聖者達part 特待生の事情-2
「まぁ、自己紹介しなくても知ってると思うが、俺は白河 神兎だ。特待生で入れた理由はアイドルの白銀としてクロとコンビで活動していたからだ。まぁ、アイドルになろうと思ってオーディションに行ったわけじゃないってのはバベルなら知ってるだろうがな。同じクラスの奴には話してるし。」
「だかーらー。仕事してる時の名前で呼ばないでくれよぉ~。神兎っち。私にはちゃんとした塔子って名前があるんだぞー。」
俺がバベルと呼んだクラスメイトはクルクルと回りながら俺に向かって人差し指をビシッと突きだしていた。
「ま、後輩ちゃんには自己紹介しないといけないわけなんだけどさ。違うクラスで接点あんまり無かったし。私は天成 塔子。特待生になったのは人形師とぬいぐるみ作りとしての仕事かな。作る方のね…………。活動してる時の名前はバベルだけど、締め切り思い出すからバベルって呼ばずに塔子さんとかだとありがたいかな。」
バベルはそう言いながら、今度は後輩の肩を軽く叩いていた。
バベルの髪は変わらずに光の角度に寄れば金にも見える茶髪にレースのついたリボンで髪をまとめていた。そして首には白いタオルが巻かれている。バベルの制服のポケットの中からソーイングセットが入っているが、布がないために何も出来そうでなく落ち込んでいた。
バベルの作る蝋人形はかなり精巧であり、有名なテーマパークには確実に一体は置かれている程だ。ぬいぐるみの方も大人気でオークションでは本人は百円で売ったはずの物でも一万を越える。バベルなら人形師が職業になったとしても不思議に思わない。
「でもガンさんの人形の方が上手だよ。動くことを想定していてしかもこのクォリティ………。私は動かない人形じゃないと精巧に作れないからね…………。」
すると、ガンさんがクルリと振り返ってから、ニコッと笑っていた。
「まぁ、二人に渡した人形はまだまだ小さいからねぇ………君達は鍛えれば私に奥の手を使わせるぐらいには強くなれるよ。最低でも。」
その瞳には、バベルと後輩への期待の目があった。俺にとってその瞳を最後に見たのはオーディションの時にしか見たことが無かったために久しぶりに見た。俺に向けられた訳じゃないけど。
「あ、あの………私も自己紹介しなきゃ……いけませんよね……」
後輩はオドオドとしながら、話し始めた。まぁ、この後輩の名前は知らないが、何をしていたかは分かる。確か、彼女は華道家だったと思う。まぁ、前の世界での職業がそのまま反映されるわけではないという話も本当らしい。
「い、一年生の鳳 花多美です……。名前の意味は花が沢山あるように美しく育って欲しい……と、私の母方の祖父の遺言です。しかし、仏滅に産まれたのかがどうなのか、私は美しく育とうと努力しておりますのに周りからはただただ可愛いとしか言われないのです………。」
「ま、まぁ気持ちはわからなくもないけど………。」
バベルがフォローしようとするも、慰める方法が、バベルと後輩の身長の差からバベルが頭を撫でる形になってしまっていた。それを見てからガンさんが「微笑ましいね~。」と言っていたが間違ってはいない。
後輩こと鳳 花多美は黒い髪を艶やかに光る簪で髪をまとめており、身長はかなり低く、髪が長いためにより小ささを感じさせていた。
顔も童顔なためか、さらに子供っぽさも追加されて可愛らしいと言われても文句が言えないであろうとも思ってしまう。
「一応茶道や琴、舞もやりますけど本職としては華道ですね。華道の作品展で良いところまで行ったためにここに特待生として来ることができたのです。もっとも、そこに行くまでに母の厳しい指導を耐え抜いてきたという経歴なので天性の才能では無いのですけど」
「それでもすっごいねぇ~。ちっちゃな体で~。えらいえらい。」
今度はシロが後輩の頭を撫で始めた。それなりに優しく、かつ激しく撫でるのは、シロが後輩を犬猫のように思ってしまっているからだろう。しかし、後輩は嬉しそうだった。
このやり取りを見ていると、美しくでは無く可愛く育っていると言われても仕方のない事かもしれなかった。
「さてと、最後に僕からかな。アイドルの黒銀こと黒神 出雲。男装してアイドルやってたけどこれから女っぽくはできないからねぇ。で、今の職業もなぜかアイドルなわけ。」
「ちなみに俺も職業はなぜかアイドルだ。なんで適性あるのかが分からないがな。アイドルになる前は周りから変わっていると言われてたからな。」
「にしてもさ、二人の生い立ちについては聞きたいなぁ。別にここで言っちゃったってなんの問題もなさそうだし。」
「わ、私も聞きたいです!!出雲様と先輩の話……。」
「私も聞かせて貰いたいね。退屈し無さそうだから。」
バベルから始まり、とうとうガンさんまでもが乗ってきた。そこまでして生い立ちについて知りたいのか?この人は?と思ってしまう。
「…………じゃあ、始めますよ。」
俺はそう言って話し始めた。自分の白く長い髪をそっと撫でながら。