聖者達part 王都の商店街にて-5
露店から出てから数分で目的の服屋てある、『ラーンブルータスの服屋』に到着した。店の外観から見ると明らかに女性向けでさらにファンシーな物ばかり取り扱っているように見えた。………………不安と好奇心の二つが私の扉を開く手を少しだけ止めた。確かに私は元は女だが今は男であることと、格闘少女の早瀬が着飾られている所は面白そうだという二つで頭の中でグルグル回ったが私はドアを開いていたのである。
「早瀬さん可愛いですよ!もうここのモデルさんになってくれませんか!?」
「い、いやこの服じゃなくてせめて前の服でやってくださいぃぃぃ!!」
少し暴走気味のソネットさんは今、早瀬に兎の服を着させていた。簡単に言えば着ぐるみだ。顔の部分がフードになっているやつ。若干桃色がかっているのは仕様なのだろう。それに、丸い尻尾の部分もちゃんと再現されている。その姿を見た私は吹き出しそうになった。それは後から入ってきた隼人も同じだったようでこちらは猛烈に吹き出していた。
「ぶはははははははは!!なんだよ早瀬その服は!!あっはははははははは!!!!」
「わ、笑うこと無いじゃない隼人!!」
「いや、お、お前、そんな、格好、普通、しないし……ぶはははははは!!!!」
「は、隼人の馬鹿!!『真重魔』!」
「おごふっ!!何すんだよ早瀬っせっせっ……けてげえげけせねぇ…………。」
早瀬が隼人のいる場所に向かって足をはらうと隼人の顔の近くに裂け目ができた。そして、その裂け目が隼人を軽く吸い込み始めた。しかし、隼人を完全に吸い込むつもりは無いのかただ大きさが足りないからか、隼人の顔が四分の一程で止まっている。しかし、え行の文字しか話せていない。
・真重魔………蹴りの斬撃から軽い真空空間を作りだし、近くの空気を吸いとってゆく。その時に物も吸い込むが人は完全に入りきることはない。しかし、え行の文字しか言えないほど口の形が変貌してしまう。この空間が切れた後は元に戻る。
……………隼人が気絶している間に、早瀬は自信が気に入ったという服をソネットさんから貰って早速着替えていた。その服は燕尾服の後ろの部分を少し短くした形状の深緑の服に焦げ茶のキュロットという服装だ。さっきの兎の着ぐるみよりは動きやすく、学校の制服よりは破れにくく、しかも人目を気にしなくても良いというメリットもあるため貰うのはそちらで良いのだろう。早瀬がお金を渡そうとすると、ソネットさんがこの店の店長を呼んでいた。
……………………ちなみに、二つの服のステータスは以下の通りである。兎の着ぐるみの方が高性能な事には驚いたけれどこの世界ではこれが普通なのだろうか?と考えてしまう私だった。
・兎の被り物………◎7 兎を模した着ぐるみ
付属スキル×3
・跳躍Lv9………高く跳ぶ事が可能になる。脚力事態は上がっていない。
・清涼香・人参の香り………汚れ度が一定値まて上がった時、その臭いを隠すために人参の香りを纏う。
・ラブハート………装備者が誰かに片想いしていると攻撃力が非常に上がる。
・魔闘士の服(緑)………魔力態勢に拘った服。動きやすさと魔力の増加が主な魅力。
追加スキル×1
・魔力ジャンプ………跳躍後魔力を使うことで安定した空中戦が可能になる。
まぁ、見た目から早瀬は即答の早さで後者を選んだのだ。私達が口を挟むときでは無いだろう。隼人に片想いしている早瀬は強くなれそうだったり跳躍力の増加の方が良いかもしれないが、見た目からしてそちらを選ぶのだろう。
「ルーシャ、早瀬ちゃんはこの服を選んだって。この服の予備も揃えておいて。あ、早瀬ちゃん。今回のお金は払わなくても良いよ?モデル料でお釣りが出るくらいだから。」
「……………はい……。」
「でもバニーガールの衣装は中々セクシー………おふっ、何で止めるのさソネット……。」
「ルーシャ、この子にはバニーガールの衣装は向いてないから。滅茶苦茶恥ずかしがっていたから。」
ルーシャというのはこの服屋、ラーンブルータスの服屋の店長の名前だ。金髪のロールというお嬢様風だが、胸は小さい。しかしピンクのドレスはかなり似合っていた。ちなみにソネットさんとは同い年らしい。後この店はルーシャさんが一代で始めた店らしい。店の名前の由来は最高傑作の服に使われた花の素材の名前らしい。その花…ラーンブルータスかなり濃い桃色の花だそうだ。名前に青があるくせに。
「そういえば、隼人はどうするべきなんだ?ここから出て行かせた方が良いのか?下手すると目を開けた時に……ルーシャさんや他の客の下着が目前にという事もあるかもしれないが……。」
「なんで私の名前は呼ばれなかったんでしょうね?」
「ソネット……それは私の店に血が飛び散る事を心配してくれているんだよ。もしソネットの名前があればお姉さんが…………。」
どうやらあまりベルさんのシスコンぶりはソネットさんには気付かれていないらしい。しかし、ルーシャさんは第三者だからかベルさんのシスコンぶりには気付いているどころか恐れているらしい。気付けば少しだけソネットさんから離れている。そんなこんなと話していると、店のドアに人影げ見える。かねりコソコソとした雰囲気の人影だった。
「あ、あれ?キルシュさん?」
「お、お嬢………。それに隊長も。」
人影の人とソネットさんは知り合いなのかドアから人影に見えていたキルシュさんが入ってきた。桜が満遍なく咲き誇っている着物……まぁ、下はスコートのような長さの奴を着ている人だった。髪は茶色で首までの長さなのが少しだけ惜しいと思ってしまう。黒なら大和撫子と思えるのだけど、少し違うのだ。どちらかというと………コスプレ?と思っているとベルさんが口を開いていた。
「キルシュ、ここでは団長と呼べ。いつになったら治るんだ?その癖は。」
「すすすすみません、た…団長。」
「よろしい。では、私達がここにいる理由だがここにはどの団にも入らないという転生者達に服を買っていた所だ。お前はどうしたんだ?」
「い、いえ………新作の帯が気になりまして………。」
「そうか、今日はお前は非番だからな。今日は自由に動くと良い。明日はキッチリと………な?」
「は、はい。」
キルシュさんが頷くと、横でソネットさんは首を傾げていた。その動作は確かに可愛い。奈津はまだ起きていないために暴走されなくて良かったと思ってしまう。
「…………キルシュさんって確かお婆さんが病気になってその介護かあるからってアルクレーガンから抜けていませんでしたか?」
「いや、いつでもアルクレーガンに戻れるようにと別の任務を任されているのですよ。中々楽しいですからご安心を。」
その言葉を聞いて私はこの人は『鷹の目』スキルを持っていると確信する。でもまぁ、普通そうな人で良かったと思う。もし変質者だったら……と思うと………。そう思っていると、隼人の微かな声が聞こえた。
「…………白」
その言葉の意味が何なのかを私が理解するまで数秒かかった。理解したのは赤い顔をしたキルシュさんと怒りを顔に出した早瀬が二人揃って隼人の土手っ腹に蹴りをした時だった。その間、僅か2.8秒。キルシュさんの履いているパンツの色が白色だという事だった。
「お~い、隼人。この着物美人さんのパンツは白の後は何?リボンのワンポイント?それとも紐パン?まさかのシルクのレース?いいから早く答えろ!これは私にとって美味しいポイントなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
隼人の白という言葉に反応し目が覚めていた奈津が倒れた隼人に話しかける。しかし、返事は無い。気絶しているのだ。しかし、これまでとは違うメッセージが出る。めるでSWのウィンドウだと思える物が隼人の前に現れ、以下の文を並べた。
『返事が無いようだな……。フフフ、見よ、まるで屍のようだ!』
………………どこのRPGだよ?色々混ざってるよ。と思ってしまう転生者一同だった。