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第十二話 会談の裏側

前回語られなかった会談のお話。。。

「お互いすっかり父親になったな」


 部屋を出て行ったユウとリナが見えなくなったと同時にマルスはつぶやいた。


「お前は相変わらず親バカ丸出しだったがな」


 私は苦笑しながら目の前にいる親友に話しかける。娘を紹介する時のニヤケ顔はしっかりと見ていた。


 娘が生まれたと知らせを聞いて7年前会いに行ったとき、そこには小さい頃から一緒に無茶やってきた親友ではなく、一人の父親としての顔があったのを思い出す。


「子供ができると、昔の自分を見ているようで思わず微笑んでしまってね」


「うちの息子は俺にまったく似てない気がするよ」


 少なくとも私が子供のころはもっと騒がしかったと断言できる。


「そうか?あの目元はお前そっくりだと思ったが」


「顔は似ていても性格は遺伝してないな、あれは」


 そんな他愛もない親バカ話をそろそろ切り上げるため私は本題を口にした。


「それで、今日は突然押しかけてきたりして……何かあったのか?」


 わざわざ直接出てきたので何かあったのかという考えが頭をよぎる。


「いや、特にこれといって問題は起きていないが……不安なことがあってね」


「不安?」


 この目の前に座る親友が不安になるなど滅多にない。私は少し身構えながら話の続きを聞く。


 マルスは少し躊躇っていたが、すぐに顔を引き締め話を続けた。


「君の息子である、ユウ君のことだ」


「…!?」


 唐突に出てきた自分の息子のことに驚きを隠せなかった。


「この間のお前が率いた狩りがあっただろう?あれにたまたま、うちと契約している冒険者が参加していてね」


「……それで?」


「狩りの最後のほうに、君の息子が魔法を使うとこを見たらしい。そして……明らかに6歳のレベルを超えた魔法を見た、とその冒険者は言っていてね」


 なるほど、今回の突然の訪問の理由が分かった気がした。


「それでお前は釘を刺しに来た……というとこかな」


「いや、お前の息子だから魔法の才能があるのは分かっている。しかしこないだの狩りでユウ君の才能に気付いたものが密かに動き出している」


「やはり……か」


 ユウに目をつけている奴らがいるのは気づいていた。

 

 私もこの目で狩りに使った魔法を見たわけではないが、中庭で見たユウの魔法は明らかにそこらの冒険者の魔術師を超えていた。


 今貴族たちの間では有能な人材を確保しようと躍起になっている。これ自体は昔から行われていることだ。


 しかし、ここ近年魔物が急激に増えたり異常気象による作物の不作が続いている。


 そのため貴族たちは自分たちの身を守るため独自の戦力の強化、それに加え食糧確保による領地の拡大など、それぞれ行動を起こしている。


「一応お前のことだ、危険については察知していると思う。だが、今後狩りなどに出すのはやめたほうがいいと思ってな」


「警告感謝するよ」


 親友からの警告を受け、私はある秘密を打ち明けることにする。


 本当ならいう必要はない。しかし、私はここで彼に言っておかなければならない気がした。


「マルス、お前に一つ言っておかなければならないことがある」


「なんだ?」

 

 真剣な気配が伝わったのか、マルスは先ほどまでの親友としての雰囲気ではなく、マルス辺境伯として話を聞く態勢になっていた。


 本当にいうべきなのか?少し私は迷う。


 しかし、息子の情報はいずれ彼にも伝わるだろう。遅かれ早かれ彼の情報網は私を上回っているのは分かっていることだ、いずれ彼もこの秘密に気づくだろう。

 

「……ユウはおそらく神級の魔術師だ」


「なっ……!?」


 さすがにマルスでも驚いたようだ。驚愕した顔のまま私に問う。


「それは本当なのかアスラ?」


「ああ、Sランクの魔水晶を5秒で粉々にした」


 正直これはあまり人に言うべきことではない。


 だが、目の前に座る親友は息子の危険を察知し知らせてくれた。それもわざわざ自ら私の家に出向いて、だ。


 親友には話していいだろうと思い、私は真実を告げた。


「なるほど……、しかしそれは厄介だな」


「どういうことだ?」


 マルスは険しい顔をして私を見る。


「パルディアの蜘蛛が動き出している、と部下から聞いてな。聞いたときは何を世迷いごとを……と思っていたが、お前の息子が神級と気づいているとしたら動き出しても不思議ではないな」


『パルディアの蜘蛛』


 ここ数年、突然現れた黒の教会という魔物を信仰した宗教の戦闘部隊であり、その中でも王国騎士団とも互角に戦うと言われている精鋭部隊だ。


 しかしパルディアの蜘蛛は滅多に表舞台には出てこない。なのでマルスも何かの間違いと判断したのだろう。


「この話は私を含め一部しか知らないはずだ」


「彼らはどこにでも潜んでいるからな、情報網だけなら王国クラスだろう」


 黒の教会の魔物を信仰するその思想と独自の戦力の危険性から、王国でも要注意とされあちこち情報を集めているのだが、一向に詳しいことは分からず王国側も手を焼いている存在だ。


 そんな連中が自分の息子に目を付けた……


「ひとまずパルディアの蜘蛛については引き続き調べておくとしよう」


「すまない」


「なに、親友の息子が危険と言われれば協力はするさ」


 力強く笑う親友に励まされ、力なく笑う私は話を続ける。


「それじゃあ、今日はここらで帰るとするよ、仕事が溜まっていてな」


「ああ、わざわざすまなかった。玄関まで案内するよ」


 二人して部屋を出る。途中ライラに声をかけユウ達を連れてくるように言う。







 玄関で待っていると、ユウとリナちゃんが楽しそうに話しながらやってきた。


 いつの間にあんなに仲良くなったのか……


 まあ同年代の友達というのがいなかったしな、とそんなことすら気づいてやれなかった自分を反省する。


 子供たちが来てからは最初のようにお互い貴族として接する。二人の時だけ親友として話す……という私とマルスの暗黙の了解だ。








 二人を見送った私は執政室で一人考えていた。


 もしパルディアの蜘蛛に襲われれば、ユウなどたやすく連れて行かれるだろう。


 それだけは何としても避けたかった。だからこそ、何か手を打たなければ……


 もし何かがあって自分とライラがいなくなった時、ユウはどうなるのか。


 さまざまな可能性を考え、私は一つの決断をする。


 ユウがこの先自分一人でも生きていけるよう、その決断を己の胸の内に秘め私は行動しだしたーーー





アスラは決して無能ではないんですがね……

パルディアの蜘蛛とマルス辺境伯が一枚上手なだけなんです(汗)




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