聖者達part 万屋とガンナーと魔導師の叫び-4
「この世界は、人間界と魔界が対立しあっている訳ではありません。神界と、人間界と魔界と妖精界などのまとまった世界、絶界の三つとなっていて、絶界にいる絶王ゼツノの力により、魔物が産まれているという現状です。それを理解しているのは魔人族と深く友好な関係を持つ国だけなのです。ハーフぐらいならば寛容になっている国も存在するにはするのですがね………。しかし、ゼツノも私達を滅ぼそうとはしていないのです。ただ、力が強すぎてそれを必死に抑えているんです。私達のやるべき事がゼツノの力の封印となっているのもそれが理由なんです。」
「それはつまり、私達のやるべき事はゼツノと呼ばれる絶王の力を封印し、途轍もない力を持った魔物を生み出させない事なんですね。」
確認を取ったのは生徒会副会長の大村 葉月だった。彼女はこの転生者達の代表としてシータさんに質問しているのだろう。彼女は成績と科学関連の論文を中学生で発表しそれなりの評価を得た経歴で特待生になったのだ。私達の一つ上の三年生に相応しく、大人びた雰囲気を漂わせている。シータさんと良い勝負だ。
「えぇ。しかし力の封印をしていたとしても、ならず者の自称魔王は出てきてしまいます。それを倒す者が勇者と呼ばれる者でした。しかし、勇者による平和を喜んだためか、私達の住む世界ではおかしな法が完成しました。それが、勇者権利と呼ばれる物なのです」
シータさんが話している事を聞いていると、疑問点がいくつも出てきた。ゲームの中の勇者は基本的に法なんて気にしていないように見える。特技で力任せに武器などの値段を法外に下げてしまったり、モンスターの独占的な乱獲に家への不法侵入と器物破損…………現実ならば許されることは無いのではないか?と思ってしまっていた。そんな勇者に守るべき法があるわけないと思った私は、別の視点で考えていた。勇者の守る法が無いのならば、勇者以外の守る法が勇者にとって都合の良いものになっているのだろう。
「勇者権利は名前こそは勇者の名がありますが、実際は勇者に与えられている権利のことを言います。その中には勇者の器物破損や家内での窃盗の黙認の徹底、店での法外な値下げの黙認、モンスター狩りの独占の黙認がありました。これにより、勇者による町の被害は大きくなりました。他にも国宝の持ち出しや無罪の魔人族の殺害も認められていましたから……。実際に、ユンクの父親は魔人族でしたが、別の国に遠征に行った際、勇者により殺害されています。」
ユンクさんというこの世界で初めて会った人の父親がまさか勇者に殺されているとは思わなかった。それに、国宝………恐らく武器だろうが、持ち出しというのも問題がありすぎる。
「それに反対したのが、我が国ジーブルフリーデなどの魔人と人間の立場は平等であり、共存すべきという考え方を持つノンジャラーン教の国、計80国の同盟です。この80国が話し合い、その結果、勇者に変わる新たな制度である、皆様が今なっている聖者という者達なのです。」
「聖者と勇者の目的は違うんですね………?」
「はい。聖者とは人々の声を聞くという、勇者の様に横暴な事ができない事になっています。人々の依頼をこなしていくという形になっています。それでも、無理矢理人の家の中には入れません。少なくとも、勇者のように人々を苦しめることはできない状態になっているのですよ。」
そうシータさんが話し終えると、副会長かわ深々と御辞儀をした。
「ご説明、ありがとうございました。しかし、私達はこれからどうすれば良いのでしょうか?」
もっともな質問である。私達には暗を探しに行きたいという気持ちもある。探すことをさせてくれなければ、私達は下手したら一生暗に会えなくなるかもしれないのだ。それだけは避けたいと思っていた。周りの人の中にも別の教室にいたであろう友人や兄弟姉妹を探しに行きたい人もいるはずだ。
「それについては、まずグループ分けをさせてもらっても良いですか?」
シータさんがそう言うと、副会長は頷いた。
「では、さっそくグループ分けを……と言いたいところですが、まずは質問を聞きましょう。そうしてからでないと動けない人もいるでしょうから。」
そうすると、今度は虹色の髪になってしまった男子が手を挙げた。それはもう、刹那と呼べるほどの速さだった。
「あの~。俺は転生前はこんな髪の色では無かったんですけど、なんでこうなっちゃったのかという理由って分かりますか?」
彼にとっては死活問題なのだろう。確かに聞いておいて損は無いかも知れない。私達も男に性転換しているのだ。それぐらいは聞いても損は無いはずだ。
「それは、転生時に起きた細かなバグによるエラーの影響なんです。あなた達の全てをそのままの状態で転生させるのにはかなり精密な転生の魔法が必要になります。しかし、大人数でやったせいか、綻びができてエラーが起きたわけですね。それは完全に偶然ですから私達が元に戻すこともできません。」
それを聞いて、私と鈴、響は同時に叫んでいた。
「「「じゃあ、もう元の体には戻れないのか!?」」」
その必死な叫びに、シータさんは申し訳なさそうに目を伏せただけだった。…………………せめて、何かしら私達が元の姿に戻れる希望があると、嘘を付いてくれても良かったのに………。
また叫ぼうとした私達を制止したのは、奈津だった。
「まぁまぁ、皆。これがバグだと言うのなら、別の考え方もできるんだけどね。ちょっと落ち着いて聞いてみてよ。」
そう言われて私達は奈津の話を聞いてみることにしたのだった。