聖者達part 特待生の事情-4
「それでさぁ~。アイドルになったのはどんな権威なんだっけ~。私はクロとは高校からの付き合いだから知らないんだけど~」
バベルがそう言ってくるのでアイドルになるまでの事を話そうと思う。ちなみに、御堂シュマロとしては今でもやっていたのだけど。
アイドルになるキッカケは、中学校の同級生がオーディションに出るのに無理矢理行かされることになってたんだよ。その時は代行漫画を二本も描いてる時だったからかなり腹がたってたな。ちなみにそのクラスメイトはそれなりに顔と声は良かったぞ。性格は自分が受かろうと地味な奴を引き立て役に有無を言わさずに連れて行くのやつだったけど。
「つーかあの時期は顔隠れるぐらい前髪長かったしな。髪切りに行く時間も惜しいほど描いてたからな。」
「オーディションの後にシロは前髪をバッサリと切り落とされたからねぇ。」
「うっせぇな。道に迷って道聞こうとオーディションやってた事務所に入って有無を言わさず受けさせられたという伝説持つお前が言うな。」
「い、出雲様はその時にどのような店を探していたのでしょう………?」
「それについては私が説明してあげよう!!」
バベルとクロは俺とは違って中学時代からの付き合いだ。それは俺とクロが別の中学だったのも関係している。俺とバベルが高校に入ってからの付き合いとなっているのもそのためだ。
「私の家は喫茶店でさ、食べにおいでよって出雲っちを誘ってたわけ。でも当日私は風邪引いて迎えに行けなかったから、代わりに地図と住所をメールで送ったんだけど……。」
「僕は地図読めなかったからね~。」
「笑い事じゃねぇだろ。お前一人で行動させるとすぐに迷子になりやがるからな。コンビになってからしばらくはコイツが集合場所に遅れるなんてしょっちゅうだったんだぞ。」
「確かに出雲っちは待ち合わせの場所を駅前とかにしておかなきゃあダメだったね……ってかなんで神兎っちはオフの日に遊びに来なかったんだよ?」
バベルは俺とクロのファンでは無いが顧客を増やしたかったらしく、俺のことを常連客にしたかったらしいのだけど、俺はオフの日に外出はしたことが無かった。いや、できなかった。
「大体なぁ、俺のオフってのは学校に行っている時間だけであって家にいるときは手が止まってた漫画描かなきゃあいけなかったんだぞ!!まぁそのおかげでなんのスキャンダルも存在しなかった訳だが。」
「僕もそこまでスキャンダルな事は無かったなぁ~。店のことについては言及されたけどアイドルやる前からの常連だったってだけだしね。」
「………でも先輩はスキャンダルこそ無いものの黒歴史のような記録は残ってるわけですよね?」
後輩が先輩と呼ぶのは俺のことだから、俺のアイドル時代の黒歴史がドバドバと頭の中に流れ込んできた。正直に言えば思い出したくなかったような……………。
「確かバラエティではよく女装させられたりしてたよねぇ。」
「黙れ、クロ。今思えばお前がやれば良かったじゃねぇーか。」
「ダメだよ~、出雲っちにはスカートは似合わない!!というかシロの方は似合ってたよ?スカート姿。」
「先輩は少女マンガ描いていましたし色白ですからね……」
「これは元々病気だったんだから仕方ないだろーが。」
アイドル時代に話を戻すと、俺とクロがそれなりに売れるようになってから全国を飛び回るようになるんだが、前述の通りクロの方向音痴が問題になって俺とクロは別行動とか取れなくなったわけ。しかも周りにバレないようにするために移動がスタッフと一緒じゃ無いんだよ。現地集合だったわけ。
「あ、だから初めての全国ツアーでは最初シロだけが移ってることが多かったんだぁ~。」
「毎回毎回余興をさせられた身になってみろ、コイツの地図の読めない方向音痴は恐ろしかったのが分かるから。」
「~でもシロがヴァイオリンとかフルートとかできるのは意外だったなぁ~。」
「あれは偶然だ。漫画の資料として家にあった指南本読んでうろ覚えだったのを覚えてただけだっつーの。」
「それは嫌みですか?先輩?私は琴を引くことが出来ないのですよ?師匠もいない先輩が同じ弦楽器をつかいこなせているのが腹が立ちますよ。」
後輩がそう言いながら軽くそっぽを向いてしまった。俺はそれを見てなんか変な事を言ってしまったのか?と思ってしまった。しかし、後輩は徐々に泣き出してしまった。
「いや、あれはシロが変なところだけ才能があるだけだから。だからもう泣かないの!!花多美ちゃん。」
「出雲様………ありがとうございます………。ぐすっ………ぐすっ……。」
後輩が泣き疲れ、クロの胸の中で眠っている微笑ましいような二人を見て、和んでいるとガンさんが過去話の続きを所望していた。
「それより早く続き続き~。」
「そこまで急がなくてもいいよ~。というか神兎っちは車酔いとかしないタイプなのかな?」
「俺は車酔いとかはしたこと無いな………。まぁ、アイドルだったしな。でも電車は辛い。」
「まぁそれでもこの馬車で移動しないといけない距離なのかは知らないけど、なんで使ってるのさって…………そういえば男性アイドルとして一番やばい事があったんだっけ……」
ここまでに書いてなかったが俺達は今馬車で移動している。この馬車の持ち主は転生ボーナスで授かった俺だった。
「体力の全くない神兎っちがよくアイドルとして働いてたね………」
「まったく…………シロはダンスとか全部僕の担当にしちゃったしさ。シロの振り付けなんてくるりと回ったりとかだけだよ?」
「で、でも事情があるんですよね?」
後輩が他意のない目で見てくる。あぁそうですよ、俺は体力がないですよ。本当に無いですよ。
「でも兄妹なのによくここまで体力が違うよねぇ…………」
「そりゃあなぁ…………俺は病気で家から出たことも滅多にない小学校時代でデスクワークばっかりな人生だったんだよ。そんな俺が小学校時代から敷地内の山を走りまくってたお前とは天と地ほどの差があることぐらい分かるだろ……」
「でもデスクワークが得意な子が来たのは嬉しいなぁ。これで堂々とお昼寝が出来るよ~。」
ガンさんはそう言いながら俺の肩をポンポンと叩いた。まぁ一応漫画を描くのも書類仕事とは言えるかな……………。
体力的に楽そうな仕事が貰えそうなのである意味安堵する俺だったのである。