闇の巫女part イーステルムの意見箱-6
口を閉じたマルタは、達磨になっていた体全てが膨らむのを感じたのだろう。目玉のない場所から涙を流そうとしていた。しかし、目玉が存在しないためか、流れる涙は透明では無く、血涙の様に赤いのだった。
『祈祷魔法』での裁きの時間には、許しを請うか、はたまた裁きを与える者を罵倒するかという時間なのだ。つまり、辞世の句を読むような時間なのだ。
口を閉じるということは、全て言い切った後………ようするに、悔いを残さなかったということなるのも同然だ。つまり、マルタが最初から口を閉じていれば達磨になってから全てを一遍に破裂するという事ではなく、脳や腹、耳やらを破裂させ、もはや魂が入っているだけの物になるまでの苦痛だけで穏やかに死ねたはずだが、マルタはそれを望まなかったのか、やはり答えを間違えたのか………。
マルタの体が運動会で使われているような大玉転がしの玉程の大きさにまで膨らんでいく。その姿は本当にただの玉に見えた。首から上の方は調節されているのか、均等な球体だった。しかし、人の筋肉やら血管やらが色濃くはっきりと浮き出ているのを見ると、どれだけ風船に近くなっているのかと思ってしまう。
いや、風船はここまで完璧な球体じゃない。どちらかと言えばビーチバレー用のボールの方がしっくり来るかもしれない。まぁ、あまり関係ない事なのだけどね……。
さて、そろそろマルタの命を散らしてしまおう。正直に言ってこれ以上時間をかけている暇は無い。俺は仕上げとなる言葉を言うのだった。
「むー。」(神よ、罪持ちし者への裁きは終結した。彼の命に終焉を。)
そんな一言で、マルタだった球体は完全に破裂した。それはもう、少し離れた俺のいる場所にまで血の雨を降らせるような勢いで、だ。事実、俺は降ってきた血の雨で着ていた巫女服が血で汚れてしまったのだ。
「むー。」(まぁどうせ着替えるんだから問題ないか………。)
俺は着ていた巫女服をSWに仕舞い、黒猫パーカーに変えた。顔を隠すのには丁度良いし、レア度もそれなりに高いため性能もバッチリなのだ。欠点としてはなぜかネコミミ付きのフード以外にスカートに付いているシッポだ。そこそこ長いために歩いているときに踏みそうになる。
まぁ、着替える前に血の付いた手や髪を洗浄石の欠片で綺麗にしておくのも忘れない。このアイテムはかなり万能だなぁ………と思いながら、俺は忘れないように三枚の紙を取り出した。
この紙はキラクに貰ったお役立ちアイテムの一つで、血を紙に吸わせておくことで式神を作成できるらしい。キラクから愚なる王とかを殺した後の後始末とかに使っておけというアドバイスがあり、それに則って血を吸わせておく事にしたのである。
だって愚なる王を殺した後に新しい王になってくれって言われても困るだけだしなぁ…………。責任を取ってこの国に奉仕とけも有り得る。そんな事はしていられないのでなるべく作っておく。しかし、どのような式神ができるかはまだ分かっていない。
式神については不明な点が多いけれども、実験は大成功だった。なんせマルタ婦人の様に自分の手に感触が残るように殺しても、グラッヘの様に一瞬の間に殺しても、先ほどのマルタの様な怪死体にしたとしても、吐き気も何もない。
そして、一番心配していた快楽や中毒性もなく、ただ冷静に後始末に関しての行動が取れている。俺はなんとかシリアルキラーにならないよう踏みとどまれたらしい。そう思いながら、グラッヘの体を『火炎魔法』で燃やす。
そして最後にマルタ婦人の臓器をエンチャントに変えて起き、証拠隠滅は完了した。しかしこれからどこに行こうか………と思っていると、馬車の馬の鞍に一冊のノートが挟まっていた。
中身を覗くと、それはどうやら『顧客リスト』らしかった。中を覗いてみると、分かりやすいように貴族の名前が書いてある。それも、お得意様などのメモもあるために俺はある一つの項目に目を付けた。
そのページには貴族よりはぼったくりな値段と、偽装などの例が多く書かれており、マルタ夫妻にとってかなり嫌な受取人だったらしい。
マルタ夫妻のメモ曰く、この住所の人間はマルタ夫妻が悪人であると最初から気付いていおり、適性値段での取引を持ち掛けられたらしい。しかしマルタ夫妻はそれを拒否して一応持っては行くが、食材は廃棄用の屑野菜か腐っている物で酒は偽物ばかりにしているという情報が多い。
とりあえずこの馬車を連れて行ってもあまり怪しまれないとして、俺はこの住所に向かうのだった。…………運が良ければ今もこの馬車でレズっている二人も押し付けられるかもしれないという淡い期待も込めて、俺は馬車を走らせることにした。
とりあえず馬車の馬に目的地はここという指示をしてみると、快くヒヒンと鳴いていた本来なら馬車の馬にはバンダナを巻いておく筈なのだろうけどもこの馬には付いていなかったので、もしかしたら無理矢理働かせていたのかもしれない。
とゆーかこの馬車の長さからして二匹で動かすとかそうとう無理させていそうだし、住所から見てこの門から貴族の一番近い場所でも、俺の行かせようとした場所よりも30倍は距離あるし。
そして、到着したのは『プレキュルスール』という看板の付いたバーだった。とはいえ、住居も兼ねているのだろうかは外からでは分からないのだが、五階建てとかなりデカかった。しかし、貴族らしさは無く、そこには下町にあるような親近感があるのだった。
俺は馬車を馬車を入れるための場所に移動させておき、バーの入り口に戻ってからドアを開けた。馬車の方はかなりギリギリだが全て入った。もしかしたら一部の荷台は貴族の家に置いていくために外すという仕組みなのかもしれない。
カランカランとベルの音がするドアを開けて、俺は店主らしき人間と対面した。また昼を過ぎた頃のためか、客はおらずに店主一人だけだった。一応バーカウンターの客席側の後ろにも広い空間はあるが、テーブルなどは一切無い。
そして、バーカウンターの店側にはかなり多い種類の酒瓶が並べられている。そして、店主の男性は俺を見てこう言うのだ。
「こんな湿気た店に真っ昼間から餓鬼が何の用だ?」