聖者達part 嵐のようなメンバー達 元盗賊団の長編-8
『両軍の間に立ちふさがったジルファーンにイルオニア王国の将軍はこう言いました。「なぜ、盗賊として名高いそなたが我らの前に立ちふさがるのだ?まさか、わざわざ死にに来たわけではあるまいな?」』
イルオニア王国の将軍は黒く大きな馬に乗り、馬と対照的な白い鎧をまとっている………女性だった。なんで女性なのかと思っているとガンさんが解説してくれた。
「イルオニア王国第八期将軍テイネル・シルファスは別の物語では英雄と伝えられる人だよ。最古の女将軍って訳じゃないけどね。」
「ちなみに、世界最古の女将軍はイルオニア王国第二期将軍クテンシュー・シルファスっていうんですけど活躍はしていませんね。これは学校で授業を受ける人にとっては歴史の授業で習うらしいですけど、私達は習っていませんでしたね。ジーブルフリーデは学校に通うことが義務づけられていますけど私達は学校すら無いところだったので……。」
アンシュルテちゃんがそう言うと、少しだけ暗い顔をした。確かにガンさんの国のように奴隷制をしている国やアンシュルテちゃんの国のように洗脳してしまっている国は学校という制度はいらないのだろう。
「アンシュルテさんと団長の説明は不足部分が多いですよ。まず、世界最古の女将軍クテンシューはイルオニア王国第一期将軍バイケイス・シルファスの一人娘です。クテンシューはバイケイスの没後、自身の従兄弟で後のイルオニア王国第三期将軍となるルッツ・ベドラス・シルファスに将軍職を受け継がせるまでの六年間将軍職についていました。」
「五年間というと、ルッツの年齢はどれくらいだったんですか?」
花多美ちゃんが聞くとジルフェさんが答えてくれた。まぁ、六年間将軍職に着いていたということもあるけれどそれでも自分の従兄弟に譲っているということは従兄弟に何かあったのだろうか?と僕は思ってしまうのだ。
「バイケイスの没年ではクテンシューは23歳、ルッツは14歳。元々将軍職は二十歳にならなければたとえ継承するにふさわしい地位の者がその人しかいなくても二十歳になるまで将軍職には就けないっていう国が多かったからね………。」
「じゃあジーブルフリーデはそういう国じゃないんですね。ガンさんはまだ二十歳になっていないし。」
するとガンさんは当たり前のように僕が言ったことに意見を言う。それは合理的なのかただ先代がそういう迷信の無い人だったのか………という決め方で団長に選ばれたらしい。が、この話は続きを早く読ませたいジルフェさんによって割愛させられた。
「ちなみにクテンシューは任期の六年の間に軍に入れられた平民への人権の確立や奇襲戦法の多用による戦の早期決着に、バイケイスの強いた将軍絶対式の否定と廃止に不当な方法で富を築く貴族への処分などの実績があります。活躍していないと見えるのは同じ国の女将軍のテイネルが英雄と言われるほどに活躍したから影が薄いのであって決して役立たずだけど問題として出る人ではありませんよ。」
「わ、分かりました!!分かりましたからジルフェ!!無言のプレッシャーへやめてください!!」
クテンシューについて熱く語るジルフェさんのプレッシャーに怯えて身を縮こませてから花多美ちゃんの背中に逃げるアンシュルテちゃんの様子を見ていると、ヒルージュさが閉じ込められているアイアンメイデンからドンドンと音がした気がした。けれどもそれは僕の勘違いだと思う。だってあのアイアンメイデンは防音使用なのだから。
『イルオニア王国の将軍がそう言った後、ドランシア王国の将軍もジルファーンに向けてこう言いました。「盗賊風情が我等の戦を邪魔するとは、それ相応の覚悟があるのだろうな?我等の戦は戦の神オスブリュッヘンに捧げし聖戦であるのだ。盗賊風情が聖戦を汚すとは腹立たしい。」』
ドランシア王国の将軍は赤い鎧に包まれた馬に乗る金色の鎧をまとった男だった。かなり重厚感のある顔でいかにもこの人が将軍だというのが分かるような顔立ちだった。
「ドランシア王国は戦闘的な国である前に信心深い国で、特に信仰しているのが戦と雷の神、オスブリュッヘンってわけ。オスブリュッヘンは諸説が多いけど一番有名なのは戦を天空から見る神で、聖戦として捧げられてた戦の途中に晴れの空から雷を落とすとして有名なんだ。」
「聖戦として捧げた戦の最後に雷が落ちると、その戦争にオスブリュッヘンが満足するということですね。」
ガンさんが解説した後に僕はオスブリュッヘンについて簡単なことは理解できた。しかし、この世界では神の名前も違うんだなと思ったし、この世界にも神に捧げるような事をする人もいると分かったのだった。いや、ガンさん達が無神論者らしい人なので、あまり意外なことでは無いのだけど。
「ちなみにドランシア王国の将軍はアゴラム・リューシュラ。確かドランシア王国第四期将軍だったかな?元々ドランシア王国の将軍は長生きしていているのと戦を数え切れないほどしているのが特徴でこれといった功績は無いんだよなぁ……。」
「でもアゴラムは有名ですね。一般的に英雄とは言われませんが自由と平穏の神ランキロの信仰を禁止したんですよ。聖堂もいくつか壊していますしね。」
…………僕達の世界にいたようなアメンホテプ四世に似ているなぁ…………。確かアモンからアトンにしたんだっけ。アイドルとして活動しているから殆どうろ覚えの世界史の記憶を呼び出しながら僕はページをめくった。
『ジルファーンは二人の将軍から睨まれてもあまり怯えることはありませんでした。ジルファーンは腰にかけた剣に手を添えてこう言うのです。「俺はこの地で死者を出されると困るのだ。火矢を使われればこの地は焼ける。この地に血の海ができれば一本の草でさえ生えぬ土地になる。それが俺には耐えられぬのだ。」』
『ジルファーンがそう言い終わる前に、両軍の弓矢隊からジルファーンに向けて矢が放たれました。ジルファーンを狙う矢はおよそ八千本。しかしジルファーンは怖がることなどしませんでした。』
『ただ、ジルファーンは空に向かって剣を振り抜きました。
八千の矢はまるで粉のように砕け散り、ジルファーンを殺すことは出来ませんでした。ジルファーンは将軍二人を見つめながらこう言いました。』
『「俺は、お前達の軍から戦う力を盗もう。それが盗賊王ジルファーンとしての、最後の強奪劇だ。」と。』
この挿し絵に描かれているジルファーンはとても格好良く描かれていた。というか、この人の力ってとんでもないなぁ……………。弓矢を粉にするほどの衝撃波出せるとか………。と思ってしまった。
「ジルファーン………やっぱり格好いいですよね!!」
ジルフェさんが目をキラキラさせながらこちらを見てくる。うん、格好いいね、ジルファーン。英雄として残るのも分かるよ………。
そう思いながら僕はクライマックスに突入した童話集の次のページをめくるのだった。