018 旅立ちの前に
結局のところ、向かう先は一つに絞られる。
つまり、
「精霊廟へ行く」
「ま、そうなるわな」
リックは肩をすくめる。一度使者を送り、芳しい返事は得られなかったが、それはそれ。市長がとった政治的な手段でしかない。
だが、カロンとリックが向かうということは別の意味を持つ。それは、不可侵とされる『精霊廟』に対する干渉だ。
「頭の固い連中だが、私のことは無視できまい。そこに期待しよう。それでも無理なら――」
にやり、とカロンにしてはやけに好戦的な笑みを口の端に浮かべる。
リックは呆れるでもなく、
「一筋縄じゃ行かないだろ。何せ、本部は『精霊全部を敵に回して勝つための砦』なんだからな」
一般に知られる組織の印象とは真逆のことをしれっと口にする。このあたり、伊達にカロンの友人、そしてセシリアの幼馴染をやっていない。そして、彼の言ったことは比喩でもなんでもなく、ただの事実だ。
一般に『誤解させている』通り、精霊廟は精霊に対する人間の不可侵を保つ為の組織でもある。その点、誤解ではないのだが、その理由は世間と真逆である。
つまり、
――人間の営みを継続させる為、精霊という存在を隔離する為
である。
それはさておき。
いくら人より魔法力に優れた宿し子であるカロンや、戦慣れしたリックと言えども、手ぶらで旅などできるものではない。
なんとなく、ユウのいる寮に戻るのも憚られたので、いったん旧魔法街の雑貨屋へと赴き、必要な物資を引っ張り出していく。とは言え、ほとんどの主要な荷物を寮の方へ運び込んでいたことが災いし、旅装は完全には整わなかった。
「仕方ない。フォルのところで仕入れるか」
「それが妥当かね?」
というわけで、とりあえずかき集めた品々を鞄に詰め込み、フォルの店へ。
「おやおや、二人してどうしましたか、まるで今から旅に出るようじゃないですか? いや、まさかその通りなのですか? いやー、さびしくなりますねぇ!」
返事も聞かないうちから一人で納得し始め、さらには勝手に寂しがる始末。いつも通りと言えば、いつも通りではあるのだが、
「お前が情報をつかんでないってことはないだろ。つまらん三文芝居はよしてくれ」
「まあ、ある程度の動きは掴んでおりますとも。おりますが、貴方がどう動くかは、貴方自身にしか決められないこと。所詮、それは情報とそこから来る推測であって、決定事項ではないですからね、はい」
真面目腐った顔で宣うフォル。口の端に忸怩たる思いが滲んでいるのが、彼らしくない。
だが、彼が気に病む理由もわからなくはないのだ。
彼の言う通り、情報を得ることと、それを活かして立ち回れるかは別問題なのだ。
さらに、カロンとフォルの生まれに付きまとう宿し子という宿命。世に影響を与えうるからこそ、フォルは動けない。
動くことを制限する代わりに彼は知る。知ることで回りを動かす発端となる。そう生きることを決めたと、かつてフォルは言っていた。
「知りたいのは司祭の行方、そしてその真意、といったところでしょうか?」
飄々とした態度に戻り、彼は問う。
リックは問いの内容に口の端を歪め、
「やっぱ侮れ―な、アンタは」
「ははは、そう言っていただけると、情報を集めたかいというものがありますよ。さてさて、どこから話したものでしょうかね?」
人の悪い笑みを浮かべ、フォルは事の起こりを語り始めた……




