聖者達part 嵐のようなメンバー達 元盗賊団の長編-9
『高圧的なジルファーンに最初に怒りを向けたのはドランシア王国の将軍でした。かれは万人の兵をジルファーンに向けて進めました。ある者は槍を、ある者は盾と剣を持ってジルファーンに向かって進みました。死への恐怖に怯えながら彼等はジルファーンに攻撃をしかけました。』
『最初にジルファーンの元へ来たのはファランクスと呼ばれる槍の大軍でした。彼等として名誉なことは一番前に配置され、戦死する事でした。』
これも世界史で習った。どうやら、この世界と僕達の前にいた世界は多少常識などが似ているらしい。これは食べ物にも関係していて、僕達が何の事を言っているのかが全く持って分からないという事はあまり無さそうだ。
『ファランクスの先頭の人間が死を覚悟したとき、ジルファーンをしとめたという感覚も、自分自身が死んでしまったという感覚もありませんでした。』
『ふと目を開けると、そこには無傷のジルファーンと自分の手に持っていた刃が砕け散ったのか、刃のあった跡形すら無くなった木の棒だったのです。』
『彼等は自分達の誇りだった槍と先頭だった事による命の危険が一瞬で砕け散ったことに戸惑い、安堵し、しかし屈辱を覚えるのでした。彼らは先頭で死ぬ運命だった、その覚悟に裏切られた気がしたからです。』
挿し絵にはファランクスの陣形の男達が自分の持つ数秒前まで槍だった木の棒を見てとても驚いているという、戦場ではとても間抜けだと思われるような顔で描かれていた。まぁ、そんな顔になってしまうのも分かるけどさ…………。
『ファランクスの男達は後ろから聞こえる音に反応してからハッとしてすぐにそこから撤退しました。後ろからは剣奴出身の盾と剣を持った男達が走ってきたのです。』
挿し絵には髭が濃く長く伸びた山賊のような男達が走ってきている絵だった。ドランシア王国の軍は全戦力をジルファーンにぶつけているのだろう。
『ジルファーンはたとえ剣であっても、槍であっても滝のように降り注ぐ矢であったとしても、ジルファーンに傷を与えることはできず、しかしドランシア王国の軍には死人は愚か、けが人の一人すら出てこなかったのです。』
『その様子を見てドランシア王国の将軍が自らの軍に向かって叫びました。「情けない。聖戦を邪魔せし盗賊王ジルファーンに傷一つも与えられぬとは。我等の神であるオスブリュッヘンも呆れて雲を晴らしてしまうだろう!!お前達に軍の人間である誇りなど存在もしなくなるぞ!!」』
「ちなみに、オスブリュッヘンに捧げる聖戦に関してのタブーとしては一人の強者に百の単位の人数が倒されるほどの実力差のある戦、武器を無くす戦、敵と差し違えることも出来ない戦の三つだよ。」
「ジルファーンとの戦いの中でドランシア王国の軍は全てのタブーを犯していますからね………。それを考えるとアゴラムが叫んだのも仕方のないことだと思います。」
「確かオスブリュッヘンが聖戦に不満がある時は雷を落とさないということで雲を吹き飛ばしてしまうって諸説がありますね。オスブリュッヘンに心酔しているアゴラムが怒りを露わにするのは当たり前ですね。」
ガンさん達が説明してくれた後に挿し絵を見ると、確かにアゴラムの顔はそんな感じだった。と、思っていると塔子ちゃんがこう言うのだ。
「いや、この顔って好きな子に良いところ見せようとして自分の取り巻きを使って何かしようとして失敗してそれを好きな子に笑われたからって取り巻きを怒る顔に見えるんたけど………」
その台詞で僕は笑ってしまった。言われてみれば確かにそう見えてしまう。いや、本当にはまり役になっているよアゴラム……………。なんかこの人が英雄だと言われない理由も分かってしまう。だって塔子ちゃんの一言で将軍からいじめっ子にイメージが変わってしまったのだ。本当に情けない人なんだと感じてしまった。
『怒りで顔を赤くしたドランシア王国の将軍はとうとう馬から降りて自らジルファーンに斬りかかりましたが、ジルファーンが剣を一振りするだけで将軍の剣はボロボロになってしまいました。』
『せめて差し違えようとジルファーンの胸元に剣を突き出したドランシア王国の将軍でしたが、ジルファーンの剣に受け止められ、その剣は完全に刃が無くなってしまいました。』
………………ジルファーンが圧倒的に強かったのかアゴラムの力が完全に弱かったのかは分からないけれど、ドランシア王国の敗北は決まったのだろうと思う。それとも諦めずに向かっていくのドランシア王国なのだろうか?
『将軍が敗れたドランシア王国の兵達はイルオニア王国の弓矢に警戒しながらゆっくりとその場から立ち去りました。』
意外とあっさりした立ち去り方で文章は書かれているけど挿し絵ではかなり腑に落ちないって事が顔に書かれているぐらい分かりやすく不機嫌な顔のアゴラムが描かれていた。
『その様子を見てイルオニア王国の将軍はジルファーンの姿を見てその力を認め、自らの軍も撤退すると言いました。そして、その前に自らの力を試そうと、ジルファーンに一回きりの勝負を申し込みました。』
『その勝負は接戦でジルファーンの勝利でしたが、イルオニア王国の将軍はとても満足そうな表情でジルファーンを見ていました。「そなたのような考えと実力がある王がいるなれば、私にこの上ない喜びは無かっただろうな。たとえ私が今の王を殺したとしても、新たな王が今の王と同じようなことをしないとは限らないからな。」』
『そう嘆いていたイルオニア王国の将軍に近付く一人の影が、イルオニア王国の将軍の肩にそっと手を据えました。「なら、私が戻ってこの方と結婚してこの方を王にすれば貴女の悲しみは消えるのですか?」』
…………このシルエットはどこかで見たような……と思いながら挿し絵を見ると、そこにはジルファーンと供に盗賊をしていた青年が立っていた。
『「ジルファーン、今まて騙していてすみませんでした……………私は…………私は…………。」』
次のページを開いた瞬間、僕達の驚きは頂点に達していた。いや、これは実話なんだよな?と何回も思ったほどだった。それぐらい衝撃的な盗賊王ジルファーンという物語の最後だった。いや、ある意味王道な終わり方なんだけど。