事にはならないし…………。」
「………はぁ、まぁ一応言っておきますけど、お嬢は大丈夫ですから、そんなお嬢を困らせるようなことはしないでくださいよ。………後、喧嘩するならするで勝ってください。引き分けだったじゃないですか。」
「……………すまない。」
キルシュさんがベルさんを叱った後、私達に話しかけてきた。それは、テンペストの団員についての情報だった。まぁ、キルシュさんの価値観と偏見があるために、詳細は不明なのだけど。
「でも、今のテンペストで一番強いのはガンダレス団長ですよね………。」
「まぁ、それは認めていますけど、警戒しなければならないのはジルフェとニグルでしょう。無論、他のどの団員も強いのですが。」
「…………キルシュはあまりテンペストのメンバーとは会わなかったからな………まともな人種もいる。サーティはアルクレーガンに茶葉の提供もしてくれる良い奴だ。………まぁ、元アルクレーガンのヒルージュはアトラクションではあまり警戒しなくても良いかもしれないが………」
しかし、そんな話をされている途中で早瀬がある事に気がついたらしく、キルシュさんに耳打ちした。するとキルシュさんはハッとして、ラーンブルータスの服屋の方向まで走っていった。そういえばキルシュさんは新しい帯ができたとかの理由でラーンブルータスの服屋に来たはずなのに何も買わずに私達と店を出てきたのだ。なんだか悪いことをしてしまったと思ってしまう。
「…………じゃあ、私達もここで解散にするか。宿の場所は分かりますか?」
ベルさんに聞かれてから私達は宿の場所どころか名前すらシータさんに聞かされていないという事に気付いた。その様子に気付いたのかベルさんは着いてきなさいと言って商店街から出ることになった。
「多分このあたりの宿が取られていると思いますが……。」
ベルさんの止まった場所は『ルーガナンの宿屋』と書かれた石造りの宿屋だった。本当にここであっているのかと思っていると、中からシータさんが出てきた。シータさんの顔はどこか安堵したような顔で、忘れていた事にはここについてから気付いたのかもしれない。
「…………代表、せめて地図ぐらいは渡しておいた方がよろしいと思いますが………。」
「ほ、本当にうっかりしてただけで、決して悪意が無かったわけでは………。」
シータさんはかなりオロオロしていて、正直言って奈津が飛びかかりそうだなと思っていると、何の反応も示していなかった。いつもの奈津ならばすぐに可愛い!!と突っ込んでいこうとして早瀬に止められるというパターンのはずだ。それが無いというのがおかしいというか違和感があるというか……。
「…………奈津ならすぐにシータさんに飛びかかりそうだったのに、何で行かなかったんだ?」
「…………………私はね、基本的に四十歳以上の人間には手を出さないって一回失敗したときから決めてるの。呂律の回らない人間や男を食いまくった女には興味ないって事。シータさんは違うかもしれないけど、そう思ってないと警察の世話になるから。まぁ、シータさんの場合は多分私が喰われる。だから手は出せないわけ。」
「奈津ねぇは年上でも愛人にしているから意外……。」
そんな会話をしながらも、ビートルベルを響と鈴に渡すためにシータさん二人の部屋の場所を聞き、自分の部屋の鍵を貰ってから宿の中に入るのだった。…………その中で、私と鈴と響の間で暗の写真のトレードなどが行われたのは別の場所で行うべき話なのだろう。