闇の巫女part イーステルムの勇者達-2
まず、三人に共通しているスキル、『日々の鍛錬』だが、真面目にやっていたらこのスキルは途轍もないほど怖い。十日程で千倍は軽く越えてしまう。
もっとも、真面目に鍛錬していれば、だが。確か勇ノ宮達は部活に入っていなかったと思う。多分個人でジョギングしたりだとかという週間も無かったのだろう。いや、あったとしても豪遊している間に止めているかもしれない。
そうでなければ全てのステータスが-8倍にはなっていないだろう。いや、食べたり飲んだりしているから食欲だけはマイナスでは無くプラスになっているので、そこだけは良いものなのか?と思うとそうでもない。
むしろ、このイーステルムという国にとって一番問題となっているのは食料事情だろう。それを一気に引き上げているのが、『日々の鍛錬』から来る三人の暴食だろう。つまり、良いことでは無いのである。
普通に考えれば人の二倍、四倍、八倍物を食べる人間が三人もいれば、ただでさえ食料を貴族や王族に取られていた者にとっては大打撃になるだろう。
しかし、コメントするところはそれだけではない。三人とも体型が変化しないというスキルを持っているのだ。つまり、どれだけ食べたとしても、食べす来ている事やらを自覚しないのだ。
それに、一度も城下町を出ていないため、ステータスが減少している事も分からないままずっとこの国に居続けると思う。恐らく、スキル『不老』がある。生活習慣病となって死んだ勇者と名の付くまで、貪り続けるはずだ。
…………まぁ、それよりも酷いスキルがいくつもあるのだけどね…………。『情けは人のためならず』というスキル………-2200倍っておかしいだろうと思う。
どれだけの事をすればあそこまで下がるのだろう?と思っていると、勇ノ宮達は酒場にいる人間を殴るわ蹴るわ、皿ほ割るわ…………正直言ってチンピラ以下の悪ガキの様な事ばかりしていた。
後、このスキルはやればやるほど上がりやすくなるという傾向もあるらしく、今のようになっているのだろう。日々の鍛錬と合わせれば-17600程になっているはずなのだけど………。
そう思いながら、『善行の祝福』の方も見てみる。一見被害は低そうだが、もし善行を多くしていたらかなり強力な防御スキルになるはずなのだ。簡単にいえば、傷口が一瞬で元に戻るという現象だ。
人の回復力というのは一部の動物には劣るものの、かなりの生命力を持っていると思う。それに異常な回復力が加われば、殆どの魔物に殺されない力が手に入った筈なのだ。
『聖なる女神の光』も逆にダメージを受けるスキルとなっている。何個か小数点以下の0があるため150程のダメージとなっているが、それでも酷い。小数点が無かったら発動しただけで死ぬのではないだろうか?
そして『善意の力』により、勇ノ宮達三人は相手からクリィテイカルヒット以外の攻撃を受け入れられなくなった。つまり、毎回二倍以上のダメージをくらうだろう。
ステータスがかなり減少しているため、赤子にも負けるんじゃ無いかとも思えるほどのステータスの低さとなっていた。いくら縛り好き、マゾプレイ好き、難易度超級プレイ好きのゲーマーでもここまでのハンデは欲しくないと思う……なんせ追加で一部NPCを除いて好感度最悪なのだから。
……………それすら無自覚に無くしている勇ノ宮達だったが、こいつ等の持つ武器はそれの比では無かった。『善光の盾』は一回だけ防ぐだけでも16年………その期間内瞑想し続けるなんて耐えられない以前に間に合わないだろう。連続攻撃ですぐに耐えきれなくなるはずだ。
そして、『善光の双剣』だがこれは笑うしかないだろう。気分次第で流れる電流を変えられれば即死である。気分次第で、だ。十万ボルトだったとしても、かなり低いアンペアなら死ぬことはないだろうが、高いアンペアを流されれば即死だ。
まぁ、他の二人も似たような武器構成だと思う。善竜は産まれたらすぐに死んでしまう。なんせ産まれるまでに百年以上かかるくせに一時間で寿命が来てしまう。SWを見ていないだろうから気付く前に終わりそうだ。
まともな武器かと思ったらスキル、『日々の鍛錬』のせいでリスクの多くなってしまった『オークファンガード』。鍛錬をこなせばそれなりの武器として使えそうなのだけどなぁ……。なんせダメージが二倍になるんだ。使わない訳ないだろう。
それに、ドーピングアイテムのはずの『魔力の実(善)』も1すらあげないし、『善心の杖』で魔力最大値がダダ下がりである。残りの二つはまともだけれど、戦闘には役に立たないという鬼畜振りだ。
そう考えながら勇ノ宮達の方を見ると、そろそろ出る頃だった。そして、そのまま金を支払わずに酒場から出て行く。その間に子供連れの女性やら大工の見習いらしき人間が座っているテーブルにわざとぶつかって料理の乗った皿を落としていた。
「あぁ~っ、食った食った~。勇者マジ便利だわ~。あのうざったらしい奴も消せたし、食い放題飲み放題!!しかも金はいらねぇってなぁ!!」
勇ノ宮はそう言って笑いながら出て行った。それを見て俺は、白金貨を一枚酒場の主に、銀貨を三枚ずつ客に配りながら、あの勇者が死んでもいいかを聞いて回った。
そして、予想通りの答えの嵐で、酒場は盛り上がっていた。もはやドンチャン騒ぎでも起こさないとやっていけないような気が彼彼女らの中で爆発していた。
「なんであんな奴に俺には飯を食う資格がねぇって言われなきゃならないんだ?あいつらこそ人間じゃねぇよ!!」
「私はこの酒場を貧困に負けない明るい酒場にするために建てたんだ!!あんな奴等の溜まり場になってたまるかよ!!」
「金さえ支払わねぇ奴には天罰が必要だろ!!なぁ!!」
思い思いの言葉が飛び交う中、俺は確かに、この国の民の願いを聞いた。俺は、勇ノ宮達を晒し首にするために酒場の外に出る。そして、噴水のある広場にたどり着き、そこで勇ノ宮達に追いついたのである。
………じゃあ、そろそろ殺してしまおうか。俺は勇ノ宮達がこすかに聞こえるように決めゼリフのような言葉を言うのであった。……………決めゼリフの参考にした時代劇作品は、マイナーなのだろうか?とも思いつつも言葉を発するのであった。




