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闇の巫女part  イーステルムの意見箱-4

マルタという男は、本来なら産まれてはいけない事情がある中で産まれた男だった。王の妾以下………娼婦としての遊び相手の間に産まれた男だったのだ。


だが、そんな事情を彼は悲観的に考えなかった。むしろ、王に取り繕う最後の切り札として受け入れていたのだ。限界まで飢えていったら王に匿ってもらえばいいと、そう思うような男だった。


だからこそ、この様な状態でも余裕を持っている。自分は助かるなんて浅はかな考えで動いている。でも残念な事、俺は王側の人間では無いし、イーステルムの住人では無い。


ただの旅人を奴隷にしようとして、王の元に連れて行き王に自分は王の息子だと言って無罪放免になり俺を殺そうとする考えではもうコイツは生きていけない。


「な、なぁ………謝っただろ!!も、もう許してくれよぉ……。俺はこんな所で死にたくないんだ。頼むよ………。」

「むー」(神よ、この者は我が罪を消してしまおうと考えております。)


謝ったって…………マルタ、お前は確かに自分がやるべき選択肢を誤った。……………少々笑みが出るくらいには上手いのかな?と思いながら、俺はマルタに『生』を与える事にした。そう、選択次第で回避できたはずの未来をマルタに与えるため、俺は神にこう祈ったのだった。


「むー。」(神よ、彼の者に『生』の息吹を与えたまえ。彼の罪が消え去るほどに。彼の心が慈悲を求めるほどに。ただ残酷に、無慈悲に、彼の悲鳴をお聞きになる様に。)


さっきから俺が口にしていたのは『祈祷魔法』という、一種の祈りから発生する魔法である。出典はプリエスプレア教という異常なまでの狂信者が集まった裁判官達の心酔する宗教である。


このプリエスプレア教で行われるのは二つの神を同時に祈る事である。とはいえ、その二つの神というのは具体的には決まっておらず、多神教にも程があるほどだが、今回の様な罪人への裁判に使われる場合には裁判中の行いによって罪が変わるという点だ。


例えばマルタが求めた物が『生』では無くて『金』だった場合、二つの結果が存在する。マルタで例えるとして、今回マルタが先程の様に愚かな行動だった場合、マルタの体は全てがただの札束に変わる。その金をどれだけ集めて人の形にしたとしても、マルタの体は元に戻らない。札束に意志も宿りもしないのだ。


しかし、裁判の中で本当に反省して、更生することを誓うことができるならば、与えられる『金』は少々違った物となる。マルタには一切の金は手に入らないが、マルタの行った罪により被害を受けた人間にそれに値する金が届けられる。しかしその金はマルタが未来で稼いだ金だ。マルタが神こら貰った金ではない。しかし、マルタはこれで罪を償いやすくなる算段だ。


つまり、前者は即死刑並の罪で、後者は罪を背負いながら生きることとなる。だが、『生』の場合の死刑とはどうなるのだろうか?『生』を与えれば生きてしまうのでは?と誰もが思うだろうが、正直言って『生』を与え続けて殺す事なんて少し考えれば簡単な事なのだ。


人間の『生』に必要な物の中には『食事』、『水』、『空気』の三つがある。本来なら『記憶』や『適度な運動』、『地位や名誉』に『金』も必要かもしれないが、今回の話では前者の三つを使うことでまさに『生』を使って人を殺すという事が可能となる。


『生』に必要な物は常に取り続けているのでは無く、補給した後に別の形にして排出している事が多い。『食事』『水』『空気』などは分かりやすい。だが、もし取り続けたらどうなるか………その答えは明白だろう。容量がいっぱいになり、破裂する…………それだけだ。


「な、なんなんだよ!!く、空気が止まらねぇよ!!何が起こっているんだよ!!」


今回は『生』の息吹ということで空気だ。空気は『生』に

必要な酸素を体の中に取り込み、二酸化炭素を吐き出す。二酸化炭素は『生』には必要ない酸素の絞りかすのような物だ。


しかし、絞りかすである二酸化炭素を体の中に残すという行為はしない。どれだけの昏睡状態だとしても、呼吸という二酸化炭素を吐き出す行為は人間なら誰でも無意識に行っている。


ならば、その呼吸の概念を壊してしまったらどうなってしまうのだろうか?例えばただ空気をため込んでいくだけになってしまったら………そうなると、人間の体はどうなってしまうだろうか?


まぁ、この祈祷魔法で行われるのはマルタの体を風船のようにするだけなのだけど、少々即死とは違うようになっている。それはマルタが自分の犯してきた罪を自覚するための時間と、犯してきた罪がどの様にして自分に戻ってきているかという事を認識させるための措置だ。


「あがっ………ご………な……なんで……ゆ、指が膨らんでんの?なんでここまで膨ら………あ……あぁ……あ……指が!!俺の指がぁぁぁぁ!!!!」


普通ならマルタの体に二酸化炭素のみが大量に蓄積され、酸素を取り入れる間もないようになるという現象が一番現実的かもしれないが、そう言うことは無い。常に空気が入り込んでいるため、酸素を取り入れる事も可能なのだから、俺はこの様な現象で殺す事を最初から選択肢に入れていない。


ただ、さっきマルタが叫んだのはマルタの指が血液中に二酸化炭素が増えることで静動脈に通る酸素の無い赤黒い血が多くなり、静動脈がはちきれそうに太くなっているからだ。遠目でよく見えないが、俺の仮説は間違っていない。


ただ、膨らんでいるというのはマルタの体に物凄い勢いで入ってくる空気がマルタの右手の親指に集中しているからだろう。本来ならばそこに集中する事は無いが、これは『祈祷魔法』という本来ならオカルトやSFとして処理される物で、普通の常識など一切通用しない。


「や、やめて……くれ…………。お、俺は謝ったって………言っ………て……るじゃない……かぁ………。あ………あああ…………やめれぇぇぇぇぇぇ!!」


マルタは、力一杯叫んだが、それを気にしていないかのように彼の親指は、元々の大きさの8倍程の大きさにまで膨らんで、赤黒い血管を皮膚がまるで機能していないかのような太さになってから、肉と骨をぐちゃぐちゃに飛び散らしながら、「パン」と見た目と似遣わないような軽い音をたてて、破裂した。

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