聖者達part 嵐のようなメンバー達、大人になりたい大人編-3
ギアソーサーツヴァイの効果が終了し、歯車が消えたところでアンシュルテちゃんは気が済んだのか、ヒルージュさんの方から僕達の方を向いていた。しかし、ヒルージュさんはまだ満足していないのかアンシュルテちゃんに向かってよろよろと動いていた。
「この雌豚!!私が話をしたいのに邪魔しないで!!」
「アンシュルテェェェェェ…………私は、私はまた満足できてないんですぅぅぅぅぅ!!」
「黙りなさいよ雌豚!!『アイアンメイデン』!!」
アンシュルテちゃんが物騒な処刑具の名前を叫ぶと、それに併せてヒルージュさんの体を灰色の粒子が覆い、それが僕達のよく知る処刑具の形に変化した。それはシンプルな形で、顔の部分が省略されていた。
SWで確認できればいいのだけど、僕の転生ボーナスのスキルにはそのようなスキルは無いので確認することは出来ないのだけどあのアイアンメイデンの中は完全防音らしい。実際扉が閉まるとヒルージュさんは喜んでいる筈なのに全く声が聞こえなくなった。
「ふぅ……………これでようやく私が話せますよ……。」
「でもやっている事はえげつないような気もするよ………アンシュルテちゃん………。」
「べ、別に良いんですよ!!元々私はドSな女を目指していたのですから!!」
自信満々に言うアンシュルテちゃんを見て僕はその様子を微笑ましく見ていたのだけど、神子がそれを見て溜息を付きながら言うのだ。
「……………正直に言って全然ドSに見えないただの女の子だったと思うわよ?」
神子がそう言うと、ショボンとしてしまっているアンシュルテちゃんがいた。それを慰めているのは花多美ちゃんだ。僕はそんな二人を見ていて、やっぱり二人は似たもの姉妹にしか見えない。
「と、とりあえず話すと、私の出身の国は魔法使い系の職業を異様に嫌う所だったんです。場所的にはジーブルフリーデと団長の出身地の間ぐらいの所にありまして…………。」
「あぁ、確か私が先代に救われてからジーブルフリーデに帰ってる最中に助けたんだっけな。その時は………10歳の時ぐらいだったような…………。」
「………そうですね、団長。私は魔女狩りで殺される前に助けてくれたのは前団長と団長でした。まぁ、出来ることならもっと速く来て欲しかったですけどね。」
そういえばアンシュルテちゃんの両親は自殺してしまっていたんだっけ……………………。その両親も救えたかもしれないと言いたいのだろうか?と僕は思った。
「いや、私達が着いたのがアンシュルテの処刑当日でアンシュルテの両親が自殺した……………というか操られて死んだのはその三日前じゃないか。ついでに言うと拷問と化して相手から成長抑圧剤を投与されたのもあるしね。あれは非常に痛みがあるからね……………成長促進剤よりは無いと思うけど。」
「……………あれ?そこらへんの記憶が曖昧なんですよ………?」
「そりゃあトラウマというかフラッシュバックの無いように記憶が曖昧になってることも忘れてるっぽいなぁ……………これじゃあやっぱり子供って言われても仕方ないと思うよ?アンシュルテ。」
「むきーーっ!!じゃあ団長は覚えてるんですかー!!」
ガンさんがアンシュルテちゃんをからかうと、アンシュルテちゃんは子供みたいな怒りの返し方をしていた。
「まぁ、アンシュルテの出身国は本当に嫌な国王だったと思うよ?いや、私の所もにたような所だけどさ。アンシュルテの国は洗脳中心の悪政で私の所は奴隷中心の悪政だったかな。」
「それなら魔女狩りの必要性が分からないんですけど…………。」
塔子ちゃんがそう聞くのも不思議ではない。洗脳と言えば思いつくのが魔法使いなどの魔術を使う人間達だ。それなのになぜ魔女狩りをしたのだろうか?むしろ仲間に加えるべきだったと思うんだけど…………。
「言っておくけどさ…………アンシュルテの生まれ育ったバグラマント王国はジーブルフリーデの土地や力を求めていたからね………。戦争とかしょっちゅうやってたんだよなぁ……………ジーブルフリーデの圧勝で終わるんだけど。」
戦争とか無かったらあそこまで大規模な騎士団は必要ないのだろう。しかし、アンシュルテちゃんの話を聞いていると、その戦争はまだ続いているようにも聞こえる。
そんなこんな思っていると、急にどこからか声が聞こえてきた。ヒルージュさんではないだろう。アイアンメイデンの中からは何も聞こえない。それに、ここまで透き通った綺麗な声では無かっただろう。
「それでも民は死にませんでした。なぜなら、民には不死身の洗脳がかけられていたらです。彼等は死ぬことも許されず、愚なる王の命令に従い、戦争を仕掛けました。決して勝つことはできないと愚なる王は分かっていたとしても、王の暴挙は止まりませんでした。」
その人はとても綺麗な桜色の髪を腰まで伸ばしていて、着ている服はガンさんと色は違うけど同じ型のセーラー服だった。ガンさんが黒か貴重の上下に赤いネクタイというスタイルに対して彼女はベージュの上下に白のネクタイという組み合わせだ。
「愚なる王は、国を不幸にするような事しかやらなかった………というよりはできませんでした。彼は暴君にもなれぬような、しかしそれでも自分の思い通りにならないと怒るような、我が儘な王でした。」
彼女の話し方はまるで絵本を読み聞かされているように、流暢で、まるで景色が見えるような想像力も刺激されている。彼女はテンペストのメンバーなのだろう。彼女の朗読はとても上手かった。
彼女の朗読は終わる気配もなくアンシュルテちゃんがムキーッてなっていることにも気付いていないのか、続いていた。アンシュルテちゃんが「私に喋らせてくださいよ~。」と涙を流し、それを花多美ちゃんが慰めていた。
「そんな王は、大臣に国民を洗脳しろと命じました。民を逆らわせないようにしろ。その代わりにお前達にはなんでも与えてやろう。それを聞いて、大臣達は王の命令に従いました。そうすれば、酒も女も王が持つことに相応しい上等な物を手に入れられるからです。」
「大臣達は嬉々として民を洗脳し始めました。不死の洗脳であれば、国民は何も文句を言わないだろう。死なぬのだから、いつでも戦に勝てるだろう。そんな浅はかな考えしかできないような、愚なる王は、新たなる土地を手に入れることはできませんでした。」
「何年か経てば、自分が洗脳されているということに気付く者も出てくるものだ。魔法を使う者ならば洗脳に耐性が出るだろう。誰が洗脳しているかに気付くだろう。その事を恐れた愚なる王は、ある政策を出すことにした。それはあまりに残酷だった。」
「魔法使いが男なら酒や女、王にしか食べられないような珍味に戦場へ行かなくても良いという事が条件であれば、心を許し、妻子を裏切り、洗脳への、愚なる王の下へと行くのだった。」
段々とクライマックスに近づいているのが分かる。そして、アンシュルテちゃんの瞳にかなり涙が溜まっているのも分かる。いや、ガンさんに取られがちだった自分の過去の説明を別の人に言われているのだから当たり前なのかもしれない。
「だが、女性の魔法使いには違った。ある者は王や大臣、魔法使いの慰み者にされ、またある者は王に逆らう気を起こさせぬように、処刑するのだ。」
「それは、まるで残酷と呼ぶに相応しい所行だった。女は生きるために自分以外の民を、夫を、子を、親友を殺すことなど考えられず、時には焼かれ、時には首を落とされ、時には鋼鉄の棺に閉じこめる。」
………今鋼鉄の棺にはヒルージュさんか入ってるとはとても言いにくい。
「そして、その所行は、その残酷さから、我々はこう言いざるを得ないのかもしれない。それは王が王であるために、王が支配者であるために、王が、王に賄賂を送られている大臣が、操られし民が行う所行である。」
「これが、罪なき者をも殺す、罪在りし者の行う儀式……………………………魔女狩りである。」
その冷ややかな声は、私達がアンシュルテちゃんから聞かなくても済むようなほどのクオリティで完全に私達をアンシュルテちゃんの過去の話に引き込んだ。