聖者達part 特待生の事情-5
「そういえばまだオーディションの事話してないよね?」
ガンさんがそう言うまでその時のことを話すのを忘れていたことに気がついた。オーディションの後の事は話していたものの……いや、丁度良いか。クロが方向音痴の事はあまり伏線にはなってないし。
オーディションの時の事を説明しようとした俺はその時の事を漫画で出てくる回想シーンのように思い出していた。
これは昔の風景だ。面倒なので当時のをそのまま使わせてもらう。
「お~い、白河~。」
「…………………………」(はぁ~、なんか良いネタないかなぁ………。二次創作にすると連載になるからメンドいんだよな……)
「白河!!話聞いてんのか?」
え~っと、こいつの名前ってなんだったけ………まぁいいや、Aでいいや。コイツは結局芸能界に来てないし。中学出てからの関わり無いし。
「……なんだ?A?」
「いやいや、お前に話があるんだよ。ちょっとこれを見てくれ。俺達の行動可能場所でアイドルのオーディションするんだってよ!!こりゃあ行くしかないだろ!!なぁお前等!!」
「「「「「「「おう!!!!!」」」」」」」
Aがそう言うとクラスの男子は全員一致でガッツポーズをしていた。やめてくれよ、お前等何十人でむさ苦しいグループでも作るのか?
「とゆーわけだからお前も来いよな、白河。」
「………行くだけだからな、俺は。」
「よっしゃ!!じゃあ書類には大人数部門でだしとくぜ!!」
Aがそう言って書類に名前を書き始めた。住所などは書かなくても良いらしく、名前だけがスラスラと書かれるのだった。主謀者のA曰く、大人数部門でグループとして合格しなくてもソロや別の子とコンビを組み合わされたりする枠もあるらしく、Aはそれ狙いだったらしい。
ちなみに、ソロやコンビなら当日でも良いが、大人数の場合は書類を出さなければならないらしい。クロが当日に無理矢理オーディションに参加させられたのはこれが原因だ。
数日後、
「じゃあ明日がオーディションだから今日明日は早く寝ろよ~。まぁ必勝祈願って事で勝々亭で必勝盛り丼食べに行こうぜ!!」
Aはジンクスはあまり気にしないがカツ丼などの迷信は信じているらしい。
「俺は行かなくて良い。家で食べる方が安上がりだし、母さんにドヤされる。」
「あ~、お前んち母子家庭だしな、俺は両方いないけど爺ちゃんばあちゃんに世話になってるからな……。二人だけだと心配させまいというのは分かるから来なくて良いぞ。」
「………本音は?」
「限定50のやつだからお前呼んだら俺が食えなくなる可能性があるから」
そう言いながら、A達は夜の商店街へと消えていった。必勝盛り丼というのはトンカツと牛カツ、チキンフライが大量に乗る丼のことだ。値段は1000円程と書かれているが、あくまで一人で食べ切れた場合の値段だ。ご飯の一粒でも残せばその場で一万円払わなければならない。キャベツや卵も多く乗っているために大食い選手の食べるほどの量になってしまっている。それをアイツ等はオーディションの前日の夜に食べきったのだった。
案の定、彼らは腹を下した。オーディションにはどうやっても出れるコンディションでは無いからと、全員が棄権してしまった。
これで俺も行かなくても良いと思ったのだが、Aの野郎は住所しか調べていなかったらしく棄権のための電話が出来なかったらしい。
「はぁ……………仕方ない、出てくるか……原稿終わったし。」
俺はAの家に寄って代表者である証明書を預かり、オーディション会場へと向かったのである。とりあえず棄権することだけを伝えてさっさと帰ろうと思っていた。
しかし…………………。
「すいません、グループ『オレタチ!!』は棄権です。伝えたので帰ります。」
俺がそう言って帰ろうとすると審査員が立ち上がり、俺をソロの方でスカウトしてきた。
「いや、俺は別の内職がありますし……………」
「大丈夫大丈夫!!歴史に名を残せるよ!!」
「残るの黒歴史だけじゃないですか?」
「そんな事ないない!!君なら確実に歴史に名を刻むスーパースターになれる筈さ!!」
元々無理矢理連れてこられていた俺はアイドルなんてなる気は無かったのだが、親が反対するからと言う理由で逃げ切ろうと母さんにメールしてみても母さんは全然OKって返事返してくるしで事務所に入ることになったわけ。
「その時に僕も事務所に所属したってことにされたんだろうけどね。で、コンビにならないかってプロデューサーから提案があったわけ。」
「まぁただでさえ無理矢理連れてこられたオーディション会場で、面識のない相手といきなり組んでアイドルやれって言われても普通はできないだろ!!と思ったけどクロとはなぜか上手くやっていけそうって思ったんだよなぁ……まぁ、兄妹だったんだから当然だけど。」
コンビになった直後にというかクロはずっと自分は女って主張してたんだけど、問題起こさないようにすれば平気だし、実質俺はクロに何の手出しもしなかったけどな。する気も起きなかったし。
「そりゃあ少女漫画読みまくってて女性側からの恋愛話ばっかりのシロじゃあなんのエロい事もしてこなかったわけだよ。」
「漫画の締め切りやストックに集中していた時も多かったしな。短期集中連載のも何個か描いてたが、月に一本ペースでも何十年も保つほどストックあるしな。」
「引き籠もりの原動力ってなんだろうね…………。」
まぁ今でもクロは男であるフリをしなきゃいけなかったから、色々と大変だった。まぁすぐに人気も廃れて終わるだろうと思っていたら、全国デビューの人気になってさ………で、男同士だからホテルで同室の部屋を取らないといけなかったんだよ。二つに分けたら色々と勘ぐられるから。
……で、俺は母さんも連れて、クロの父親……当時は片親だって聞いてたし俺も母さんの片親って言ってたけど……なんだ、その。
娘さんと同じ部屋に泊まりますが絶対に手出しをしないって事を報告しにいこうと思ったんだ。それでファミレスで二人落ち合うことになった。
母さんはクロとしか聞いていないから気付かなかったんだろうな。でも、これが、俺とクロが兄妹の関係に戻った話だ。
………いや、恋人とかじゃなくて相棒としての関係から、だからな。いかがわしいこと考えないでくれよ。