闇の巫女part イーステルムの意見箱-1
今回からしばらくは闇の巫女partに入ります。前話で丁度いいような区切り的な終わり方になったので………。
闇の巫女partでのイーステルム編は残酷な描写やら、想像力が激しいとグロい15禁レベルのシーンが唐突に出てくるような話の作りになっている事があります。
話の構造上、本でいう所の一冊目分が闇の巫女partのイーステルム編辺りで終わる事になります………分量的に。
二冊目分では聖者達partは控えめにしたいと思います!!というのと話の都合上、またも精霊partが見送られます。………まぁ、ここにも残酷というかグロがありますし………。
闇の巫女part、軽く80話振りですが、再開させていただきます。
イーステルムという国に一日で着いたのは予想外だったと思う。あくまで国の領地の中に……の話だが。まぁ、後から段々と大変になってくるのだろうけどと思いながら。
なぜならば、イーステルムという国は四つの円のような構造をしているからだ。一番外側は川というか堀、そして広大な農地と農民の住む村、商業的な事の中心である石造りの城下町と来て中心にイーステルム王国の城があるのだった。
一日目は王家などの評判やら勇者などの転生者について聞いてみることにして、農村の内の一つに寄ってみた。すると、こんな証言があった。その言葉は五人くらいが代表して旅人の俺に話してくれたのだ。俺はその話に頷きながらスケッチブックにした石版に文字を書いて対応するのだった。
「あぁ、今の王は勇者をもてなすことしか考えておらんよ。今回も勇者を呼んだが昔は何年も王都に滞在したらしくてなぁ。そのせいで儂ら農村の作物の収穫量は年々減っていったんじゃよ。」
『どうして?』
「そりゃあ王家の殆どの人間が儂らの畑作のやり方を理解せんで全部持ってこいと言うんじゃ。儂ら村人の食べるための麦も全部じゃぞ?到底この国には王に相応しゅうない人間ばかりが早く生まれる傾向でもあるのかと疑うぞ」
「そうそう、第五王子がなんとかしてくれていなきゃあ、俺達は今頃飢えて死んでるよ。年々作物が減るのは王家が無理に穫れる作物全部を持ってこさせようとするからだよ。」
「あれのせいで元々痩せた土地のこの畑では何も穫れなくなるんだよ。ここの畑作は全部を収穫するんじゃ無い。次に繋げるために三分の一は肥料にするために潰しているんだよ。」
この国では肥料に家畜の糞やらを使うのは禁止されているらしく、肥料として使っているのは穫れた作物らしい。それを潰して肥料としてを繰り返してより質が良く、量も多くしていったらしい。
『それができなくなったから一気に穫れる量が減ったの?』
「嬢ちゃんよく分かってるじゃねえか。そうなんだよ………潰して肥料にする事をしなかった次の年………急に量が減った。しかも質も悪くなっていたよ。」
「勇者なんかが来る前にはイーステルムの麦って言えば質良し味良し白み良しだったのがいつの間にやら粗悪品だ。」
「この村でも大分挽回していたんだがなぁ………。元勇者が三年前にようやく老衰したから有り難い事に王家も全部持ってこいとは言わなくなった。だが、また全部持ってこいと言われるんだぞ?」
「勇者も勇者だ。俺達が汗水流して育てていた麦も野菜も俺達より汗を掻かずに貪るんだからな。今回の勇者はさらに酷いという噂が城下町に行く男達が噂してるよ。」
正直勇ノ宮の行動パターンは読めている。アイツのことだ、多分勇者になったから合法で飲める酒と、大量の食い物を取り巻きどもと貪りながら、一歩も城下町の外から出ずにのんびりしているに違いない。しかし、念のために聞いておく。
『どんな噂ですか?』
「なんでも城下町から一歩も外に出ずに一日中食事処で酒や料理を貪っているらしい。しかも値段は十分の一でいいとこ、酔いが酷ければ一銭も払わずに出て行くらしい。」
「しかも、酷い日にゃ娼婦の館に入り浸って一日中お盛んなって話だ。いんや、これは三年前に死んだ奴か。でもどうせ二の舞だ。大して変わらないだろうぜ。」
「正直、巻き込まれた他の奴が不憫だと聞くぜ。なんでも一時間ほどで勇者に切れられて王の命令から城下町から追い出されたらしい。」
「聞いた聞いた。なんでも転生した時に手に入った武器は全部置いて行かされたってさ。しかも城下町の東北の方角にだ。南ぐらいならまだ農村が近いが、東北の方なんてコボルドやらオークなんかがウジャウジャいる森が近いじゃねえか!」
「殺す気満々だぜ?イーステルムは狂ってやがんだよ、本当にな。役に立たない勇者共のために俺達と同じ場所から転生してきた仲間すらも圧迫するんだ。」
なるほど、予想通りだった。勇ノ宮は何も変わらなかったらしい。小説の中の勇者として転生した者は、様々な試練を経てより正義の心を持って勇敢になっていく事が普通なのだろうが………それは環境の違いからそうなるだけだ。
転生者の人格が変わっていく事に必要なのは!ある意味でのサバイバル…………環境の逆転である。事実現代世界と異世界では勝手がかなり違うことなどもっての他だろう……風呂や食事などのために奮闘する物語だって少なくは無い。
だが、全てが変わるわけではない時もある。元の世界からの人間関係やらだ。しかし、基本的に主従関係などもリセットされることがある他、恋愛なども発展する時もある………が、勇ノ宮の場合、一般的にもてはやされる地位が変わらなかった事が原因でそのままなのだろう。
勇ノ宮は俺を苛めて来たものの、非難の目はあくまで勇ノ宮に行っていた。第一、俺だけが苛められる原因は何一つ無かったのだ。勇ノ宮は俺の粗ばかりを探すばかりで、俺を越えるということは一切しなかった。いや、勇ノ宮は俺をとっくの昔に越えていると思ったのだろうが……結果は違う。
イーステルムで勇者としてもてはやされている人間は弱い。いや、弱すぎないほどに弱いと言うべきか。俺のこの世界での父親であるキラクのお遊びにラスボス感を出しながら倒すのだから。
……………多分、イーステルムのような愚なる王でなければ、同じ条件で追い出されていたのは勇ノ宮達だろうと思うと笑みがこぼれる。時間があれば他のクラスメイト達の救済もしようと思いながら、俺はスケッチブックにこう書いた。
『どこまで勇者と王族が死ねば、嬉しい?』
すると当たり前のような答えが返ってきた。予想通りだと確認してから、俺はまた別の質問をスケッチブックに書いていく。しかし、どれだけ嫌われているんだと内心で笑いながら、勇者勇ノ宮純一を殺しに行くために、俺はスケッチブックに質問を書き続けるのだった。
第五王子以外は殺して良しの言葉の余韻を味わいながら。