聖者達part 職業決まった模擬戦だ-1
『いや~。すっかりうっかり~忘れてたよ~。二人とも転職させるのをすっかり忘れて戦ってたわけだったんだねぇ~。』
ガンさんがそう言うと、アーサーさんとベルさんはガンさんの人形から目を逸らしていた。
「いや、元々俺が頼まれたのにベルが突っかかって来たからつい………………」
「いえ、貴方が闘おうと言ったのでしょう?」
二人はまた睨み合い、火花を散らしていた。その眼力は凄まじく、近くに草や花があればすぐにでも燃えそうだった。
『…………お~い、奈津ちゃん。君は黒僧侶だよね?全力でこの二人をブン殴ってくれないかな?反省してなさそうだけど、彼の職業を変えないといけないからね。回復して貰いたいわけだよ。』
ガンさんの人形がそう言うと、奈津は、「喜んで!!」と言ってからSWを呼び出し、その中から錫杖を取り出していた。
「とりあえず転生ボーナスから出して見たけど………結構使いやすそうだねぇ。」
そう言ってから奈津は錫杖の杖の下の部分でアーサーさんとベルさんを容赦なく突いた。間違いなくクリーンヒットだが、二人の傷は無くなってゆく。これが、奈津の手に入れたスキルの一つ、『ブレイクヒール』なのだろう。
「あ、これの武器データってこんなんだったよ~。」
奈津がそう言ってSWを見せてくれた。それを覗くと、こんな風に書かれていた。
・聖哲の錫杖………◎4 聖なる鉄を使い作られたという錫杖。基本的には回復魔法の触媒となる事も多いが、武器としても利用できる。
それを見た後にガンさんの人形はやれやれというような仕草で呟いた。
『容赦なく二人の心臓近くを突いたのは驚いたけど無事回復したことだし、私の個人的な興味もあるから二人同時に転職の儀をやってみるのはどうだろう?』
「いやいやいや俺の職業が余計酷くなりそうなんですけど!!」
『少なくともドMの王様よりはマシじゃないかな?』
「それはそうたけどさぁ!!せめてもうちょっとマシにできるぐらいに………」
『まぁまぁ。多分大丈夫だよ。少なくとも剣士にはなれるから。』
「余計に不安に駆られるような事言わないでくださいよ!!」
とりあえず転職はするために嫌々ながら隼人は納得したらしい。しかし、かなり嫌そうな顔をしていた。
『そろそろ二人も回復しきる頃だろうしね。』
「いや、『ブレイクヒール』よりも地道に『ヒール』とかでも良かったんじゃあ………………………」
早瀬が言うとおり、アーサーさんとベルさんは疲れは取れているはずなのに顔は疲れがとれているようには見えなかった。
『速さを求めた結果だよ!!君達の話を聞く限り太がフィルアーマに着いていくという方法で探し人を探すということもありそうだしね。』
「………その結果がこれ。」
ガンさんの人探しという言葉を聞いて、シータさんは私達の事情に気が付いたのか、「なら、私からクエスタとしてフィルアーマまでの旅路を護衛するというクエスタをやるよう提案してみますね。」
『まぁ遠距離攻撃のできる人の方がいいから、多分そこの二人がやることになるだろうけどね。』
この中で遠距離攻撃系なのは、響と鈴だ。一応やろうと思えば私もやれる職業なのだが、二人に任せた方が良いだろう。
「………じゃあ、フィルアーマには私と鈴で行くとして、残りの二つはどうする?」
「じゃあイーステルムには私と流で行くからピェンルーカへは早瀬と隼人で行くように!!いいよね?」
まぁ、犯罪者予備軍のレズビアンである奈津と早瀬を一緒にするわけにはいかない。それに、隼人と二人きりになれば唐変木の隼人でも早瀬の気持ちに気づくだろう。
奈津はそう言ってからシータさんにまた別の質問をしていた。まぁ、この事については私達にとっても重要な話題だったからよく聞いておくことにした。
「遠く離れた人との連絡手段は個人個人で行えますか?」
唐突にそう聞いていたが、間違いはしていない。携帯電話が普及していないであろうこの世界ではどのように連絡を取るのか、そもそも取れるのかという疑問がぐるぐると回っていた。
正直、今アーサーさんとベルさんが喧嘩しながら隼人の転職の儀を行っているが、それの重要性よりもこの事の方が気になってしまう。少なくとも見つけたものの、集合できないという事があってしまうと、無駄骨が増えるからだ。
「まぁ、一応ありますね。手紙などを運ぶための魔具は。でも、それなりに高額ですね。」
「スキルに関しては?一応受け継ぎなどはできると思うのですけど……。」
「スキルは確かにありますけど使いにくいですよ。『テレパス』というスキルなんですけど、同じスキルを持つ人としかできません。それに、受ける側が『テレパス』を受けなければ会話できません。」
よくよく考えてみるとそれはただの電話と同じではないか?と感じた。しかし、どこで手に入れるかは分からないらしい。なので仕方なく魔具の方を検討しようと思う私達なのだった。そして、そう考えている内に隼人の転職の儀が終わっていた。
『さてさて、どんな感じの不思議な職業になったのかなぁ ?』
そう笑いながら言うガンさんの人形の前で、隼人はSWを取り出していた。そして、その中の情報を見て、一番最初に表示されたのは、残留スキルと呼ばれる物だった。
『スキル・痛覚劣化 が残留しました。』
『スキル・耐久値増加Lv8 が残留しました。』
『スキル・ただの屍ウィンドウが追加されました。』
なんとも無機質な音声が響いた後、別の音声が流れた。
『反射剣士に、転職しました。』
これが、隼人の職業の名前だった。