闇の巫女part その後のイーステルム-2
新作の投稿などでかなり遅れてしまいました。申し訳ありません。
「まず、一つ聞こう。そなたは自らが王になろうとは思わなかったのか?」
「思いませんよ。なんせ私はアンケート・アサシン………殺し屋ですから。むしろ、あなたこそ私を殺さなくても良いのですか?父親や兄、姉の敵でしょう?」
やや挑発的な声を出すアリエルの言葉に、私は首を振った。私にとっての家族とは、殺された者達の顔が一切入っていない。血の繋がりすらも認めたくない。
「愚問だな………。私にとって敵となるのはそなたでは無い。そこに転がっておる糞親父殿だ。私が最も尊敬する姉上………第一王女、カルティナートを殺した者だからな。」
「……………それはそれは。聞かない方がよろしかったでしょうか?」
そう言いながら、アリエルは私を見る。そして、一礼しながらこう言うのだ。しかし、私にはその欲求は受け入れられない。しかし、私が違う答えを既に持っている事を知っているのか、微笑みながら私を見ていた。
「では、早速王になってもらいましょうか。カツァン・イーステルム………………イーステルム第五王子殿」
「すまないが、私が王になることは無い。私は第五王子であることも、王の子であった事も全て捨てる。」
そうだ……………私が死んだ後に糞親父殿の様な王が産まれないとは限らない。それなら、最初から王という存在を捨てた方が、この国にとっても良いことだと思う。
「私は、最後の王族としての詫びとしての行動をした後、イーステルム王国を廃国し、新たな公国を作る…………そのため、次期国王にはならないさ。」
すると、アリエルは笑っていた。私が言うことを否定しないようだ。むしろ、私の事を認めているとも言える。
「では、私は最初に………この国の土地をラングムートの時と同じような、豊かな土壌を再生させるための王族魔法を使うとしよう。」
「やはり、ご存じでしたか………。王族を罰するためだけの魔法だけではなく、国を豊かにするために使われる魔法もあることも。」
アリエルの言葉を聞きながら、私はそのまま王冠の宝石から半ば無理矢理王族の本を取りだした。そして、王族魔法の本の最後のあたりのページにある、『豊穣』を開く。
「私は、糞親父殿や兄上、姉上から民を守ろうとしたが、その半数以上を死なせてしまったのだ。私の寿命を減らそうとも、罪滅ぼしのために、私が土地を元に戻さねばならぬ。」
そう言いながら、私は本に力を込め続けた。一昔前…………いや、ラングムートが治めていた、勇者という存在の無かった時代には、元々の土壌の悪さを何年にもかかる作業により、豊かにしたという。
これは、イーステルムと名乗る王族と、受け入れられた勇者により破壊された罪を、イーステルムに残った中で、誰もが背負わなかった罪を、私一人で背負うための儀式だ。
私は、そのまま処刑の魔法のページを破り捨てる。グレルアラングムートは、私よりも本の事について知っていた。この王族魔法の本は、ページの多さによりそれぞれの魔法の効力を下げる。
そして、王に必要なページは破り捨てることができず、逆に王に必要ないページはいとも簡単に破り捨てられ、彼方へと消えてゆく。そして、『豊穣』のページのみが光り続けていた。いや、むしろ光の強さが増している。
『豊穣』が本当に効いているのかは分からないが、私はこれに魔力をただそそぎ込む。…………………すると、姉上を殺した処刑魔法のページが宙に舞い、呆気なく散っていった。
「あぁ、あそこまで恐ろしかった魔法が……………あれほどあっさりと散っていくとはな……………。」
「そんな物ですよ。世の中を苦しめた物は、後の世にあっさりと消えていく……………それが現実ですよ。」
アリエルの声が聞こえるが、魔力を込めるのは中断しない。とうとう『豊穣』のページ以外が無くなり、ただの紙切れとなった物に、私は魔力をそそぎ込んでいく。そして、私の全魔力を注ぎこまれた紙切れは、光の粒子となって消えていった。
「どうやら、王という存在が無くなれば、王族魔法の何もかもがいらなくなるわけですね…………」
アリエルが言う言葉を私は肯定しつつも否定する。それは、私は王にならないこと、そして二度とこの国が『豊穣』の魔法を使わずとも豊かになるという事の証明なのだ。
そう思う間に、私は糞親父殿の死体を見る。私の先祖が悪道極まりない方法で縋りついた王位に、最後までしがみついていた様子も見れる。王の象徴である玉座も、今では赤く汚れた汚い椅子だ。
ラングムート時代の玉座では無く、正真正銘イーステルムとなって後の王族が使っていたものだと証明できる。鍵は紋章を変えるだけだったが、この玉座は初代イーステルムの王が最大限の金を使って作らせた物で、薄汚れた王族が座るには眩しすぎた。
それを眺めていると、後方からニーデルヘンス郷とフエレルス郷の二人が、走ってきた。視線は一瞬だけ糞親父殿に向けられた後、二人は後ろを向気ながら無いていた。
「やはり、王は殺されていましたか。いやはや、この歳になると耳が遠くてのぉ。」
「しかし、第五王子………いや、カツァン殿が生きておられただけで、儂等は幸せですからなぁ……………しかし、あの様な尊い犠牲だけは、無くさねばならなかった。」
「第一王女…………カルティナート様の事だけは、この老人、悔やんでも、悔やみ切れませぬ………」
そして、涙を手で拭った後に二人は、話し始める。
「だが、カルティナート様は儂等にこんな遺言を残していたのだ…………。カツァン殿が王国の主でなく、公国の設立者となる前に、城の中にある男をお招きせよと。」
「そして、その者は今ここにやってきております。恐らく、第五王子も知っている者かと……………」
そして、王の間に入って来たのは、やはり私の知る人物…………街の方の人間だった。
「名をグレルアラングムート……………カルティナート様が全てを託した、ラングムートの血を受け継いできた者です。」
王の間に入ってきたグレルアラングムートは、とても清々しい顔をしていた様に見えたが、すぐにいつもの顔に戻っていた。そして、私の方を見てこう言ったのだ。
「カツァン、ようやく俺達の願いは叶った。悔しいが、カルティナートの予想したとおりにお前は公国にする事を成功させた………よくやった。これでこの国も、良い国になるだろう。」
しかし、なぜかグレルアラングムートの顔は暗い。どうしたのだろうか?
「…………いや、多分問題ないとは思うんだが、俺は賭をしていてな?それで俺が負けたというか、何というか………まぁ、気にするな。俺も喜んでるからよ。」
「いや、グレルアラングムート…………お前、何か私に隠してないか?」
………………グレルアラングムートとこの様に他愛も無く話せるのは何年振りかと思いながら、私はそっと微笑んだのだった。