聖者達part 万屋とガンナーと魔導師の叫び-1
流視点
………………………転生している途中、体に何か違和感を感じていた。後から聞いたところ、響と鈴にとっても同じだった。他にも何人かは体のどこかに何かしらの違和感をかんじていたらしい。そして、転生が終わり、中世の軍が使うような広い演習場に特待生達が全員立っていた。特待生クラスは一クラスしかないため、ここにいるのは三学年合わせて90人程だ。同じクラスの隼人、鈴、奈津を見つけた私は、私とは違う学年の響と早瀬を探していた。
「せめて転生前に教室に移動できていれば良かったよな……暗とは別の校舎だしな。それに暗がこっちの校舎に遊びに来ていないのも気になったけどな。暗なら二日に一回は来るはずなのにな。」
呑気に話すコイツは奈々村 隼人だ。自らを暗の親友と言っている。まぁ、確かに暗との仲は良いし、幼なじみ達では暗と隼人しか男がいないかったからな。しかし、コイツは鈍感でアホだ。スポーツはできるのが唯一の取り柄と言っても良いほどなのだ。隼人はその内Mに目覚めてしまいそうだと自分の性癖に不安を感じているようだが、それは関係ない。小中ではよく悪さをしては十字架にくくりつけられていたからな………。
「しかし、この演習場、かなり広いな………しかし、三年のクラスは多少慌てているような気もするが……。理由は恐らく、生徒会長がいないからだろう。」
落ち着いた声で周りを観察しているのは北鷹 鈴だ。鈴も私と同じで暗の事が好きらしい。鈴は射撃系のプロのためか、かなり目が良い。特待生になれた理由でも、射撃四種(弓道、ハンドガン、ライフル、アーチェリー)での世界一位だったからだ。まぁ、本人は未だに本気で狙っている物は射抜けていないと上手いことを言っているのだが、今は私と同じ悩みというか衝撃に困っていた。
「それにしても、委員長ちゃんも水泳部のエースのおにゃのこも髪の色が綺麗な金色や赤になっていて可愛い~。でもどうでもいい男の子でも髪の色は変わってるよねぇ。でもバスケ部のマネージャーちゃんがさらにロリ体型になっているには……グフフ。」
変態のような変人のような呟きをしているのは男ではなく、レズビアンな女である。彼女も私達の幼なじみで、日本人とフランス人のハーフであり、完全にフランス文化のフの字も知らないぐらいの日本育ちの彼女の名前は奈津・ハイガルフィートである。彼女は私と鈴と違い、ある事に関しての悩みが無いのだ。それが羨ましいのかどうでもいいのかは知らない。しかし、なぜこんな事になっているのだろうか?もし面白がったという理由だけならば、あの転生をしたやつを一発ぶん殴ろうとかんじてしまう。
響と早瀬は同じ校舎の中にいたはずだからこの場にいない、という事は考えにくい。しかし、私達は二人を捜した。
「うっわ、髪の色が青になってるし!!」
「おれなんかピンクだぞ………どっかのゲームの5ぐらいに出てくるマッチョと違って普通な中肉中背なんだけどな……」
「せっかく伸ばしてた身長がぁ~」
「俺、俺………まだ髪生えるんだ。親父には遺伝子からもう生えないとか言われてたのに!!」
「てゆーか生徒会長いなくね?」
「会長ならプリント届けに職員室行ってたよ。」
「なんかツイッ○ーで誰かがどっかの教室で流血沙汰があったとか書き込んでたな。」
「髪の色元に戻してぇ…………なんで虹色なんだよ……」
探している最中にこんな会話が聞こえた。不幸な少年の虹色の髪を見ていると、自分達の今の状態は本当に遊びでやられてんじゃないか?と疑問を持ってしまった。
「おっ、早瀬発見~。」
そう言って奈津が早瀬に向かって走り、早瀬に抱きついた。それから早瀬を抱きしめたまま何回かクルクルと回った。
「な、奈津ねぇ!いきなり抱きしめないでよ!!」
「ハッハッハ~。いやぁ~、早瀬の姿を見たらついつい抱きしめたくなってさ~。」
「はは、早瀬と奈津は仲がいいなぁ。こりゃ男達は入っていけないなぁ。」
「……………………隼人も私に抱きついても……私は、文句言わないのに………」
隼人の方を見つめ、早瀬は顔を赤くした。早瀬は、隼人の事が好きなのだから。
早瀬は私の家の護衛達もよく通っていたという隠れた名門と呼ばれる水城道場の一人娘だ。私達幼なじみも、その道場で軽い護身術は教わった。早瀬はその道場の中でも実力者であり、数々の格闘技の大会でベスト8になっている。まぁ、ほとんど負けたことがない。ベスト8になった頃に、隼人の試合だとかがあるという理由で棄権するため、彼女と対戦できていなくて優勝している一部はかなりくやしがっていると思うのだけど。
「ところで、奈津ねぇと隼人の後ろにいる二人は誰?」
「そういえば、さっきから早瀬の隣にいる子は誰なんだい?」
確かに、抱きつかれている早瀬の隣には見慣れない奴がいた。しかし、早瀬の隣にいるのは、間違いなく、私と鈴と同じようなことになっているんだろうと、私は声をかけた。
「もしかして、響か………?」
「…………そうだよ。二人も私と同じ事に?」
静かに答えたのは、湯空 響だった。
響は、転生する前はベストセラーを何回も出している小説家だった。ペンネームは小川 付良で、基本的に推理小説を出していた。代表作の『快楽少女の妄想推理』は贔屓目を無くしても面白かった。そんな響も暗の事が好きな、ライバルでもあった。
だが、私達三人は同時に叫んでいた。転生させられてから30分、暗とまだ中学生だったために転生していないのだろう真琴以外のメンバーが揃ったと同時に叫んでいた。
「「「なんで私達は男の体になっているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
この声は、演習場から見える青い空の向こうへと消えていった。しかし、そんな事は気にしていない。
転生が終わると同時に、私と鈴、響の三人の体が女から男に変わっていた事に驚くしか方法が無かったのだった。