聖者達のプロローグ
まさか、自分の通う高校が集団転生の対称になるとは思いもしなかった。私はこれまでの事を走馬灯のように思い返した
。そして、隣にいて欲しかった人がその場にいない事がこれほど悲しいとは思わなかった。また会えるだろうけど、私と彼は離ればなれになるのは当然のこととなった。とりあえず、転生前の私の事を思い返せるだけ思い出してみようと思う。そうしながら、彼の事を……………夜桜 暗の事を、大事な幼なじみの一人であり、私の想い人の事を書きたいのだった。
私の名前は亜希村 流という。父親は財団というか、そんな家の総帥だった。しかし父は総帥というのに相応しくリーダーシップやらの統率力は強かったが、大きな力を持つものにありがちな、なんでも金や権力で解決するという事をしない人だった。実際母も父の家の事など知らずに、父に惹かれていったらしいのだけど。父も母と同じように母の魅力に惹かれていたのだから、おあいこだったのだろうけど。確か、暗の両親に救われたのもこの頃らしい。父と母があらぬ疑いをかけられ、法外な金額を提示された時に、暗の両親は相手の疑いなどもすべてはねのけ、むしろ相手に謝罪と慰謝料を払わせたという。当時本当に絶望していた両親は暗の両親と親しくなったらしい。それから、他の幼なじみ達との両親とも親しくなるのだけど。それは別の話となるだろう。
私と暗が出会ったのは幼稚園の頃だ。その時の私は暗の事を姉弟という形で彼に接していた。まぁ、あの時は子供だったからなぁ…………。私は当時から暗に対して何か姉弟愛とは違う感情も感じていた。しかし、子供だった私にはまだその感情の名前も意味も分からなかった。
転機が訪れたのは、小学二年生の時だった。私はあの時にはまだ何も警戒していなかった。警戒心が足りなかった。だから、こんな事になった。まぁ、結果的には気付くきっかけになったために良かったと思うべきなのかと困惑してしまう事件が起きた。
私は下校時に誘拐されかけた。どうせ、私の家が財団だったからだろう。しかし、私が誘拐されかけたときに、暗は私より年下のだった、私よりも恐怖心があったにも関わらず、間一髪で私を誘拐しかけた男に突進し、当たり所が良かったのか男は躓き、その間に私は逃げることができたのだ。暗はその後、何度か男達に蹴られたりしたらしい。私はあの後、暗に申し訳ないと思った。自分は助けられる立場だったのだ。ずっと暗を守る立場であると思っていた自分が情けない。暗は私を庇って暴力を受けたのだ。
自分が情けなくなってまい、私はしばらく暗から逃げるように暗に会うことを避ける時期が続いた。誘拐された時に助けて貰った事へのお礼すら言えていなかった事を感じていた父は、私を半ば強引に暗の所まで連れて行き、暗と正面から向かい合って話せと言われたのだ。私は、暗から言われるであろう怒りの言葉を想像していた。
しかし、暗は私の想像とは全く違う言葉を言ったのだ。
「流が誘拐されなくてよかった。流と離ればなれにならなくて良かった。だから、こんな怪我は流と別れないならへっちゃらだから。」
その言葉から、私は暗の見方が変わっていったと思う。弟から想い人へと。だけど、その事には当時の私は気付いていなかった。
その事を理解したのは、早瀬と奈津以外の三人が暗にバレンタインでハートの本命チョコをあげていてそれにイライラしたりしていた私が中学一年、暗が小学六年生の頃だったと思う。私は勉強とスポーツはできたのだが、料理が壊滅的にできなかった。裁縫はそこまで壊滅的では無かったため、使用人に頼み込んで教えて貰いながらマフラーを編んでいた。結局暗から貰ったバレンタインのチョコのお返しと同じになってしまった。ホワイトデーとは想いを伝えるのは難しいと思ってしまう。基本的に返す日であり、暗のようにチョコを渡してくる男子で無い限り女子は何も渡せないのだ。バレンタインに間に合わなかったとしても。それでも私は暗に想いを少しずつ伝えていた。しかし暗は私達を幼なじみとしてしか見ていないのか鈍感な反応しか見せてくれなかったのだった。
暗の両親が亡くなったのは暗が中学一年生になったばかりのことだった。父は、暗に「私の息子にならないか?」と暗の事を引き取ろうとしていた。暗の両親に助けられた恩返しと暗には言っていた。私の家は暗を受け入れても暗が迷惑をかけているという風にはならない。しかし、暗はその話を断った。本当に駄目になった時、本当に援助が必要なったときだけ頼ると言ったのだ。それを聞いて父は暗の決意に納得したらしい。暗の住むところの保証人になったのだった。
あの時父の言葉には二つの意味を含めていたらしい。私の息子と言っても、養子と婿養子があると、そう言った。私と暗が納得するのならば暗と私を婚約させる、私が暗の事を拒否すれば、暗は養子にすると言うことだったらしい。私は暗と結婚という夢ができてしまったのもこの時だった。
私達は高校を決めるようになったとき、私達はそれなりに有名になっていた。私は名家の娘であり、華道や茶道などの芸術もありながら武芸も達者であると。隼人や奈津、鈴も、それぞれ部活に入っていて、それぞれの種目で全国一桁に入る実力を見せ、四人とも全国的に名門と呼ばれる高校に特待生として入学した。翌年、響は部活とは別の部門で、早瀬は部活で有名になり、特待生として入学していた。
暗だけは特待生では無かった。暗自身は才能が無いというのが暗自身の言い訳だった。しかし、私達の才能を見いだしたのは暗だった。応援してくれたのも、暗だった。暗にはまず、人をサポートする才能があった。さらに、暗にも才能はあった。本人がかなり謙遜しているのと、中学時代に部活に入っていなかったために、注目されなかっただけだと思う。コンクールに出ていれば、間違いなく全国で大きな結果を残せていただろう。
暗の持っているもう一つの才能は料理だ。その実力は、私の家の料理長よりも上手いという程だ。この腕は父も認めている。しかし、本人はかなり謙遜していて、中学時代に部活はしていなかった。ずっとバイトをし続けていた。それでも、暗は成績で特待生に後一歩の所でなれず、普通の生徒として入学していた。私はそれまでに何回も告白されていたが、全て断っていた。金目当ての男も何人かいた。家柄のために話しかけてくる奴も大勢いた。私はそれを全て拒絶した。
そして、高校の中で暗に何回か会った後、大会社の息子という男に告白というか勧誘されたが、刹那と呼べる速さで断った。それから何か変なことが多くなった。特待校舎から普通校舎に行くことを禁止された。休みの日にもどこかへ合宿になることが多くなった。だが、私達はまだ一学期の半分も過ぎていないのだからと、気にしていなかった。告白してきたやつからもなんの報復も起きていなかった。
そんなある日、私達はなぜか転生させられることになる。そしてそれは私達と暗の一時的な別れも案じていた。しかし、転生後の私達の変化はとんでもないほど驚く物だった。それは言える。…………………まぁ、暗への想いは変わらなかったのだけど。