聖者達part 職業決まった模擬戦だ-2
『あ~、結構良い物が二つも残留したね~。ちなみに転職すると、前の職業で持っていたスキルを二つ、転職前の職業と転職の後の職業が反応したスキルになるわけだよ~。つまり、『痛覚劣化』と『耐久値増加Lv8』はドMの王様の固有スキルだったわけ。』
・痛覚劣化……痛覚が非常に鈍くなり、全大火傷を負ったとしても痛みはタンスに小指をブツケた程度にしか感じない。しかし、ダメージを感じずに動けるだけでダメージ自信は変わらない。常時発動では無い。
・耐久値増加……相手の攻撃を受けても仰け反りにくくなる。ただし、相手に掴まれてから投げられるなどの流れには発動しない。
「……なんか凄く便利そう……。」
スキルの説明を見て響はそう言った。
まぁ、確かに持っていて損は無いスキルかもしれない。しかし、その職業がドMの王様だった場合は話が違ってくる。
そんな変態みたいな職業でいられるのは名前の通りのドMでしか無理だと私は考えるが、全員同じ意見だったようだ。
……とはいえ、タンスに小指をブツケた痛さも十分痛いと思うのだけど。
『………にしても聞いたことない職業だなぁ。それに残留したスキルの内の内の二つは分かるとして、三つ目はなんなんだろうね?まぁ、とりあえず模擬戦が先だね。』
「いやいやいや!!まだ職業について全然分かっていない時に模擬戦なんて無理ですよ!!」
隼人が文句を言うと、ガンさんの人形は隼人にトコトコと近づくと、途端にドガっと音が出るほどの拳を隼人に見舞っていた。
『習うよりも慣れよ。まぁ実践でやっていけばコツは掴めると思うよ?とりあえず私の人形と戦ってみなよ。』
「試すには非常に厳しいような気もするんだけど………」
すると、アーサーさんがガンさんに向かって叫んでいた。まぁ、自分達の事をほったらかしにされているのだから当たり前だけど。
「おいガンダレス!!転職の儀の勝負は何処行った!!俺の勝ちだろうが!!さださとベルに負けを認めさせてやれよ!!」
『いやいや~。正直五分五分だし…………二人ともそろそろ戻らないと副団長あたりが混乱してると思うよ?』
それを聞いたアーサーさんとベルさんはハッとしてからすぐに走ってそれぞれの騎士団の拠点へと走っていった。そういえば入団希望の生徒達もほったらかしにしていたんだなぁ……。
『はてさて、さっさとしないと~。この人形で空の彼方までぶっ飛ばされるよぉ~。』
「ちょっ!!せめて待ってくれ!!!!」
隼人の必死な叫びも無駄で、人形は隼人に次の一撃を喰らわそうとしていた。隼人は丸腰のまま逃げ惑っていた。
「せめて武器出さないといけないだろ!!それまで待ってくれよ!!」
『じゃあ最後の情けだ。私の人形はこれから一分だけ動かないであげよう。どうせ三種類しかないんだし武器が二つ以上転生者ボーナスで出るのはほとんど無いしすぐ決まるでしょ。』
そう言うと、ガンさんの人形は隼人を追うのをやめた。そして、なにやら構えを取り、気を溜めるように力を右の拳に集めていた。
「……………どうやらチャージ攻撃っぽいね。」
響がそう言った時に、隼人はガンさんを睨んでいた。しかし、ガンさんはかなり飄々とした顔でサラッと隼人に話しかけた。
『まぁ武器装着する時間はあげたんだから文句は無いよね?』
「大ありだ!!めちゃくちゃ大ありだ!!この鬼が!!」
『鬼で結構。そういえばさ、まだ武器出さないの?』
「間違ってスキルの画面開いちまったんだよ!!まだSW使うのに慣れてないんだから察しろ!、そんぐらい!!」
『でもさ、もうそろそろそチャージ終了なんだよね~。』
ガンさんの言葉の通り、人形の右手に溜まっている気は無色から青、赤と色が変わっていた。しかし隼人はモタモタするばかりで未だに武器を出せていなかった。
『じゃっ、いっくよ~。チャージパンチ!!』
簡潔な技の名前を叫びながら、ガンさんの人形は隼人に向かって殴りかかりに行っていた。しかし、隼人はそこから動けず、SWを涙目になりながら操作していた。
「ちょっ、あれまともに喰らったら俺死ぬかもしれないんですけど!!」
その時に、シータさんの天然の様な声がこの場を支配した。
「そういえば、まだ教会に行ってなかったわね……。大丈夫かしら?」
私達には何でそんな事を言っているのかという意味を基本boxの中を見ていなかったために知らなかったが、鈴は一足先に見ていたらしく気付いていたらしい。
「!!おい隼人!!そっから逃げろ!!下手したら死ぬぞ!!」
しかし、その言葉は隼人を余計に混乱させるだけだった。
「えっ、ちょっまっ!!」
隼人は軽いバックステップで後ろに飛び、少しだけ人形の攻撃が来るのを遅らせた。そして、無我夢中にSWを操作して、スキルの名前を叫んでいた。
「『カウンタースラッシュ』!!」
その言葉を隼人が叫んでから人形と隼人がぶつかり合い、砂埃を混じった爆発が起きた。二人はどうなったのかは、すぐには分からなかった。
『やっぱりね。思った通りの職業だ。』
ガンさんの人形から声がした。それは、隼人の能力を確信した、自信に溢れた言葉だった。
しばらくして、砂埃が晴れると、隼人のほぼ無傷な姿が現れていた。
『まぁ、私がか~な~り手を抜いたぐらいの威力でやっとスキルが成功するってのは問題かなぁ。もうちょっとタイミングや筋力を付けときなよ。』
ガンさんの人形が無傷の状態で隼人に向かって言っていた。
「………………マジで死ぬかと思った…………。」
そう言う隼人の右手にはガンさんの人形のチャージ攻撃に耐えきった武器が握られていたが、それは剣ではなかった。
「これで本当にあの凄まじい攻撃を受け切れたなぁ……………。当事者の俺でも驚くわ…………。」
隼人の持っていた武器、普通なら耐えられそうに無い武器の姿……いや、本来ならば武器とも呼べそうに無かった。
隼人の持っていた武器は、何の変哲も無さそうなハリセンだったのだった。
「蠅たたきじゃあ無かっただけマシじゃないの?」
奈津のその言葉は隼人がさらに呆然とする手助けにしかならなかった。