聖者達part 嵐のようなメンバー達 元盗賊団の長編-7
『ジルファーンはそれから一人で、村を襲いつつも怪我人の一人すら出さずに食糧を盗むという行為を続けていました。その時に彼は旅人として村人と話し合うこともできたと、あなた達は考えるでしょう?』
語り手が問いかけるように、僕達はそう思っていた。なぜジルファーンは村人と話し合うこともせずにただただ奪うことしかしなかったのだろうか?と思っていたのだ。
『ジルファーンは仮にも元王族のために、その権力を失っていたとしても王族を嫌う村人にジルファーンは心を開いて貰うことができないからでした。』
…………………まぁ、その時代にはカリヴァーンやその父親の元ペルクデイル王国の王みたいな横暴な王ばかりなんだろうなぁ…………と思ってしまう。妻のために国民の暮らしを脅かしたりするカリヴァーンや好きな女を強制的に操って妻にするペルクデイル王しか出てきてないしなぁ………。
『彼は一人で旅を続けていましたが、道中にある青年に出会いました。彼は子供だけの小さな集落をまとめていた長でした。彼が一人で出稼ぎをしていたのですが、雇い主側の横暴によりとうとう子供達を養うだけの金を稼ぐことができませんでした。』
倒れている青年はかなり凛々しい人だったが、かなり疲れているのが分かる。事実、このページの挿し絵に彼がかなりの重労働をしている描写が回想として入っている。…………いや、あれだけ働いても給料あげないってどんだけひどいんだよと思ってしまう。
『彼は死にかけながらも、子供達を守ろうとしていたのでしょう。ジルファーンにこう言いました。「旅の人か、確か盗賊のジルファーンと言うものではないか?どうも町で見た手配書にそっくりだ。」』
『そして、青年はジルファーンに縋るようにこう言うのでした。「あなたは盗賊なのだろう?ならば私の大切な子供達を奪っていってくれ。子供達をどうか生かしてやってくれ。」』
挿し絵には青年の絶望と少しだけ頼る者を見つけられたような顔が描かれていて、青年の懇願する様子がよく描かれていた。
『そう言いながら青年は自分の住む集落へ戻ろうとしていた。そんな青年のことをジルファーンは放ってはおけず、青年に食べ物を分けました。死にかけていた青年をなんとか回復させたジルファーンは青年と共に集落へと行きました。』
『「あぁ、あなたも生きることに必死だったのですね。」青年がそう話しかけるとジルファーンも頷いた。そして、集落に付き、子供達と触れあったジルファーンは彼等を盗賊の仲間として連れて行くことにしました。』
盗賊団の初の追加メンバーになったんだなぁ……………。と思いながらページをめくろうとしたとき、僕の近くのテーブルに紅茶の入ったティーカップが置かれていた。誰が置いたのかは分からないのだけど、ガンさん達の態度からこれは僕が飲んでも良いということらしい。
「………この紅茶、美味しいですね。誰が入れてくれたんですか?」
僕は素直にお礼を言おうと周りを見渡すのだけど誰も名乗り出ない。でも、これまで飲んできた紅茶よりも美味しかったので本を読む時の休憩と称してもう一口飲んでからページを開いた。
『子供達と青年を連れてジルファーンは、旅をしました。食べる物は奪うことでしか得ることができなかったのですが、春になれば種をまいて自分達で作物を作ろうと思っていました。』
『冬の間は何もできないために、仕方なく強奪を子供達とともにやっていましたが、この子供達には絶対に人を殺してはいけないこと、元々の自分達のように貧しい村からは何も盗らない事を徹底しました。』
『子供達はその教えを守り、奪ったことを喜ぶこともしませんでした。笑い飛ばすことはできないほど強奪とは彼等の心に深い闇として居座っていたのです。』
『ジルファーンは、子供達にこれ以上闇を抱えさせてはいけないと、春からは子供達に作物を作らせて、子供達に食べて貰おうと青年と話し合って決めたのです。』
『ですが、町に行っていた青年から、自分達が使おうとしている土地が大変な事になりそうだという事を聞きました。なんでも、その土地でイルオニア王国とドランシア王国の戦争が起ころうとしていたのです。』
『戦争が起こればその土地は焼け野原になる事もあるほど荒れてしまうのです。荒れた土地が作物が出来るほどに回復するには何年もかかってしまうのですから、青年が慌てふためくのも仕方のない事でした。』
…………ようやく二つの王国が出てきた………。ジルファーンはどうやって戦争を止めたのだろうか?と気になって仕方がない。ジルフェさんもソワソワしながら僕を見ていた。
『「これから子供達が笑えるようになるかと思えば、なぜこんな事に………。戦争さえ無ければ、子供達が飢えることも、死ぬことも無いのに。」青年が嘆いていると、ジルファーンは青年の肩をポンと叩き、こう言うのです。』
ジルファーンが泣いている青年のに背を向けている絵が描かれていた。その背中はとても頼もしそうに見える。………でも何故か青年のヒロイン感が拭えない。彼は男のはずなんだけどな………と、僕が言っても良いのか?と思ってしまう。
『「ならば、俺が戦争を止めて見せようか。俺の力が及ぶかどうかは分からないが、できる限りの事はしよう。俺も戦争は大嫌いなんだ。」』
ジルファーンが、とても凛々しい顔で腰に刺している剣に手をかけた。正直ジルフェさんが憧れるほど、このジルファーンはとても格好良かった。
『そして、その数日後に戦争が始まろうとしていました。イルオニア王国とドランシア王国の将軍が互いに叫びあい、戦争が始まる直前にジルファーンが二つの軍の動きを止めるように間に入りました。』
………………戦争の止め方ってまさかの実力行使だったんですか!?と思ってしまう。いや、話術とかで和解させるということじゃないんですね!!でもやっぱり挿し絵の二人の将軍と対峙しているジルファーンがとても格好良く描かれている。
クライマックスがもう少しだと、ジルフェさんのキラキラした顔がそう語りかけていた。うん、ジルフェさんやっぱり年下だ。今のジルフェさんはアンシュルテちゃんよりも可愛いと感じる。
「それってジルフェのギャップからの反応ですよね!!!!私が子供っぽいのが余計に強調してるわけじゃないですよね!?」
アンシュルテちゃんが何かを叫んでいたけど続きが気になっていた僕はアンシュルテちゃんの事は後で構う事にして続きを読むのだった。