聖者達part 王都の商店街にて-3
「……………あの、一応言っておきますけど私達の世界では馬というのは哺乳類でして………。」
「あぁ、確かに親の乳を吸うよなぁ。まぁ、お前達の買ったクロウペガサスなんかは飲まないんだけどな。」
「発言が矛盾している事に気がついていないんですか?」
「哺乳類は基本的に卵からじゃなくて母親から産まれるし、卵で孵った動物は基本的に親の乳なんて飲まないよ。」
「…………別にいーじゃねーか!!この世界はこの世界なんだからさ!!」
完全に逆ギレされてしまったが仕方のないことなのだろうと思ってしまう。私達も自分達の世界の常識を押しつける気は無いのだから。しかし、まさか動物の産まれ方も違うとは思わなかった。
「……………………まぁ、馬を買えたならとりあえず馬の道具はSWにしまっておけ。ラーベはSWに入れない方が良いが、ブルーは平気だ。一応馬車というアイテムな感じになるからな。だけどラーベは人間の姿になれる関係があるからなぁ…………一応契約魔術のエンチャントで誘拐防止とはぐれたときの召還に使えるようにしておいてやるか。おーい、おっちゃん!」
アーサーさんはそう言って店員を呼んでいた。店員のおっちゃんはアーサーさんの近くに行くと、用件を聞いていた。アーサーさんが何かを伝えると、店員さんは店の奥に行き、少しボロボロになった手綱や鞍、鐙を持ってきていた。
「俺はアイツと違ってエンチャント関連も鍛えているからな、これぐらいのエンチャントなら楽勝だぜ。それに、この素材なら高ランクの物も出来そうだしな。」
「エンチャント関連には興味があるねぇ………。流に騎馬スキルを伝授するときに私にはエンチャント関連を伝授してくれないかな?」
「………………まぁ、選別程度なら問題ないか。いいぜ。その代わり、基本セットの中のお古の運動靴が貰えればそれでいい。あれはそのまま使用するんじゃ無くてエンチャントにする方が色々とお得なんだよ。使い古されている物の方が良いエンチャントを作りやすい。」
そんな感じで話していると、ファンタジーにあまり詳しくない早瀬が疑問に思ったのかアーサーさんに質問していた。まぁ私もそこまで詳しくないのだけど。
「あぁ、エンチャントというのはアイテムを媒介とした紋章の事だ。アイテムは何でも良いが余程の事が無い限り大切な物は使わない方が良い。エンチャントにしたら元に戻らなくなるからな。」
「多分響がここにいたら色々と語り出していただろうなぁ……。MMOには欠かせない物だから。」
「そ、そんな物がこの世界にはあるんですね……。」
「まぁ、知名度は低いけどな。ベルの奴は時間の無駄だとか言ってくる始末だし。」
まぁそんなこんな話し合ってからエンチャントを作って貰うことになった。因みに今回エンチャントを作るのに使う馬の道具類はユンクさんの馬にサイズが合わなかった物らしい。しかし、それでも一週間は使っていたが、さすがに馬が限界で代えたという物だ。
「じゃあ始めるか。ちょいと面倒だけどこれぐらいなら何の問題も無いからな………っと。」
そう言ってから古びた馬の道具を机の上に置き、それを魔法陣によって囲み、光を灯した。いかにも錬金術のような雰囲気にワクワクしている私がいた。響も来れば良かったのにと思ってしまう。かなり神秘的な印象もあるからアーサーさんがかなり様になっていた。
「エンチャント・クレスト。」
魔法陣から放たれた光はそっと媒介となったアイテムを魔力の粒子に変えて、そのまま紋章のような形にしていく。そして、そのままアイテムが完全に魔力の粒子になった後の数十秒後、三枚の紋章が浮かんでいた。内二枚は対になっているように色違いではあるが形はそっくりだった。アーサーさんはもう一枚の方を先に渡してきた。
「まぁ、こんな物か。じゃあまず誘拐防止のエンチャントから付けてやってくれ。ほら、これだ。張り付けるには魔力を流し込むイメージもするからな。経験は積んでおけ。」
「分かったよ~。」
アーサーさんは奈津に誘拐防止のエンチャントを渡していた。ちなみに、SWで観るとあのエンチャントは以下のようなスペックだった。
*誘拐防止の契約系エンチャント Lv87
・種類……製作型
・対象……生物
・効果……対象者が心を許していない者に誘拐、強奪されかけたときに自動でシールドを展開し対象者を守る。
・製作者……アーサー・エペルシュバート
・使用素材……古びた手綱 古びた鞍 古びた鐙
・引継……無し
「引継の欄にはどんな事が書かれるんだろうね?」
「それは素材にした物にエンチャントが付属しているときにそのエンチャントの能力を引き継ぐんだよ。後、種類についてはアイテムから製作したか、エンチャントがそのまま魔物などから発見されるかという奴だからな。」
そう言いながら対になっている方を私に渡してくるアーサーさん。奈津と私の話を聞いて、呼び出すことの出来るエンチャントを奈津に渡すのは気が引けたのだろう。まぁ、私も同じ事を思っていたのでありがたく付けさせて貰った。
エンチャントのスペックを確認すると、これもまた高品質だった。まぁ、騎士団の団長なのだからこれぐらい当然なのだろうか?と思う。ちなみに呼び出す側の私が黒のエンチャント、ラーベは白いエンチャントを付けることになったのだった。
*召還術エンチャント Lv92
・種類……製作型
・対象……黒・人間 白・生物
・効果……遠くに離れているときに近くに召還できる。
・製作者……アーサー・エペルシュバート
・使用素材……古びた手綱 古びた鞍 古びた鐙
・引継……無し
「馬に関係する奴はアイツ等の馬車で全て終わったな。じゃあ次の店に行くか。基本セットの物は正直キャンプレベルでしかないからな。」
早瀬と隼人が馬車を買ったのを確認してからアーサーさんとともにトラベルホースの外に出た。そして、しばらく歩いていると、ティーカップなどの生活用品を置いている露店の中に入っていった。
「……………なんでお前がいるんだよ、ベル……。」
「それはこちらのセリフです、アーサー。あなたはツマミの店にしか行かないような人間だと思いましたが………。」
今度はアルクレーガン団長のベルさんがそこにいた。あの決闘を見ているため、完全に一触即発な展開になりそうだなぁ………と憂鬱になってしまう私だった。