王道ラブコメ!!
全く王道ラブコメなんかじゃありません!! すみません!!
~王道ラブコメの特徴~
◎食パンくわえて登校
◎おっちょこちょい
◎テンション高い(活発)
◎何故か父と二人暮らし
◎白馬の王子様タイプ男
◎イケメンだが、性格悪い
◎イケメンは超金持ち
◎登校中に激突
「らしいんだよ」
「何が?」
すっかり日も傾いた放課後の教室。私は向かい合っているそいつからそんな話をされた。
「最近小説を書こうと思い始めてさ……。でも、全く知識がないからどうしようもない訳だ。そこで、クラスのヤツに色々聞いてみたら『練習がてら、王道パターンで一つ小説でも書いてみたら?』とのことらしい。俺は甚く衝撃を受けてな。早速クラスの面々に『王道』アンケートを取ってみたんだ。それが、今挙げたヤツ」
「へえ。色々ツッコミたいところあるけど、下手に首突っ込むと面倒なことになりそうだからいいよ。まあ、頑張って」
この男に関わると、決まって面倒事に巻き込まれる。特に興味も湧かなかった私は早々に鞄を引き寄せた。
「そうか。それなら話が早い」
「は?」
「と、いう訳で……」
「え……な、なにが『と、いう訳』?」
私の不安を余所に、ヤツはカバンを漁り出す。嫌な予感しかしない……。
「はいドン。早速その資料を元に作ってみました」
「おぅふっ」
「まあだからさ、早速読んでみて……」
「い、いやだっ……読まないもんっ」
勢いよく席を立つ。即座に腕をがっしと掴まれる。
「は、はなせっ!」
「何故だ。何故読みたくないんだ」
「『アレ? 俺文才あるかも……』と思い始めて小説を書き出したヤツの処女作ほど痛々しいモノはないからに決まってんでしょ!!しかもそれがアンタならなおさらです!!」
「なんて事を言うんだ。編集者気取りかお前は」
「編集者とか関係なく嫌でしょうよ」
「はいはい。ご高名なルポライター様の仰るとおりでございますよ~っと」
「アンタ、ルポライターの意味知って言ってんの? 何いきなり乱暴に文学用語使い出した? 業界人気取りたいの?」
「もういいから観念して読めって」
半強制的に席に着かされる私。
「くぅっ……アンタ、そうやって力を振りかざして、クラスメイトを脅迫? ……こんなことして、タダで済むと思うんじゃないわよ……!」
「俺の小説は生物兵器かなんかか?」
『ひゃっほおおおおおおぉぉうっ!!!! 遅刻遅刻ゥッ!!』
あたしの名前は山田花子! 元気な高校一年生!! 昨日は夜更かししちゃったせいで遅刻ギリギリ!! うえ~ん、新学期の初日なのに遅刻はまずいよぉ~~!!
「テンション高いよ!! うざっ!!」
「活発な少女だ」
「気が狂ってるっていうんだよこーいうのは!! 遅刻しそうでひゃっほうとか正気の沙汰じゃないよ!?」
「そこまで言うか」
『やあ、おはよう花子』
この優しそうな人は私のお父さん! 私が朝起きてみると、いつもこうやってなんと私の朝ごはんまでも作ってくれているいい人なの!!
『お、おはよう! 京介さん……』
「なにこの余所余所しさ!? 気持ち悪っ!! 文学史上、未だかつてここまで余所余所しい親子がいた!?」
「正確には、余所余所しく思って居辛く感じているのは花子だけだ」
「花子なんなの!? お父さんなんだと思ってんの!? 明らかに、朝起きると自動的に朝ごはんを用意してくれている便利なお兄さんとしか認識していないよ!! 『なんと』じゃないよ当たり前だよ!! お父さんだもん!!」
『朝ごはんは?』
『いいよっ! 遅刻しちゃいそうだから食パンだけ食べてくね!! あ、京介さん!! 私のダンベルしらない!?』
「知ってたとして、何!?」
「活発な少女を表現してみた」
「世間がイメージする活発を履き違えているよアンタ!!」
『わわっ!! もうこんな時間!? いってきまぁ~すっ!!』
『プロテインは?』
『今日はいい~』
「今日は……?」
「活発な少女なんだ」
「さっきからただのボディビルダーでしょコレ!」
もお~っ最悪!! これじゃあ完璧に遅刻だよぉ~!
あたしがダンベル片手に猛ダッシュで曲がり角を曲がった……その時!!
どっす~~~ん!!
『きゃああああああああ!!!』
宙に舞う食パン、ダンベル、そしてハンドグリップ……。
「野郎……まだ隠し持ってやがった……」
「活発な、な?」
まるでエキスパンダーのバネが切れたように弾かれたあたしは、そのまま勢いよく尻餅をついてしまった。
「例え方っ!!!」
「活発な―――」
「こんの、ふしだらな筋肉フェチがッ!!!」
『いたたぁ……』
『大丈夫かい? 子ネコちゃん?』
『……え?』
そっと目を開けると、そこには……。
文字通り、白馬に乗った王子様がその白い歯を輝かせ、あたしに手を差し伸べていた……。
「文字通りじゃダメだよ!!! ホントに白馬で登場しちゃったよ!!!」
「企画案の通りにやったのだが」
「イメージだってアレは!!」
「いや、オリジナルティのあるものってゼロから作るの難しいし……」
「すっかり主人公に筋肉キャラを定着させてしまった鬼才が何を今更……」
『あ……その……余所見してて……』
私はせっかくだったので、王子様に駆け寄ると、一度しゃがみ直し、その手を握った。
「……ん? この場面……どういう意味合いが……」
「ああ、ちゃんと明記してなかったな。すまない。何分、表現力不足でな……」
「へえ……?」
「そこは、先ほど馬に跳ね飛ばされてしまった主人公が負傷した脚に鞭打って、50メートルくらい離れた場所から王子の下へ走り寄り、もう一度しゃがんでからの状態でその手を握る重要な見せ場だ」
「えええええぇぇっ!! 主人公馬に蹴飛ばされてたの!? 脚怪我してるし! 病院行けよ!!」
「それじゃあロマンスは始まらないだろう」
「50メートル離れた場所にいる少女に向かって、馬上で黙々と手を差し伸べ続けている王子からなんのロマンスを感じ取れと!?」
『怪我はないかい……?キラリ』
『あ……はい』
か、かっこいい……。白馬で登校しているなんて……なんて優雅なの! しかもコテコテの王子ルック……。その誰の目にも明らかなダサさが逆にかっこいい……。スネ毛処理も全く施されていない足に無謀にもカボチャパンツを装着している点を差し引いても十二分にかっこいい……。
『どうしたんだい子ネコちゃん。キラリ』
『あ、いえ……その』
「色々言いたいことあるけどさ……とりあえずキラリは間違いなくウザいから。マジでやめなよ?」
「いきなり冷静に批評されて驚いた」
『む……? その足はキラリ!?』
あ……さっきあたしが怪我した所……。靴下の内側から赤いシミが広がってる……。
『あ、いえ! 全然大丈夫です!! 気にしないでください!!』
『いや、ちょっと待つキラ!!』
「なんか口癖みたいになっとる……」
王子様はポケットからシルクのテーブルクロスを引っ張り出すと、適当な長さに引きちぎった。
『あ……』
『よし……これで大丈夫だキラ。これからはキラつけるキラよ? かわいい吉良ちゃん?』
その純白の布はあたしのその傷を、心まで優しく包み込むかのように巻かれていた……。
「もう何がなんだかわからないよ!! 吉良ちゃんって誰!?」
「悪いね。こういうキャラ作りとか慣れてないから、だんだんこんがらがってきちゃってさ……」
「にしたってこんな間違え方するか!!」
その時……
心臓に……10キロ級が落ちてきたような衝撃が……あたしを襲った……。
「だから例え方!! これどんな心境なの!?」
「勿論、一目惚れでボーイミーツガールでばきゅーんでずっぎゅん落ちた所さ」
「心臓にガンでも患ったんじゃなくて!?」
『おや、もうこんな時間だキラ』
『あ、ホントだ……! どうしよう、急がなくちゃ!』
あたしは急いで四散したバッグの中身、そして魂の兄弟達を拾い集める。
「あ、ちなみに魂の兄弟っていうのは……」
「筋肉マニア!! マッスル上等兵!! この筋 肉夫!! アンタなんか筋 肉夫よッ!!!」
「なんで筋肉関連の話がでると怒りだすのか」
『あ、ありがとうございました!! あたし、急いでいますのでこれで……!』
『待ちたまえ』
「……今ふと思ったんだけどさ、この『王子様キャラ』で突き進むとすると、『イジワルなイケメン』は両立できなくなっちゃうんじゃないの? そこは妥協?」
「ああ。俺もこの辺りを書いてるときにそれを思い出してな……無論、妥協するつもりは無い。だから……」
王子様は白い歯で優しく微笑みながらこう言った。
『死ね』
そしてウインクを投げかけると、そのまま颯爽と走り去っていった……。
「下手糞かっ!!!! 情緒不安定にも程があるぞ!!! もっと言葉を丁寧に選べっ!!!」
「いや、何分未熟者なもんで……勝手が分からなくてさ」
「未熟以前にまっとうな人間の感性を持っているのか!? アンタ日常会話で唐突に『死ね』って言ってくるヤツいたらどう思いますか!?」
「現実と仮想を混合するなよ。大体、屈折した愛情って言葉もあってだな……」
「なにちょっと不満げなんだよ!! 屈折しすぎて殺意しか伝わりませんけども!?」
「さあ、名残惜しいがこの辺りで第一章は終了だ。いやはや右曲左曲、賛否両論あった訳が、最終的にどうだった?」
「間違いなく賛はない」
「マジかよ編集長」
「うるせえよ」
「ごめんな。何分小説とか書かないものだからさ……。至らぬ点ばかりだったのは否めないよ」
「さっきから何かとつけて『未熟』で片付けるの腹立つなぁ~。そこはかとなく自己省察できてますよ感を醸し出してるけど、残念ながら反省でどうにかなる次元じゃないからね。精進しようが無いからもう」
「そんなに救いようが無いか」
「無いよ。二度とこんな真似はやめてね」
「分かったよ……」
そう言うと、何か思いつめるように項垂れた。
……少し言いすぎたかな……?
「だが、最後にいいか?」
項垂れたままでぼそりと呟く。
「最後に……?」
「これ、なんだが……」
そして私は次の瞬間、ほんの少しでも情を寄せたことを、激しく後悔するのであった……。
◎イケメンと学校で再開。なんと転校生
◎「あーっ!! 今朝の!!」
◎みんなはイケメンイケメン言ってるが、私には意地悪な男としか思えず、つい喧嘩ばかり
◎前々から気になってるイケメンもいる。優しい。だが、やはり本命イケメンの前には所詮噛ませ犬に過ぎない
◎優しいイケメン一筋のはずなのに意地悪イケメンを意識してしまう葛藤
◎大切な宝物を落としてしまう。都合よく拾ってくれてる意地悪イケメン。非常にそれとなく返してくれる。
◎イケメンは意外におしとやか系の楽器がうまい
◎そして留学
「な、なにこれ……」
湧き出る冷や汗。それを止める術を私は知らない。
「今後の展開をみんなにアンケートしてみたら、こういう感じらしい」
「そ、そう……でも流石にもう充分なんじゃないかな……」
「言ったはずだ。『第一章は終了』だと」
この汗を止める唯一の方法があるとすればそれは…………エスケープっ!!
「ふ、ふぅん……? ああっ、私そろそろそろばん塾の時間が……」
「はいドーン」
「うぐぇっ」
巨大な地響きを立てながら、四次元バッグから第二の魔王の姿が……。
「早速作ったから、これだけでも見ていってくれ」
「い、いやだっ。頭が痛いよぅっ」
「観念しろっ! 悪いようにはしねえよ!!」
「こ、こんな屈……辱……っ!! うぅっ」
「だから、俺の小説は何を背負っているっていうんだ?」
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