闇の巫女part イーステルムの意見箱-5
マルタは自分の破裂した親指を見て、俺を恐ろしいものを見る目をしていた。それも無理もないのだろう。なぜなら、マルタの人差し指も、中指も、薬指も、小指ですら膨らみ始めている。
「…………………」
しかし、マルタの体に空気が入るペースが上がり、とうとうマルタは言葉を喋る事が出来なくなってしまっていた。しかし、『祈祷魔法』の効果はマルタの言葉だけを奪うための物という訳では無い。
放っておくとすぐにマルタの右手の指は破裂していく。細かく飛び散った指の骨はマルタの髪のフケの様に付着していき、血と肉はマルタの顔を赤く汚していく。
マルタは必死に俺から逃げようと馬車を置いて走るが、今度はマルタの左足が膨らみ、またもや破裂する。ただ、それでも痛みに耐えて這ってでも逃げようとする姿勢はなかなかだ。先に殺した二人よりは良い方向で死ねると思う。
…………まぁ、逃げ方を間違えなければの話なのだけどね。今回の『祈祷魔法』には二種類の終結が存在するのだが、間違えた場合、ホラー映画の残酷さも軽く見える様な終結となる。とはいえ、この祈祷魔法の正答率は僅か0.2%だったらしいのだけど。
しかしこの『祈祷魔法』も考えられて作られていると思うのだ。実際に見てみると、先程破裂したマルタの左足は骨と一部ダルンダルンと溶けたような皮膚をぶらさげている。しかし痛覚は残っているのか、マルタの何か叫んでいるような顔は変わることが無い。
右手の指は全て一発で破裂したが、左足にはこの裁きからは逃げられないという事を理解させるための行為だ。しかし複雑骨折の様に骨に空気が当たる感触がマルタにとって苦痛になっているだろう。
だがそんな事はお構いなく、今度はマルタの左手が甲も含めた状態で膨らんでいく。自分ではパーにしているはずの左手の形がグーになっていくのだ。とても恐ろしくて、マルタは声も出さずに泣きじゃくっていた。
その様子がなんとも可笑しくて、俺は笑ってしまった。なんで許しを請いてるの?なんで許しを請いる事ができるの?俺が奴隷にされる前に同じ事をしてもお前は笑うはずだよね?そんな単純な疑問をふっかけようにもマルタはもう喋ることができないのだ。聞くだけ無駄なのだろうと思う。
あぁ、マルタの左手も破裂した。まるでホースのシャワーの口から出てくる水のようなアーチを作りながら砕けた骨と赤黒い血がマルタの顔に降り注いだ。
それからマルタはまるで走馬燈を見ているかのように表情を次々と変えていた。次はどこが破裂する?いつ首や心臓が破裂する?とマルタ婦人やグラッヘの様になるのを恐れているのだろう。右足が膨らんできている事にも気付いていないらしい。
そういえば勇ノ宮達は晒し首にするとか言いながら、マルタ夫妻とグラッヘの三人の内、既に二人を首が無くなるように殺していることに気が付いた。だってマルタ婦人は握りつぶしていったら内臓しか残らなかった。グラッヘに関しては首だけを小間切れにして殺している。
俺ってもしかして晒し首にするの苦手なのか?と思ってしまうのも無理は無い。やり方は変えないといけないよなぁ………だって晒し首にする様に斬っていなかったし。グラッヘを斬った時は完全に微塵切りになっていてもおけしくない斬り方だったのだから。
にしても、この殺し方にはギャラリーがいないと出来ないなぁ………と感じる。グラッヘを咄嗟の行動で殺すべきじゃ無かったのかもしれない。そうすればもう少し面白い所を見れたのになぁ………まぁ、首が残らなければ残らないで問題ないか。グラッヘは別としてマルタ夫婦は一応善人のイメージでイーステルムの住人は固めているからなぁ……。
そうこう考えている内にマルタの右足も破裂していた。今度は完全に破裂しており、骨は白い粉となって血の海になっているマルタの右足のあった部分に降り注ぎ、赤に染まった。
ここまでの血が流れ、破裂音という大きな音がしているのにも関わらず全く人が来ないのは、多分マルタ夫婦しかこの商人専用の様な馬車が通らないのだろう。後、馬車の中の二人は音も悲鳴も聞こえなかったのか、またレズり始めているような気がする。正直に言うと確認しに行きたくないのだ。
まぁそんなこんなでマルタの右手の甲も破裂するために膨らみはじめている。俺はそれを見て、次はどこが破裂するのだろう?と思いながら観察するのだ。しかし、右手の甲が破裂してからがおかしかった。
マルタの両肩までが破裂して、マルタの服が血で赤く染まった後に膨らんだ物は、男としての尊厳でもありながらもそれはとても下品な場所だった。本来ならあそこまで膨張する人間はいないし、俺にも付いていた物だが、それはたいそうグロテスクであり、気持ち悪かった。
しかし一番面倒だったのは、先ほど膨らんだ所からは血以外にも飛び散る物があったからだ。黄色い液や白い液などが赤い血と供に飛び散る様子を見て、俺は少しだけ吐きそうになった。汚らわしい、本当に汚らわしいかったのだ。
磯臭い様な、アンモニア臭いような臭いから逃げるように俺はマルタから離れた。自分の身に白や黄色の液はかかっていないために服とかは変えなくても良いのだが、変な臭いだけは耐えられなかった。男の時の俺ではあまり考えなかった事なのだけどね。
さて、次のマルタの膨らむ場所は、二つの目玉だった。これまた充血したかのようにマルタの目が赤くなり、血管が浮き出ていた。しかも、眼球は段々と大きさを増していって遂には赤一色になった眼球は破裂して、マルタの目のあった場所は暗い闇のような程の影で覆われただけの物となった。
それからマルタは、ようやく気が付いたのか……それとも俺に罵声を浴びせようと必死だったのかは分からないが、マルタは空気を吸い込む事を防ぐために、口を閉じた。
「むー。」(あーあ、口を閉じちゃった。)
まぁ、99.8%の人が間違えているんだ。マルタが選択の間違いをしても仕方ないだろう。そう思いながら俺はマルタの最期を見届けることにしたのだった。